Prologue
何でこんなことに…
ごく普通に乙女として、十六年間生きてきて、こんなことになるなんて、天国にいる両親は思ってもみなかっただろうに。
【神谷 悠】こと高2の女子。
只今。これでもかというほど大きな門の下で、これから住む高校の寮の前にいた。
文武両道に力を入れる由緒正しき伝統校。
【白劉学園高等部 男子寮】
そう。『男子寮』
なんで思春期の女子が、男子寮に入らなきゃいけないのか。
それは、これまで私を大事に育ててくれたはずの、十歳離れた兄のせいだ。
何故こんなことになったのかというのは、数日前のこと。
―――数日前―――――
『ゆーちゃん。悪いんだけどさー…』
夏休みが終わる数日前。
近くの高校に通っていたあたしは、今年は去年の反省を活かして、宿題を完璧に終えていた。
なので、のーんびりお昼近くに起きると、珍しく兄が仕事に行かず、最近結婚した涼子さんとリビングの机で何かを話し合っていた。
お兄ちゃん―孝弘が結婚するまでは、あたしとお兄ちゃんとで一軒家に住んでいたが、美人で女らしく、お兄ちゃんの一つ下の涼子さんと結婚してからは、あたしが未成年だからって三人で暮らしていた。
いつも色んな意味で熱々な彼らを邪魔したら悪いと思ったから、一人で、朝食兼昼食の食パンをキッチンで立ったまま食べていた。
そんな時に、あたしの存在にやっと気が付いたのか、二人で目を合わせて、お兄ちゃんがあたしに話し出したのだ。
そして、衝撃の事実が告げられる。
『お兄ちゃん達、海外に転勤が決まったから、転校して、全寮制の学校に行ってくれないかい?』
『・・・・・・はふ?(はい?)』
食パンをくわえたまま、あたしは氷漬けになった。
『いやー…ね。お兄ちゃんも涼子も海外に転勤が決まったから、海外に行かなきゃいけない。だからって言って、高校生活真っ最中のゆーちゃんまで連れていけないし、一人で家に置いていく訳にもいかないだろ?』
『…んぐっ。それで?』
つまりかけていたパンを飲み込むと、恐る恐る尋ねた。
お兄ちゃんが子供っぽく人差し指をつんつんして合わせるポーズは、何か言いにくいことを言うときに使う。
だから、ここで恐らくあたしには都合の悪いことを言ってくるでしょう(天気予報士風に)。
『手続きはしたから、すぐにでも通えるようにはしているから…、だけど…』
『…だけど?』
腕を組んで、あたしはお兄ちゃんを精一杯の笑顔を浮かべてあげた。
『ゆーちゃん…目が笑ってないよー…』
『早く言いなさいっ!!』
ビクッとお兄ちゃんが肩を竦めると、うっすら涙目になっていた。
『悠ちゃん、ごめんね?この馬鹿が間違って《男子校》を選んじゃって…』
『へえー、男子校。…はい?』
今、何ておっしゃいましたか、義理姉様。
何か変な単語が聞こえた気が…。
『今、何と…?』
『ん?男子校だよ』
…誰か、夢だとおっしゃってください!!
あぁ、十二時間睡眠で、寝すぎて頭がまだ眠っているんだよね。
うん。
そうだよ。
頬を引っ張ってみるか。
痛い痛いッ?!
『…ゆ、ゆーちゃん?』
不安げに上目遣いであたしを見る兄にキッと目を向けた。
『アンタのせいでしょーがッ!!妹の貞操がどうなってもいいのッ?!学校にバレたらヤバイでしょ!!』
『あ、学校側には、話しを通してあるし、男装すればバレないし』
『誰が貧乳だあぁぁ!!』
『いや、悠ちゃん。誰もそこまで言ってないし…』
涼子さんはやや呆れ気味に呟いていた。
この夏も、普通にTシャツを着て、ジーパン履いたら、以前逆ナンされたことまである。(推定通算777回目)
それほど身体は女の子らしい特徴がない。
顔は、悪くはないとは、クラスの男子から評価されてるらしいという噂は聞いたことがあるが。
って、それどころではなくって!!
んなこと出来るかあぁぁ!!
―――それが数日前のことで、今現在はというと、どうにもならないことは分かってるから、諦めて此処にいる。
本当に昔から疲れる兄だ。
渋々、伸ばしていた腰まであった長い髪をバッサリ切って、ショートカットにした。
なかなか様になってるって兄夫婦に誉められた。
嬉しくないよ、その言葉。
まぁ、とりあえず、足を踏み入れて敷居を跨いだ。
これから、『あたし』改め、『ぼく』の新しい日々が始まる!!
読んでいただき、ありがとうございました。
更新が不定期になるとは思いますが、見に来ていただけたらと思います。
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