華の望むもの
暴力的な光の攻撃の直撃を受けた蔦野郎はその場に崩れた落ちた。
本体から生えていた蔦はボロボロと焼けた灰の様に消えていくが、蔦野郎自身は形を留めたまま動かない。
≪異形≫特有の存在感が薄れていっている。
「…やれやれ、とんだ欠陥品だ。」
ため息をついて、俺はさっさと幕引きにはいる。
アレイシア側から見て俺はきちんと悪の結社の人物役を演じられていたのか正直疑問なところだ。
今は一刻も早く姿を眩まして次回へ仕切り直したい。
「さてと、用も済んだし、上に報告しなきゃならんことも出来たし俺は帰らせてもらうぞ。」
そう告げて上の岩場へと軽く飛び上がる。
正直このまま地面に倒れ込みたいが、茶番が続いている以上はそうも行かない。
アレイシアの方を見下ろしてみれば、彼女もまた先ほどの正義の鉄槌で力を使い果たしたのだろう、膝を着いて座りこんでいる。
「コレの始末を手伝ってもらった礼だ。見逃しといてやるさ。」
俺は蔓で巻き付け、蔦野郎を引き揚げる。
弱っていて今にも尽きそうではあるが、確実に消さなければ安心は出来ない。
迂闊にこちらへ干渉されないように注意を払いながらこの茶番に幕を下ろさなければ。
「……ではいずれ」
「…ま…ちなさいよ…。」
――おい、今終わらそうと定例の挨拶をしかけてるのに邪魔をするなよ。――
そんな俺の心中を無視して、アレイシアは杖を支えに立ち上がろうとする。
こちらも結構厳しい状況だし、まだやるべき事が残ってんだから今度に回してくれないか?
もちろん、相手には聞こえていないのだから話しは続く。
「…とりあえず…あ……いや、違う、そうじゃなくて……あんた、あの化け物使いこなせてなかったじゃない。」
「……まぁ、さっきの欠陥品に関しては否定はしないな。」
俺は慎重に考えて答える。
迂闊に口を滑らせれば、いくら単細胞相手とて誤魔化しきれない。
「……ねぇ、…あんたは何でこんなことしてるの?」
真っ直ぐにこちらに向かって問いかける。
「……どうした?真面目な顔して。さっきまであんな間抜けな呪を使ってた癖に。」
「茶化すなッ!!」
あえて巫山戯てみたが通用しないようだ。
俺の行動に疑問を持ってるのか。
異形を下僕として従えられていない、そう考えられている…?
「…教会の連中から聞いていないのか?世界の覇権を握るために行動している。今回はその為の試運転だ。」
「失敗したみたいだがな。」とあくまでも今回はイレギュラーだったと強調する。
「それは、あんたら組織の目的でしょ!!」
「………?」
―― 何を確認しようとしてる? ――
「≪漆黒の華≫!あんたは何をしたいの!?何故こんなことをしてるのよ!?」
意味が分からない。
"本当に≪悪の結社≫は存在するのか"なんて聞かれたらどう答えるかを考えていたのに。
どういう意味だ?悪の結社ではなく、漆黒の華の目的?
そんなものはない。
強いて言えば、
「他にやることがないからさ。」
気がついたらそう口を滑らせていた。




