華と光の共演舞台 其の一
初手は蔦野郎からだ。
短くなっていた筈の蔦は再生したのか元の長さ、いや、先ほどよりも長くなっているように見える。
唸るように振るわれるソレは勢いも増しているようだ。
「止めろ、光の!」
先ほど同様、咄嗟に光で薄い壁を作ろうとするのを止める為、俺は大鎌の柄でアレイシアのひざ裏を軽く打つ。
「ひょわっ!!」
相も変わらず間抜けな奇声をあげ、その場に崩れ落ちた彼女の頭上を『ブンッ』と音を立て、蔦が通り過ぎる。
「一々≪異能≫で受け止めて無駄に消費するな!じり貧になるぞ!!」
直ぐ様、崩れ落ちたアレイシアの首根っこを掴んで引っ張りあげ体勢を立て直させた。
「口で言えっ!!」
「言ってる間に聞くべき耳はお前の頭ごと飛んで行ってるぞ。」
蔦野郎から目を離さないのは褒めてやりたいが、文句を言わずに集中して欲しい。
この際だ、今の内にレクチャーしよう。
この先その方が仕事をしやすくなる。
この先があればだが。
思わず不吉な未来が脳裏に掠めたが、それを振り払い俺は口を開く。
「いいか、光の。お前は自分の≪異能≫に頼りすぎだ。相手がどんな能力を持ち、どれだけの容量があるのかも分からない内に自分の全力を晒すな。」
「うぐっ…。」
更に蔦が襲ってくるのを大鎌の柄で受け止め、それが絡み付いて来るのを確認して、俺は得物から手を離し、後ろへ引く。
その間同じくアレイシアも後ろに下がっていたが、俺が得物を奪われたように見えたのか
「ちょっと偉そうに講釈垂れてる間に武器取られちゃったじゃない!!」
いつも通り噛みついてくる。
通常運転なのは何よりだが………。
「あと、すぐにカッとなりすぎだ。冷静に行動……まぁ、無理だな。お前には。」
わざとらしくため息をつきながら、俺は蔦野郎に奪われた大鎌に意識を向け唱える。
『融けて霞みて揺蕩え爆ぜろ』
呪を紡ぎ、想像する事柄を強める。
元々は俺の闇の≪異能≫を大鎌に変容させていたのだ。
それが本来の闇の≪異能≫へと戻り、辺りをうっすらと包み込み、そして――
―― バンッ!バンッ!!パンッ!! ――
大きな音を鳴らしながら広範囲で爆発する。
「……凄い。」なんて小さな感嘆の声が聞こえてきたが…。
何事もなく佇む蔦野郎に想像通りではあったが、少しだけ落胆する。
やはり効いてないか。
「効いてないの!?」
「フン…、やはりか。」
驚愕するアレイシアに言外に想定内だと伝え、再び闇の大鎌を造り出す。
結社内でも非公表にしているが、俺の闇の≪異能≫は≪異形のモノ≫には少々効きづらい。
無効とは言わないが、直接ぶつける程度では物理攻撃よりはそこそこダメージを与える事が出来る位だ。
≪異形≫も闇の能力を持つ存在が大半だったからそれが関係するかもしれないが。
だから今までは≪正義の味方≫の攻撃を当てやすくする、影で動かないように動きを妨害するなどといった形で処理していたが……。
「………どうやら、さっきの締め付けが良くなかったらしいな。耐性が付いたみたいだ。」
「…じゃあ、どうすんのよ!」
適当な言い訳で誤魔化して、俺の攻撃は効かない事をアピールし、
「おそらく、お前の攻撃は効果があるだろうな。」
元々考えていた通り、アレイシアを攻撃の要として進める。
「お前は確かに雑魚状態のソレを倒せない未熟ヒヨコだが…」
「はァッ!?ケンカ売ってるの!!」
「潜在能力自体はかなりの物だろう。」
認めたくはないが。
俺の唐突な褒め言葉にアレイシアは目を見開いて口を閉ざす。
「単純に使い方がなってない。俺の得物は俺自身が創り上げているが、お前みたいに無駄に消費しないように調節しているから、途中で空っけつになったりしない。」
俺は大鎌を軽く掲げてみせる。
これは俺自身の闇の≪異能≫で創っているモノで強度はそこらで手に入れられるモノよりは遥かに上だろう。
≪異能≫の力をコントロールするには最初は意識しなければ強弱を使いこなせないが、常時使用を続けることで無意識にコントロール出来るようになる。
俺たちのような≪はぐれ者≫は隠している奴が多いから難しいが、教会に所属しているなら修練しやすいだろう。
「……確かに皆にはそう言われてるけど。」
俺の説明に理解はしていても納得は出来てないと言った顔だ。
実際に誰かの動作を見ないと分からないか。
―― 仕方ない。まずは俺が見本をみせるか ――




