そして再び華は咲く
今回で一章は完結です。
新たな章は少々時間が開いてしまいますが…。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
「ここでいいか。」
アレイシアの前から去り、先ほどの位置より国境近くの方へと場所を変えた。
狂暴な大型の獣や話の通じぬ蛮族が出没すると云われる危ない地域の為、邪魔は入らない場所だ。
蔦野郎の残り滓の始末の為に来たわけだが。
「もう消えかけだな。」
巨体はここに来るまでにボロボロと朽ち果てていった。
ここに在るのは子供のサイズくらいにかけてしまった僅かな残骸。
それでもこの状態で残っているのはやはりイレギュラーだ。
あの時のアレイシアの攻撃は凄まじく、力だけみれば確かに≪光の神子≫という名が相応しかった。
今までの≪異形のモノ≫なら跡形も残らなかった筈だ。
―― だが……… ――
コイツがイレギュラーなのか、それとも≪異形のモノ≫が時が経つにつれ認知されていってるためか。
どちらでもいい、やるべきことをやるだけだ。
俺は自身の≪異能≫をまた武器へと変える。
今にも朽ち果てそうな蔦野郎に止めを刺すため刃を振り下ろした。
音も立てずに黒い塵へとかわり、空中に漂い消えていき、そして、
『時が来ればまた……』
「―――ッ!!?」
頭に囁くように聞こえた微かな声のようなものに驚き、俺は慌てて辺りを見回すが誰もいない。
気のせいだったのだろうか…………。
色々とイレギュラーがあったしな。
「………あぁ―、…しんど……。」
乾いた大地に寝転んで、手足を投げ出しながら呟いた。
蔦野郎との戦闘がようやく終了した事に安堵し、俺は砂ぼこりにまみれたマントの中を探り煙草を口に咥えた。
紫煙を燻らせ、黄昏た空をぼんやり眺める。
アレイシアとの先ほどの遣り取りが思い出された。
「あんたは何故こんなことしてるのよ!」
「……他にやる事がないからさ。」
「………何まともに答えてんだか。」
その後の軽口で誤魔化せただろうが、素の俺で答えた事に後悔している。
「何故こんなこと……か。」
昔は選択肢が他になかったからだ。
少なくとも異能があっても、子どもの俺に他の生き方なんて考え付かなかったし、わからなかった。
だが…………、今は?
ある程度世間は知ったつもりだ。
生活していく手段は他にもある事は知った。
悪の結社とはいっても、そこまで権力はなく、国家の組織ではあるものの、今はまだ小さな部隊だ。
正直、こんな事実を暴露したところで異能者の与太話で処理される程度、足抜けしても本気で追っては来ないだろう。
そんな事を考えながら、あまりの馬鹿馬鹿しさに鼻で嗤う。
―― 一体何処に逃げるんだ ――
帰るべき場所も、行くべき場所もありはしない。
目を瞑れば遠い記憶が頭を過る。
鐘の音に、銀の鎧の騎士の背中、その背後に俺たち弱者が立っていて………。
「……あぁ、そういえば、昔はなりたかったんだったっけ。……正義の味方に。」
何も知らなかったガキの頃、バカみたいに無邪気に夢見てたな。
あの頃想像してた未来から驚くほど遠い場所にいるけど…。
『…≪漆黒の華≫、聞こえる?』
頭に響く仲間の声に隠すこと無くため息をついた。
「……聞こえてますよ~。今まで応答もなかったくせに……何の用だ。」
『…異形の者の出没の確定が出た。…貴方が一番近くにいたから出演願いたい。』
恨み節をこぼしてみてもあっさり無視された上に、また新たな茶番に更に憂鬱になっていく。
「……やれやれ、アンコールか。人気者は辛いな。」
気怠い身体を叱咤して、ゆっくりと立ち上がり、砂ぼこりをはらった。
―― 結局この舞台で踊る道しか選べないのだろうな。 ――
自嘲し、最後にと煙草の煙を吸ってから投げ捨てる。
「さぁて、悪の華を咲かせましょうか。」
煙草のポイ捨ては犯罪に抵触する可能性があります。
必ず灰皿へと捨てましょう




