漆黒の華 ラナンキュラス 一の舞を舞う
杖を構え敵を見据える。
怖いと言う気持ちはあるけど、大丈夫、立ち向かえる。
ギリリと強く睨むように、相手の動きを逃さないよう見つめる。
黒ずんだ蔦は初めの時より気持ち長くなってるように感じた。
ゆらゆらと動いていたそれが、ブォンッと音を立ててこちらに振るわれる。
―― 早いッ!!――
変わったのは雰囲気だけではない!
格段にスピードが上がったその攻撃を避けきるのは無理だと判断して、私は聖句を唱え、結界を張ろうと杖を前方に向けた。
が、
「止めろ、光の!」
ついさっきまで少し離れてツタモンへと身体を向けていたラナンキュラスが片足を主軸にして、反転しながらこっちに近づく。
「ひょわっ!!」
それを確認したと同時に不意にヒザ裏に衝撃が走り、私はガクンとその場に落ちた。
その一瞬後、私の頭上をブゥンッと空を切る音が聞こえた。
ゾクッと寒気が走る私にラナンキュラスの叱責が飛ぶ。
「一々≪異能≫で受け止めて無駄に消費するな!じり貧になるぞ!!」
その言葉を言い終えたら直ぐに首後ろの襟を掴まれ強制的に立ち上がさせる。
あまりにぞんざい過ぎる扱いだ。
「口で言えっ!!」
「言ってる間に聞くべき耳はお前の頭ごと飛んで行ってるぞ。」
ツタモンに顔を向けたまま怒る私に物騒極まりないことを告げるラナンキュラス。
確かにその通りだったので反論できず歯噛みしてしまう。
「いいか、光の。お前は自分の≪異能≫に頼りすぎだ。相手がどんな能力を持ち、どれだけの容量キャパシティがあるのかも分からない内に自分の全力を晒すな。」
「うぐっ…。」
まるでサージェスさんみたいな事を言い出すラナンキュラス。
いつもの軽口と違いマトモすぎるその言葉にやはり反論できず言葉を詰まらす。
そんな説教みたいな物言いをしながら、ツタモンからの攻撃を舞うように華麗に捌いていく。
調子に乗ったのか、捌いていたツタモンの蔦の一つを大鎌の柄の中心で受け止めたせいか、絡み取られてしまった。
慌てて大きく後ろに跳んで退き、間合いを取るラナンキュラス。
「ちょっと偉そうに講釈垂れてる間に武器取られちゃったじゃない!!」
私も慌てて後ろに下がった後に間抜けなラナンキュラスを責め立てる。
そんな私にラナンキュラスは心底呆れたような雰囲気をだしながら、ため息をつく。
「あと、すぐにカッとなりすぎだ。冷静に行動……まぁ、無理だな。お前には。」
計算通りだと言わんばかりだ。
というか、今失礼なことを言われたと気付き、更に口を開こうとしたが、ラナンキュラスは大鎌の方に軽く手を振りかざし、
『融けて霞みて揺蕩え爆ぜろ』
聖句……ではない筈だけど、それに似た呪文をラナンキュラスが唱えた。
その言葉に反応して、奪われた大鎌が霧や霞のようにツタモンの周辺に散り、
―― バンッ!バンッ!!パンッ!! ――
と、大きな爆発音と共に破裂する。
こんな能力の使い方を見たのは初めてで、素直に「……凄い。」と感想が口からこぼれた。
爆発が巻き起こした砂けむりが落ち着き始め、ツタモンの姿は――――
―― 嘘ッ!!?――
なんの変化もなくそこに佇んでいる。
ダメージなんて全く受けてないようだ。
「効いてないの!?」
驚く私と対照的にラナンキュラスは予測していたらしい。
「フン…、やはりか。」
冷静沈着なラナンキュラスの方に視線を向ければいつの間にか、大鎌を再び手にしていた。
「………どうやら、さっきの締め付けが良くなかったらしいな。耐性が付いたみたいだ。」
まるっきり他人事のように呟くラナンキュラス。
「…じゃあ、どうすんのよ!」
それどころじゃないとキチンと理解はしているけど反射的に噛みついてしまう。
そんな私の態度を気にもせず、ラナンキュラスはヒタリと私を見つめ、
「おそらく、お前の攻撃は効果があるだろうな。」
そう言った。
私は驚きラナンキュラスの目を見つめ返す。
「お前は確かに雑魚状態のソレを倒せない未熟ヒヨコだが…」
「はァッ!?ケンカ売ってるの!!」
一々人を馬鹿にしないと言葉を発せられない呪いでもかかってんのかッ!?
無意識に拳を握りこみながらも、殴りかからないように我慢する。
「潜在能力自体はかなりの物だろう。」
唐突に褒められ、またラナンキュラスを見つめてしまう。
そのラナンキュラスの眼が一瞬だけ複雑な色合いを現した気がした。
「単純に使い方がなってない。俺の得物は俺自身が創り上げているが、お前みたいに無駄に消費しないように調節しているから、途中で空っけつになったりしない。」
大鎌を軽く持ち上げ私に見せる。
確かに、私が杖を自分の≪奇跡≫で創ってみようとしたら一瞬だけ形作って、直ぐに消えてしまいそうだ。
「能力をコントロールするには最初こそ意識し、調整しなければ維持することは難しい。だが、常時使用し続ける事で、感覚に覚え込ませる事で、無意識でも能力を使いこなす事が出来る。」
要は慣れだ、そう説明するラナンキュラスに、そう簡単に出来ないんだと心の中で反論する。
「……確かに皆にはそう言われてるけど。」
言ってることは分かってるんだけど、でも言われた通りに聖句を唱え、集中し、制御する、って一辺に出来ないのだ。
そんな私の心情が顔に出たのかもしれない。
はぁ、とため息をついて、ラナンキュラスはツタモンの方へ一歩歩みでて、「仕方ない、お手本を見せてやろう。」と、大鎌を構え直す。
「感覚的に掴め、悠長に覚える時間はないぞ。」




