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神楽  作者: しのぶ
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1-3

 彼女はこの世に生を受けた時から運命は決まっていた。


 覚えている記憶の中で一番最初に浮かぶのは『死』である。

 手には短刀。顔には鮮血が飛散り、真っ赤に染まったその視界には人間の死体が転がっていた。両親からはそれを褒められたような気がする。この時、彼女が思ったことは喜びである。


 ————人を殺せば自分の両親から褒められると。喜んでもらえると。


 しかしその逆も。

 自分が失敗すれば怒られた。叱られた。罰と称して(くら)に閉じ込められた。

 じめじめと冷え切った場所。カビの臭いがそこら中に漂っていた。でもそれはただの場所。そんなことよりも彼女は一人にされるのが嫌だった。誰もいない。誰も見ていない。誰も自分の存在をひて老いるような場所。それがなによりも嫌だった。


 ご飯も食べれなかった。眠ることさえ許されなかった。だから彼女は戦うしかなかった。褒められるために、ご飯を食べるために、眠るために。そして、一人にならないために、生きるために。


 そんな彼女だったが、いつ思ったのか。気がつけばそんな家を飛び出していた。別に戦うことが嫌になったわけではない。叱る両親が嫌になったわけでもない。だったらなぜか。


 ある戦場で思ったのだ。


 今、自分が戦っている場はちっぽけな大地にすぎないと。彼女にとって戦場とはただの場所。人が人を殺し、そしてまた人を殺す。ただ寝て起きるだけのような場所だと思っていた。毎日そんな生活をしていた彼女にとってそれは退屈になってしまった。だから、衝動的に彼女は飛び出していた。両親にはなにも言わずに、同郷の人にもなにも言わずに。

 

 ————もしかしたら彼女は誰かを求めていたのかもしれない。自分を見てくれるそんな存在に。


 外へ出た彼女の目に映ったものはどれも新鮮で眩しかった。

 誰も殺し合いをしていない。人の悲鳴も聞こえない。鮮血を目の当たりにすることもない。こんな世界がこの世に存在しているのか。最初は誰もが自分を騙しているのか、疑ったぐらいだ。しかしその疑惑も時が経つにつれて薄れていった。


 ————これが本当の世の中なのだと。今までの自分が普通ではなかったのだと。


 そんな時、出会った——出会ってしまった。

 一人の男に。

 気だるげな眼をし、白く染まった髪を掻きむしりながら、突然。


 本物だと思った。彼女が今まで見てきた中でダントツに。


 気がつけば彼女は本能に任せその男に戦いを挑んでいた。そんな中でも自分の中に一族の血が流れていることに嫌気がさしそうになったが、それよりも先に彼女はこの男と戦ってみたいと思う衝動の方が(まさ)った。


 まったく歯が立たなかった。こんなにも圧倒的に力を見せつけられたのは初めてだ。

 悔しかった。でもそれよりも彼女の中になにかくすぶる思いが湧き上がってきた。それはだんだんと大きくなり自然と笑みがこぼれた。


 ————気になる。あの男がどんな男なのか。どんな生活を送っているのか。いままでどんな生活を送っていたのか。


 しかしその男は彼女の思っていたものとまったく違った。

 毎日、毎日、自堕落な生活を送り、仕事をしているからニートではないと言いながらまったく仕事をしようとしないし、なぜ仕事をしないのかと聞けば、金があるからと答え、ここまでダメな人間が存在していたのか驚きすらあった。


 しかしそんな生活を送っていた彼女だったのだが、その気持ちは冷めるどころか、日に日に熱くなっていった。別に忙しいわけでもない。なにかに必死になっているわけでもない。それなのに彼女の生活は充実していた。その男に振り回されることはあるが、それでもそんな生活が彼女にとって楽しかったのだ。


 それでもいつまでもそんな生活を続けているわけにもいかない。


 心の中ではそう考えていた。いつかは決断しなければならない時がくるのだと。だからその準備をしていなければならないのだと。


 その時は彼女の思いもよらない形でやってきた。

 分かっていた。いつまでもこんな生活を送れないと。いつかまた戦場が自分の場所になるのだと。だから彼女——火蓮(かれん)は脱線した運命の歯車から軌道修正をした。


「短い間だったけど、私の経験できないことができてよかったよ」

 火蓮は眠る新也(しんや)の横に腰を下ろすとそう呟く。起こさないようにそっと。


「まさか、ここまで長居するとは思ってなかったけどね。でも————」

 楽しかった。しかしその言葉は呑みこんだ。今、口にすれば体が言うことを聞かないと思ったから。気持ちが先行しないよう、己の感情を殺さなければならないと思ったから。

 きつく拳を握ると、自然と顔がうつむいてしまう。でもそれもダメだ。今はうつむいてはダメだ。前を向き、立ち上がらなければ。それが自分の運命なのだから。


 だから火蓮は立つ。新也の部屋から出るとそのまま玄関へ。

「さようなら。ありがとう」

 振り向かず、火蓮は新也の家をあとにした。


 残ったのは火蓮が使っていた部屋のみ。しかしそこには火蓮の姿はない。私物もなにも残ってはいなかった。まるで、自分がいたあとを全て消し去ったかのように。自分のことは忘れてほしいと思っているかのように。


「ったく。勝手に人の部屋に入っておいて、不法侵入で訴えてやるぞ」


 もそもそと布団から起きあがると、髪をかきむしる。

 そもそも勝手に家に入っている時点で不法侵入か、とどうでもいいことを頭に思い浮かべながら、その重たい腰を上げた。

挙句(あげく)の果てに家出ですか。全く、最近の若いもんはどうなってんのかね」


 着替えを済ますと腰に刀を携え、その男——新也は部屋の扉を開く。


「てめえらまで……」

 そこで新也が目にしたのは、すでに荷支度(にじたく)を終え、出かける準備万端といった顔をした寿(ことぶき)とアリシアだった。

 二人とも新也の顔を覗きこむように無言だ。


「……分かってるよ。そもそもなんのために起きたと思ってんだ」


 寿とアリシアも気がついていたのだ。火蓮の様子がおかしいことに。それは今日の昼のことだった。火蓮に一通の手紙が届いてからだ。それを目にしたあとの火蓮はずっとおかしかった。なにやら考え事をしているのか、常に上の空だった。誰だって気づくレベルである。それこそ一緒に生活しているものならなおさらだ。


 火蓮が出て行ったことに気がついた寿とアリシアは焦って新也のもとへ駆けつけたのだろう。もしかしたらあの新也のことだ。断られると思ったのだろう。

 しかし新也の反応はそれとは違っていた。


 それに二人は顔をほころばせる。

「さてと、これも仕事だからな。あいつにはきっちり残業代払ってもらうぞ」


 そして三人は家をあとにした。


 外は完全に寝静まっており、いつもにぎわっている江戸の町も今ではほとんどの明かりがなく、静寂に満ちていた。

 そんな中、三人は立ちどまった。これからの方針を決めるために。


「なあ、俺らってどこに行けばいいんだ?」

「あなたはバカですの? そんなことも知らずに火蓮を追いかけるんですの?」

 心底人をバカにしたような顔を向けてくるアリシア。しかし新也の疑問は最もで、そもそも火蓮がどこへ向かったのかすら分からないのだから。

「仕方ねえだろ! あいつの目的なんか知るわけねえんだし。だったらてめえは分かんのかよ」

「はあ〜。これだからバカは手に負えないんですの。このわたくしが知るわけないじゃないですの」

「誇らしげにしてんじゃねえよ! 分かんねえんだったら口開くな! それとお前、なにその荷物。修学旅行前の小学生みたいな恰好しやがって今からどこに行く気だ」

 指さすアリシアの背には大きなリュックがあった。パンパンに膨らんだその荷物はどこかに旅行へ行く前に準備をしたが持って行くものを選べずに全部を詰め込んだ、みたいになっていた。

「わたくしは常に常備していなければならないものがあるんですの。それにもしもの備えは旅行の鉄則ですのよ」

「今、旅行って言ったよな! なに、普通に楽しもうと知ってんだよ!」


 常に常備ってなんだよと思いながら、アリシアと話していても進まないと思った新也は寿へ視線を向ける。


「…………」


 その寿は相変わらず無表情だったのだが……。

「あ、あの……。寿。その背中に担いでいるものは……」

 いつもはないはずの寿の背には寿よりも大きな十字架のようなものが背負われていた。それは包帯のような白い布でぐるぐる巻きにされており、見るからに先端に刃がついているのを隠そうとしているのがバレバレである。まあ、旅行気分の誰かに比べたらましかもしれないが。


「だからってお前は火蓮を殺す気か! 死刑執行人か! 家出だけでそんな罪を追ってたら〇交なんてものはなくなりそうだがな!」

 そういった発言は控えて頂きたい。ツッコミの火蓮がいないとブレーキ役がいないのである。


「……ダメ?」

「ダメです。そんなものは家に置いてきなさい。銃刀法違反で捕まっちゃうでしょうが」

「……うん。分かった」

 少し悩んだ様子を見せた寿だったが、無事新也の言うことを聞いてくれた。銃刀法違反と言うなら新也もそれに該当してしまうのだが、新也にとって自分が中心なのでそれは関係ないことである。


 寿が背負っていた十字架のようなものを家に置いて戻ってから、新也は改めて考える。

「どうすんだ。出鼻を(くじ)かれたどころじゃねえぞ」

 そもそもスタートラインにすら立っていないのかもしれない。


 改めてあたりを見回す。暗くなった江戸の町。火蓮を追跡できるような手掛かりはまったくなさそうだ。と、そんなことを考えながらあたりを見回していた新也の視界にアリシアがしゃがみ込んでなにやらやっている様子が目に入る。またもや問題を起こすのではと思い注意する。

「そんなとこでなにやってんだ。変なことやってねえだろうな」

「変なことってなんですの。それよりあまり音を立てないでくださる」

 音? 不思議に思った新也はアリシアがなにをやっているのか覗きこむとそこには3匹の猫がいた。しかも餌付けをしている。

「お前、なにやってんの? 火蓮を探しにきたんじゃねえの? しかもどっからキャットフード持ってきたの?」

「当たり前のことを聞かないでくださる? わたくしの目的は火蓮ですわ。そのための行動ですの。この荷物が(こう)(そう)しましたわ」


 なにを言いたいのかさっぱり分からない。目的は火蓮なのにそのためになぜ猫に餌付けをしなければならないのか、しかもそのリュックにキャットフードなんて入れてたのかよと、もしかしてこいつの頭は宇宙人なのではと思う新也だった。


「寿、解説を頼む」

 宇宙人の翻訳を寿に頼んだが、首を横に振るだけだった。どうやら寿にも分からない様子。

 それも当たり前かもしれない。なにせ寿は人間でアリシアは宇宙人なのだから。


「よし、いい子ですわ。ではこれを嗅いでくださいまし」

「あ! それ俺の部屋に隠してあったやつじゃねえか!」

 アリシアは猫の鼻に黒の布を差し出す。それは新也が隠し持っていたものらしく……。


「うるさいですわよ。そもそもこんなものを隠し持っていること自体が犯罪ですのに、でも今回はこれが役に立ったので火蓮に報告しとくだけで許してあげますわ」

「それ許してねえじゃねえか! あいつに知られたら俺が死刑にされちまうだろ!」


 新也が隠し持っていたそれは、火蓮の掃除をする際に新也が引き出しから取り出したもの——火蓮のパンツだった。


 今回ばかりはアリシアが正しいのでそこまで強くでれない新也。その間もアリシアの奇行は続き、かと思うと急に立ち上がり指をさす。


「さあ! わたくしたちを案内してくださいまし!」

 薄々、気がついてはいたが、まさか本当に行動にでるとは……。


「なあ、それって猫に警察犬のように火蓮の臭いで追いかけろってことか?」

「ええ、そうですわよ。猫の嗅覚は人間の何倍もの力がありますの。これでしたら見失っても負えますわ」

 確かにそうかもしれないが、普通そこは犬じゃないのだろうか。

「いつもの犬が見当たりませんでしたのよ。ですから仕方なくこの猫3匹にしたんですの」

「……あっそ。……つかいつものって犬にも餌付けしてたのかよ。確かに棚の中に餌があったな」

 リビングの横の棚にあったのはそのためかと1つの謎が解けた。解けたところでちっとも嬉しくないが。


「寿。これからアリシアにねだられても絶対に買ってあげるなよ」

 懐いて新也の家に住み着いてはたまったものじゃない。これ以上自分の家を占領(せんりょう)せれないための処置である。

「分かった」

 短く寿は答えるが、その目は猫しか映っていなかった。もしかしたら寿も猫が好きなかのかも知れない。


「では、出発ですわよ!」


 張りきったアリシアの声を聞きながら猫のあとをついて行くことに。本当のこれでたどり着けるのだろうかと不安を抱えながらも、行く当てがないので取りあえず従うことに。


 気がつけば朝日が上がっていた。その間、通る道は(しげ)みの中。山の中。草の中。あの子のスカートの中。なんてバカなことを考えていた新也は憂鬱(ゆううつ)だった。いや本当に山の中をずっと進んでいたのだが。今ここがどこなのかも分からない。というか帰り道も分からない。


「どうすだ、これ。帰れなくなっちまったじゃねえか」

 先を行くアリシアはなおもその足を止めない。必死に猫のあとをついて行っていた。


「寿。これ大丈夫だと思うか?」

「分からない」

 そうだろうよ。行く先も帰る道も分からないのだから。


「そろそろ腹が減ってきた……」

 そうこぼす新也だったが、寿も同じだったようで、寿のおなかが小さく音を奏でた。


「……これは、違う」


 少し恥ずかしかったのか、寿の頬はほんのり赤く染まりお腹を押さえている。無表情の寿と言えどやはり女の子。羞恥の感情は持ち合わせていたらしい。新鮮な寿の反応に新也のお腹は満たさせたのだが、現実はそういかず、やはり腹は減る一方だ。


 そこへアリシアは新也達の話が聞こえていたのかリュックの中をあさり始める。荷物が多いので大変そうだ。


「あっ、ありましたわ。これでも食べてしのいでくださいまし」


 アリシアが取り出したのはスティック状のお菓子だった。まさかのアリシアの起点に目を丸くする新也。

「お前、本当にアリシアか? もしやお前、本当は火蓮が変装でもしてんじゃねえのか?」

「失礼なことを言わないでくださいまし。これあげませんわよ。そもそも火蓮の下着を盗んでいる時点で違うではありませんの」

 その発言がまたもや疑問を深める。アリシアがそんなからめ手を使えるはずがない。しかしこれ以上言えば、本当に食料を分けてくれなさそうなのでぐっとこらえることに。


 少しとはいえお腹を満たした3人は更に足を進め、太陽が傾き赤く染まり始めたところで1つの村にたどり着いた。しかしその村は————。


「これは……」

 その村のありさまに絶句する新也。


 その村は村と呼べるのか怪しいものになっていた。元は民家だったであろう建物は全開しており、ひどいところでは燃やされた形跡があった。大分前に滅んだ村なのだろうか。獣の死骸らしきものが骨になるまで干からびているし、それにこの村には生き物の気配がまったくしない。


「新也。どうやらこの村に火蓮がいるようですわよ」

 アリシアが言う通り猫3匹がこの村をうろうろしている。未だに猫の嗅覚を疑っている新也だったが、こうして猫が集まっていればなにかしらあるのだろうと思うことに。これでもし魚がいるからとかだったらこの猫を殺しかねない。


「それにしても、見たことない村だな」

 新也視界には倒壊した民家らしき建物の他に、集会所のように大きなもの、そして鉄や銅などの残骸が多く残っている建物へ。


「……武器屋」

「寿もそう思うか? だが、ただの村にこんな大きな武器屋があるのはおかしくないか?」


 村に武器を売る店があってもおかしなことではないが、それにしても規模が大きすぎる。城下町など人が集まる場所であればさほど不思議ではないだろう。しかしこの村は山の中。それに簡単にはたどり着けない場所にある。そんな場所にこれほど大きな武器屋を構えるのはおかしなことだった。


「もしかしたらこの村全体での生業(なりわい)がそういったものなのかもしれませんわ」

「まあ、確かにそうかもしれないが、そんな村聞いたことねえぞ」

「私もない。あれば知ってる」

 もし村で武器を大々的に売りさばいているのであればそれなりの知名度は必要だろう。しかし新也も寿もそんな話を聞いたことはない。


 不思議に思いながらあたりを散策していると、遠くで物音が聞こえる。

 さすがに暗くなり始めた場所でのことだったので、自然と神経が鋭くとがってしまう。


「お、おい。ちょっとおかしくねえか。ここは怪しいが違う意味で怪しいぞ」

「あ、あら、新也。も、もしかして怖いんですの?」

「そ、そ、そ、そんなわけねえだろ。ただ、お前らが怖いんじゃねえかと思って。早めに退散しようと言っただけだ」

「そういう新也は、な、なぜ寿の側から離れませんの。気持ち悪いので離れてくださいまし」

「ば、ば、バカ言っちゃいけねえ。これは寿になにかあったらまずいと思っただけだ。け、決して俺が怖いわけじゃねえぞ」


 無駄な争いを始めた二人だったが、寿は無関心に足を進めていく。

 そこへ寿は急に足を止めた。

「ど、ど、ど、ど、どうしたんだよ、寿。急に止まるなんてびっくりするじゃねえか」

「そ、そ、そ、そ、そうですわよ。わたくしはびっくりしてませんが、新也が驚いていますわよ」

「は、はあ!? お、俺が驚くわけねえだろ。さっきのは言葉の綾だ。その、あの、驚いたかもってことだ」

「意味がもう分かりませんわよ。そ、そんなことより寿。そんな怖い顔しないでくださいまし」

「そ、そうだぜ、寿。お前は無表情が一番似合ってんだ。そっちの方が可愛いぞ」


「黙って」


 なおも無駄な争いを続ける二人を寿は一括する。その表情がいつもの寿とは異なることに2人は焦りを覚える。いつも無表情な寿が真剣な表情である一点を見つめていた。それは1軒の崩れた民家だった。


「あ、あの寿さん? あの家がどうしたのかな?」

 恐る恐る新也が訪ねるが、寿は指をさすだけだった。その指の先にはアリシアが餌付けをしていた猫3匹の姿が。


「猫が集まっていますわね。もしかしてあそこに火蓮が?」

「分からない。でも、なにか嫌な感じがする」

 寿も詳しくは分からないらしく、少しずつその建物に近づいていく。

 それに続くように新也とアリシアは寿の背に隠れながら建物に近づく。


 その時、注視していた建物から一発の銃声が聞こえてきた。


「さっきのって、火蓮の銃……の音ですの?」

「おそらく。たぶんここから」

 駆け寄った寿が建物の残骸をどかすとそこには地下への入口が。


「い、いや。さすがに違うんじゃないか。ほら、ここら辺は森の中。どっかの誰かが猟銃(りょうじゅう)でも撃ったんじゃねえか」


 どうやら新也は地下に入るのが怖いらしい。


「火蓮はこの中にいる」

 しかし寿は確信を思っているらしく先に扉を開けると中に入ってしまう。


「お、おい。ちょっと待てよ。まだ確定じゃねえだろ」

 しかし新也の声はもう寿には届いておらず地下へと消えてしまう。

「あいつ。なんでこう後先考えないかな」

「新也はどちらかというとあとのことを考え過ぎではありませんの?」


 取り残された新也とアリシアは地下とお互いを交互に見る。本当に入るのかと。


「そ、そりゃあ、あとのことぐらい考えるだろ。も、もしも、だぞ。この中に得体のしれないものがいたとする。そうしたらどうする。俺らはそのままお陀仏(だぶつ)だ。そんなのは嫌だね。お陀仏するならせめて恐怖せずに()きたいからな」

「そ、そうですわね。火蓮を連れてくるだけでしたら寿だけでもどうにかなりますわよね」

 2人は寿を待つことに。しかしなおも地下入口からは目を離さず見つめる。


 だんだんとあたりは暗くなっていき、山の静けさ独特の空気が支配し始める。

「な、なあ、なんか話してくれ。こんなに静かだと逆に落ち着かねえ」

「し、新也はなにか話してくださいません? わたくしは見張りに精一杯ですの」

「……い、いや、見張りって。でもよく考えてみたら……」


 テレビでよく見る。取り残されたものには真っ先にその刃が向くあのシーンに。


「……つか、俺らが1番やばくね?」

「そ、そうかもしれませんわね」

 どうやらアリシアも考えていることは同じだったようで、2人してだんだんと青ざめていく。地下入口に近づき、この扉を開くかどうか悩む。

「ど、ど、どうする?」

「わ、わ、わたくしに聞かないでくださいまし。し、新也に任せますわ」

「あ、開けた瞬間に、ってことはないよな?」

「さ、さあ? で、でもこのままというのも……」

 入口を開け得体のしれないものに襲われるか、ここに残りその刃に襲われるか。押すも地獄、引くも地獄。どちらの選択をしたところで同じこと。新也は悩んだ末、地下入口の扉に手を取る。

「せーので開けるぞ。もしもなにが出てきても自己責任で対処しろよ」

「わ、分かりましたわ」

 新也の手に力がこもる。自然の頬に汗が伝い、体が緊張していることが分かる。しかし今緊張していてはいざという時に体が動かない。そのために一度深呼吸をする。


 そして掛け声をかけようとして————、


「いつまでそうしているの?」


「どわぁああああああ??」

「きゃぁああああああ??」

 いきなりのことに新也とアリシアは2人してしりもちをついて地面に転がる。それを不思議そうに見る寿。


「い、いきなり出てくんじゃねえよ! 危うくちびるところだったぞ」

「いつまでも新也達がこないから」

 新也の横でアリシアは目を回していた。

「つか、寿は先に行ったんじゃねえのか?」

「ちょっと先まで行った。けど、道が別れたから戻ってきた」

 案外地下の中は広いようだ。

「そ、そうか。ったく、今から行こうと思ってたんだよ」

「そう」

 するとまた寿は地下に入っていく。

「だからちょっと待てって」


 仕方なく新也もそれに続く。アリシアはこのままにしておくわけにもいかず新也が背負って地下に入っていく。


 地下の中は地面の中を掘ったところに木で補強しているかのように柱や屋根がきちんとついていた。道をきちんと舗装したのか土がきちんとならされている。それにそれなりに道幅があり、3人並んでも余裕があるぐらいだ。これがずっと続いているかは分からないが、村の人はこの地下を常に使っていたのかもしれない。

 地下の入口は明かりがついており、もしかしたら本当に火蓮が入ったのかもしれない。


「こっち」

 あたりを見ていた新也に寿が案内してくれる。途中まで行ったところに案内してくれるようだ。

「ここで別れてる」

 確かに、寿の言うように道が2つに別れていた。別れているのはいいのだが、その先は見渡すことができず……。

「なあ、これってこの先明かりがついてないってことだよな?」

「おそらく。でも私は大丈夫」

「俺が大丈夫じゃねえんだよ! こんなの死地への誘いにしか見えねえよ!」

「でも、明かりがない」

「見れば分かるよ……」


 やっぱり入るんじゃなかったと後悔する新也。その時またもや銃声が。

「こっち」

 すると、寿はすぐさま動き出し、右の通路へと足を進める。

「だからちょっと待てって!」

 しかしやはり寿にその声は届いておらず、暗闇の中へ姿を消してしまう。

「あーもー! 行けばいいんだろ! どうなっても知らねえぞ!」

 やけくそ気味に新也もそれに続くが……。


「おーい、寿―。いるかー。全然見えねえんだけど。頼むから返事をしてくれー」

「…………」

「じょ、冗談だよな。そうやって俺を驚かそうとしてんだよな」

「…………」

「ま、まじでそういうのよくないぞ。こんなところに1人取り残されたら俺泣いちゃうからね」

 しかし、寿の返事は返ってこず。返ってくるのは地下に入ってからの冷たい風だけだった。

「おいおいいおいおいおい、まじでシャレになんねえぞ。どうすんだこれ」

 あたりはまったく見えず、新也は壁伝いに進むしかなくなっていた。


「あ、あれここは?」

「あ」


 そこへアリシアが目を覚ましたらしい。暗闇の恐怖のせいかすっかり忘れていたが、未だにアリシアを背負っていたのを今更、思い出す。


「起きたなら自分で歩いてくれ」

「ぐえっ!」

 背負っていたアリシアを地面を落とすとアリシアの口から潰されたカエルのような声が上がる。

「い、痛いじゃないですの! 下ろすなら……ってここどこなんですの!?」

 やっと周りの状況が目に入ったらしいアリシアは驚きと共にすぐさま新也の腕にしがみつく。


「ちょ、ちょっ放せ! お前に抱きつかれても全然興奮しねんだよ!」

「なっ⁉ そ、そんな失礼なこと言っていいんですの?」

「いいに決まってんだろ! てめえになに思われたところで俺が傷つくことはねえんだよ!」

「わたくしがこんなこともあろうかと懐中電灯を持っているとしてもですの?」

「……………………すみませんでした」


 なにを予想して懐中電灯をもってきたのか分からないが、今はなによりも明かりだった。人間は常に視覚を頼りに生活していることがほとんどである。もしその視界が奪われてしまえばまず思うことは恐怖だろう。目が見えない恐怖とは普通の恐怖とは違う。故に新也はなんとしても、例え相手がアリシアであろうと(こうべ)()れることができる。


「なんか失礼なこと言われたような気がしますけど……あ、ありましたわ」

 リュックを探っていたらしいアリシアの手元からパチッと音がしたかと思うとその周辺が一気に明るくなる。

「おおー。さすが文明の利器。さて、帰るか」

「そうですわね。こんなところにいては生きた心地がしませんもの」

 こんなところからいち早く出たい新也だったが、問題が1つ。


「これ、どっちからきたんだ……」

 すでにある程度進んでしまった新也は方向感覚が分からなくなっており、どっちからきたのか分からなくなっていた。前へ進めばいいのか後ろへ進めばいいのか……。


「どうして新也はそこまでバカなんですの! いくらわたくしが頼りがいがあっても新也が無能過ぎて意味がないじゃないですの!」

「誰が頼りがいがあるだ! 百歩譲って今回だけはお前の行動がよかったとしても日頃の行いでプラマイゼロだ! いや、だとしてもまだマイナスだ!」

「自分の無能さを人のせいにしてくださいまし! でしたらもう2手に別れましょう!」

「ああ、その方がいい! てめえと一緒にいた方が疲れるわ!」

「それはこっちのセリフですわよ! それでは、これ以上わたくしを(わずら)わせないでくださいまし!」

「こっちのセリフだ! 俺に迷惑かけんじゃねえぞ! ってことでその懐中電灯よこせ」


 新也はアリシアが大事そうに抱えていた懐中電灯に手を伸ばす。


「嫌ですわよ! これ1つしかないのになぜあなたに貸さなければならないのですの。あなたは暗闇の中1人とぼとぼ歩けばいいんですのよ」

「それはてめえだ。そんなもんてめえが持っててもただの宝の持ち腐れだ。いいからよこせ!」

「いや! この手を放してくださいまし! セクハラで訴えますわよ!」

「訴えれるものなら訴えてみろ! ただここで聞いてくれる人がいるならな!」

「ひ、卑怯な。美少女を暗がりに連れ込み、そして目が覚めたところを襲うなんて外道ですわ! 鬼畜ですわ! この性犯罪者!」


 アリシアの言う通りなので言い返せなくなってしまう新也。ただそれは言い方が悪いだけであって、別にアリシアを狙ってやったわけではない。新也も宇宙人の相手などしたくはない。


「てめえに欲情なんかできるわけねえだろ! いいからそれよこせって言ってんだろ!」

「嫌ですわよ! これはわたくしのものですの!」

 そんなことを数分間続けていると息が上がり2人で少し距離を取る。

 案外、、アリシアの力が強いことに驚く新也。


「はぁはぁ、わ、分かった。ちょっと落ち着こう」

「はぁはぁ、そ、そうですわね。こんなの流れからして懐中電灯が壊れてしまい結局2人して暗闇を歩くことになってしまいますしね」

「よく分かってんじゃねえか。こ、こうなったら間を取ろう」

「そ、それでいきましょう。取りあえず休戦ですわ」

 と、いうことで結局2人で行動することに。お互いが不幸になるより、2人でその不幸を少なくする寸法である。案外仲がいいのかもしれない。

 そうしてまた2人は暗闇の中へ消えていった。


 一方寿は暗闇の中を疾走していた。


 視界が遮られ、方向感覚も無くなった地下の中を自身の五感だけを頼りに進み、そしてそれは正確に目的地へと向かっていた。近くづくに連れ、破壊音が大きくなり、それにつられて気持ちが(はや)り、自然と足が前へ前へと動いていく。胸が苦しくなり、噴きだす汗が瞳を濁しても足を止めることはなかった。

 いつも見せている無表情とは裏腹にその顔は、そしてその気持ちは焦り、急げと走り続けた。

 そしてついに明かりが見える部屋が目の前に差し掛かり、より一層足を速めその部屋へ飛びこむように駆けつけた。


 部屋へ到着したその瞬間、なにかが横を通り過ぎる。


「っ!?」


 自然と防御姿勢を取った寿の横を通り過ぎ、それは壁に打ちつけられうめき声をあげたかと思うと、粉塵を上げ見えなくなってしまう。だが、寿はその粉塵の中へ消えたものがなにかすぐに分かった。寿の横を通り過ぎる瞬間、見慣れた人物が血まみれで吹き飛ばされたのを見逃さなかったのだ。

「火蓮!」

 いつもはこんなに大声をあげたことのない寿だったが、この時は違った。

 その人物の名前を叫びながら粉塵の中へ駆けつける。

 その中には予想通り火蓮の姿が。そしてこれも予想通り、火蓮の姿を見た時は声が出なかった。

 火蓮のその姿は明らかにいつもと違う。

 頭からは血を流し、服をところどころ裂けている。表情は苦悶の表情をしており、目を逸らしたくなるほどだった。だけど今寿がすることは火蓮から目を逸らすことではない。


「……火蓮。立てる?」

 すぐさま駆け寄った寿は火蓮の体を気にしながら肩を貸す。

「こ、寿? なんで、なんで寿が……」

 まだ状況を理解できていないのか、おぼろげな足取りで立ちあがろうとする火蓮は寿の顔をうっすらと認識する。


 寿はなにが起こっているのか分からないが、とにかく火蓮を手当てするために連れ出そうとしたが、そんな時間は与えられなかった。

「っ! 寿! 避けて!」

 抱きかかえようとした寿を火蓮がいきなり突き飛ばしたのだ。


 いきなりのことで抵抗ができなかった寿はそのまま火蓮の横へ倒れ伏し、その瞬間鋭い風が寿の頬を撫でた。


 なにが起こったのか分からず、寿は火蓮へ急いで視線を移すと、その火蓮はいつの間にか銃を取り出しそれで鋭い風の正体を防いでいた。


「なにやら邪魔なやつが乱入したって感じかぁ? あぁ?」


 粉塵が晴れていく。するとその影は目に映るようになり、影は火蓮の正面——火蓮を切りつけようとしていた。それを火蓮が防ぎ、それに巻き込むまいと寿を突き飛ばしたのだと、やっと寿は理解する。

「まあ、邪魔するってんなら俺様は誰だろうが殺してやるよ」

 粉塵が完全に晴れると、影の正体が浮き彫りになっていく。


 人を見下したようなしゃべり方をしながら、一旦火蓮から距離を取る。

「…………誰?」

 見たこともない人物に寿は疑問を浮かべるが、それよりもこの状況——火蓮を傷つけたのは目の前に現れた人物だと思うと怒りが込みあげてきた。そして寿は怒りの視線をその人物へ向ける。


「てめえこそ誰だ、あぁ? せっかくいいたところだったのによぉ。邪魔しやがって。殺すぞ」

 だが、寿のその視線も意に介した様子も見せず、逆に寿を睨み返した。


「なんでここに来たの! 今すぐ帰って!」

「…………」


 火蓮は苦しみながらも寿に向けて声を荒げた。焦りを隠そうともせず、ここにいれば危険だからと。そしてこれは自分のことで寿には関係のないことだと拒絶するように。

 しかし寿はなにも答えない。いつも口数が少ない寿からしたらいつも通り。しかしそのいつも通りは違っていた。明らかにその表情には怒りがある。火蓮を傷付けたその人物へ向けて。


「ああ、誰かと思えばてめえか。仲間を助けにでもきたってのか、あぁ?」

 寿はこいつを知らない。しかしこいつは寿のことを知っている様子。(いぶか)し気に思いながら視線を鋭くする。

「なんで知っているって顔だなぁ。当たり前だぜ。俺様には『目』があるからなぁ。これでいろいろ嗅ぎ回ったからよぉ。…………寿さん?」

「……なぜ私の名前を」

「知ってる、知ってるぜぇ。特にてめえらのことはずっと見ていたからなぁ。俺様の目的のために」

 一気に警戒心が強くなる寿。寿は今まで会ってきた人物の中でこいつだけは危険だと本能的に思った。近くにいるだけで食い殺されそうなオーラをまとっている。それを寿の中で感じとれるほど。なぜなら一目見ただけでその人物は人ではないことが明らかだったから。


「……鬼」


「ああ、そうだ。俺様は鬼だ。人間を恨み、人間を殺し、人間を食い散らかす鬼だ」

 その鬼はまるで鬼であることを自慢するかのようにその姿をより大きく見せる。両手を広げ天を見上げる。それでやっと理解できる。こいつは人間とは違う。姿形ではなくその中身が。人間にはない狂気に満ちたその感情が。


「あいつは鬼蜘蛛(おにぐも)。かつての私達の敵だった鬼」

 その間に横へきた火蓮が説明するが、その顔はなおも苦しそうだった。傷の方は大丈夫そう。さっきまで流れていた血はすでに止血されていた。ならなぜ苦しそうなのか。

「……大丈夫?」

 不思議に思いながらも火蓮の体を心配する寿だったが、火蓮は大丈夫と返すだけでその顔を伏せてしまう。


「……巻き込む気はなかったのに、その、ごめん」


 なぜ謝るのだろう。寿は自分の気持ちでここへきたのに。別に強制されたわけでもない。だったら火蓮が誤る必要はない。だから火蓮が思っていることが寿には分からない。

 しかし普通であれば火蓮が思っていることは当然なのかもしれない。巻き込まないために新也の家を出た。容易に想像ができてもおかしくないことかもしれないのに、今の寿にはそれを理解する感情がなかった。


「………………いい」


 少しの沈黙のあと、寿はそれだけ返すと改めて鬼蜘蛛を見る。

 細身に普通の人間と同じぐらいの身長。遠くから見れば一般人に見えてもおかしくない。しかし近くで見ればそれは一瞬で違うと理解できるだろう。

 口からは二本の牙がつきだし、目が八つ、一つ一つが別の生き物のように動き回っている。そして額には鬼であることを証明するかのように2本の角が生えていた。


「わざわざ紹介してくれてどうも。そう。俺様は鬼蜘蛛。そっちの自己紹介は結構だぜ。あそこまで俺様の同胞を殺されたら嫌でも覚えちまったからなぁ」


「…………蜘蛛?」


 それは最近覚えた生き物。単語は知っていたが、今まで見たことがなく、どんなものなのか分からなかったが、最近になって初めて蜘蛛を見ることができた。確か黒いやつ……。

「あの蜘蛛だよ。家にいっぱい出ているからって駆除した。……でもそれがあいつの分身だったんだ」

 火蓮は新たに銃を取り出すとそれを鬼蜘蛛に向ける。いつでも戦闘できるように。いつでも寿を守れるように。そうしていなければおそらく一瞬で殺されてしまうだろう。それだけ鬼蜘蛛が強いことを火蓮はさっきまでの戦いで分かっていた。


「……分身?」

「うん。あいつは自分の分身で江戸中、いや、もしかしたらこの国中を探っていたのかも」

「探る? なにを?」

 火蓮はそこら辺のことはもう知っているのか説明してくれるが、そこは鬼蜘蛛が遮った。いままでとは違った怒りを持って。


「決まってんだろ! 俺様はずっと探し続けた。俺様はこいつらの一族を殺すために生まれてきたんだからなぁ!」


 糸をまとめ上げ高質化した刀で火蓮を差す鬼蜘蛛。八つの目も火蓮へそそられ、憎しみ、憎悪、怒りがその視線に込められていた。


「まったく、とんだとばっちりだよ。私はなにもしてないのに。しつこいやつ」

 あえて軽口で答える火蓮。

 一旦落ち着け。冷静になれ。絶対に勝てない敵と決まったわけではない。今までだってたくさんの敵と戦ってきたのだ。今回はそれが人間ではなく鬼ってだけで。

 冷静になることに今後の方針を模索しようとする。

「あぁ? っざけんじゃねえぞ。俺様はぜってい許さねえからなぁ!」

「だから、それ私じゃないじゃん。そもそも何年前の話をしてんの? そんな大昔の話を出されてもね」

「ちっ。クソガキがぁ。なめた口聞いてんじゃねえぞ!」


 怒りが限界に達した鬼蜘蛛は爆風をまとったかのように駆け出し、その刀を火蓮へ振りかざした。


「————っ!」


 少し(あお)り過ぎたかなと後悔しながら防御姿勢を取った火蓮だったが、鬼蜘蛛が刀を振り切ることはなかった。

「……てめえ」

 にらみつける鬼蜘蛛の視線には寿の姿があり、その寿は鬼蜘蛛の腕を掴み刀を止めていた。そして鬼蜘蛛が動く前に身を(ひるがえ)しながら勢いをつけた回し蹴りを鬼蜘蛛の腹部に食らわせる。


 鬼蜘蛛はいきなりの動きについて行けず、寿の蹴りを食らうとそのまま壁に打ちつけられてしまう。


「まじ…………」

 以前寿が戦っている姿を見た時、結構戦えるとは思っていたが、苦戦していた鬼蜘蛛相手にここまで戦えるとは思っていなかった火蓮の開いた口は開いたまま唖然としていた。

「こ、寿。あんたここまで戦えたの?」

「…………うん。まだ戦える」

 そうだろう。なにせまだ蹴りを1回放っただけだ。火蓮に比べて体力はまだまだあるだろう。これなら勝てる。最初は巻き込んだことを悔やんだが、今は逆にありがたく思ってしまう自分がいる。自分の問題なのに、巻き込まないようにしたのに、でも心のどこかでは助けにきてくれたことを嬉しいと思っているのだろう。自然と顔が緩んでしまう。


「やってくれるじゃねえか、あぁ?」

 その声が聞こえた瞬間、すぐさま顔を引き締める。

 あれだけでは倒せないだろうと思っていたが、多少なりとも傷を負わせたかと思っていたが、鬼蜘蛛は無傷だった。

「やっぱりダメか。どうなってんのよ」

「火蓮もダメだったの?」

「うん。確実に仕留めるために心臓や頭を撃ち抜いたのに全部の傷が治っちゃうんだよ。これじゃあこっちが消耗する一方だよ」


 忘れていた。助けにきてくれたことに意識がいってしまっていて鬼蜘蛛のそのなぞの体質に。

 火蓮は何度も鬼蜘蛛に攻撃を食らわせていた。しかしその全てを鬼蜘蛛は意に介した様子を見せず、どんなダメージを受けても治ってしまうのだ。

「だったら、試せる攻撃を全てやるしかない」

「そうだね。じゃあ行くよ! 寿!」

「うん」


 今更もう誤りはしない。巻き込んでしまったのは自分のせいだとしても。それに寿は事情もまだ分かっていなくても協力してくれた。だから今更、帰れと言っても聞いてはくれないだろうから。もう後悔したところで遅い。迷い、後悔するより今すべきことがある。それは戦うこと。いつもやっていること。戦って戦って戦うだけ。そのあとのことはそのとき考えればいい。目下のところは全力で寿に謝ろう。お礼を言おう。そして今は全力で戦って、全力で寿を守る。それが自分を助けてくれた寿への恩返しとして。寿を傷付けるわけにはいかない。


 だから火蓮は戦うことにした。


 そんな思いの中、火蓮、寿と鬼蜘蛛による激闘が始まろうとしていた場所とは離れた場所。未だ地下の中をうろうろとしていた新也とアリシアは迷子になっていた……。


「ねえ、新也。これって……」

「なにを言いだそうとしてんだ、アリシア。俺らは決して迷子になんかなってねえぞ。俺らは、あれだ。そう、ゴールが分からねえだけだ。ここに来たはいいが目的地が分からねえだけだ。目指す場所があり、そしてその道中で迷っているのであればそれは迷子だが、俺らは目的地すら分かってねえんだ。よって! 俺らは迷子ではない!」


 声高らかに叫ぶ新也だったが、それを聞いてくれるものなど一人もおらず空しく地下の冷たい風が頬を撫でるだけだった。いや、一人だけ聞いてくれる存在がいた。

「そ、そうですわよね。わたくしたちに限って迷うわけないですわよね。まったく、どちらかと言えば寿が迷子になっているのをわたくしたちが探してあげているんですもの」

「そ、そ、そうだ。俺らは迷子を捜しているだけであって、迷子自体ではない」


 アリシアが持ってきた1つの明かりを頼りに地下を進んでいた2人だったが、未だゴールは見えず、(かん)だけを頼りに迷路のような道のりに、さすがに不安になってきた2人の口数はだんだんと増えていった。話すことによってお互いの存在を確かめ合うように。


「ところでなんだが、アニメとかでよくあるパターンで懐中電灯だけを頼りに暗闇の中を進んで行くといずれ懐中電灯の電池が切れるという王道パターンがあるんだが、そんなこと起こるわけないよな?」

「…………」

「おい、なぜそこで黙る! 今それが切れたら俺達の生命線は切れたと言っても過言じゃねえんだぞ!」

「だ、大丈夫ですわよ。わたくしがそんなへまを犯すわけないじゃないですの。新也じゃないのですし」


 アリシアだからこそ不安しかない。


「まあ、でもさすがにそんなことは起きねえよな。その懐中電灯も寿に言って買ってもらったばっかなんだし」

「そうですわ。この懐中電灯は新品ですの。もしこれで切れるようなら訴えてやりますわ」

「それにそういった王道パターンはラブコメに起るものであって俺らの間で起こりえるはずもない。アリシアにそんな感情を抱くぐらいだったこの暗闇に取り残された方がましだからな!」

「あらあら、そんな謙遜をしなくてもいいのですのよ。わたくしだってあなたとラブコメ? はっ! 反吐(へど)が出ますわ。視界に入れるだけでもおぞましいですのに」

「おいおい、あんま()めんなよ。俺なんかてめえが側にいるだけで蕁麻疹(じんましん)が出て、持病の発作が出るぐらいだ。てめえがヒロイン枠? はっ! なめんな、てめえはただの疫病神(やくびょうがみ)だ」

「あらあらあら、新也さんったら照れちゃって。お可愛いところあるんですのね。そもそもわたくしをヒロインという前に主人公がいないじゃないですの。もしかしなくてもあなたが主人公などと戯言(ざれごと)を言うんじゃないですわよね。知ってますの? わたくしたち女子3人が新也のことをなんて言っているか。下着は盗むし、お風呂は覗こうとするし、体を嘗め回すように見てくると思ったら平気でまさぐろうとするし、あまつさえ、女子が3人暮らしているというのに夜な夜な新也の部屋から変な声が聞こえてくしで。始末に負えないクズですわ」


「…………すみませんでした」


 今回の勝敗、アリシアの勝利。


 などとくだらないことをしながら足を進めていたが、状況は一向に好転せず、目の前に広がるのはただの暗闇だけだった。いくつか曲がり角を曲がったが、見えてくる景色は闇。ここまで進めばなにかしらの部屋に行きあたらないかと思ったが、未だ一つの部屋にもだどりつけず、暗闇の通路が続くだけだった。


「な、なあ。ちょっとこれはおかしくねえか?」

 さっきのアリシアの言葉による後遺症だろうか。ちょっと尻込みした新也が訪ねる。

「なにがおかしいんですの? 新也がおかしいのは今に始まったことではありませんのよ?」

「俺のことじゃねえよ! あと、お前も相当だからな」

「わたくしのどこがおかしいんですの? それと自分がおかしいことは否定しないんですのね」

「くっ、い、今はいいんだよ。それよりもだ。俺がおかしいっつってんのはこの場所のことだ」

「場所、ですか?」

「ああ。いくらお前が方向音痴だからと言ってもさすがにゴールが見えなさ過ぎる。ここまで歩いてりゃあどこかしらには到着してもいいはずだろ。それなのに俺らはいつまでたっても通路を歩き続けてる」

「そうですわね。いくら新也がバカで平衡感覚がなくてもどこかにつきそうなものですわね。それか新也のせいで同じ場所をぐるぐるしているか」

「ちょっと待て。別に俺の平衡感覚は関係ねえだろ。そもそも平衡感覚はあるし、それにお前平衡感覚って意味知ってんのか?」

「え? 平均台を歩くための機能のことですわよ。そのぐらい知ってますわ」

 確かに全部が間違っているわけではないが、それが全てというわけでもない。改めてアリシアはバカなんだと思う新也。


「いや、そんなことはどうでもよくて、同じ場所をぐるぐるしているって可能性は否定できないが、それはそれで気づきそうなもんじゃねえか?」

「まあ、そうですねわ。でもこれといってそれを証明することもできませんわよ」

 アリシアの言いうことは最もで、なにせ視界に映るのはアリシアの持つ懐中電灯の明かりだけなのである。そんな中、同じ道を歩いているのかどうかは判断しにくかったのだ。しかし新也は同じ道を歩いていることを否定する。

「こんだけ歩いてりゃあ分かる。曲がり角がある場所がそれぞれ違う。まっすぐ歩く距離も。だったら俺らは確実にどこかしらに進んでいるってことだ」

「あら〜? 新也のそのおつむを信用しろと言うんですの? それはちょっと過大評価し過ぎですわよ」

「て、てめえ、いい度胸してんじゃねえか。てめえにおつむの心配されるたあ思わなかった。お前こそ、そろそろオムツした方がいいんじゃねえか。ゆるゆるそうだからよう」

「だ、誰がゆるゆるですのよ! わたくしは神に仕える信徒。清いままですわ!」

「……そっちの意味で言ったんじゃねんだが」


 一向に話が進まない。一人が口を開けば喧嘩をし、もう一方が口を開けば喧嘩をする。ある意味仲がいいとも言える。喧嘩するほど仲がいいとも言うし。


「じゃなくて! てめえと話してるとまじで話が進まねえ」

「急に吠えないでくださいまし。唾が散るじゃないですの。汚らわしい」

「ぐっっっ…………」

 ぐっと堪える新也。これ以上言い合ってもなにも生まない。ただ疲労が溜まるだけだ。今この状況で体力を消費するのは()骨頂(こっちょう)である。ならばやるべきことは先に話を進め、そして状況を打開すること。


 一回深呼吸することで新也は気持ちを落ち着かせると改めて話を始める。

「ふぅ〜。いいか。こんだけ歩いててどこにも行きつかねえ。そしておそらく同じ場所をぐるぐるしている可能性は限りなく低い」

「まあ、そうですわね。仮にも新也の言うことが正しければ、ですけど」

「…………」

「なんですの? その目は」

「ま、まあいい。それで思いつくことは1つだ」

「どういうことですの?」

「だから、ずっと通路が続き、そして同じ場所ではない。つまりこの地下通路はものすごい巨大だということだ」

「? それがどうしたって言いうんですの?」

 アリシアにはこの状況が理解できないらしく疑問符を浮かべるだけだった。


 2人はとてつもないく絶望的な状況にいるとも知らず。


「仮にだ。俺らは超巨大な迷路に迷い込んだとする。そして俺らはあてもなく歩き続けた。もしこの状況に寿が気づいたとする。そして寿のことだから探してくれるだろう。しかし、俺らはもうすでに奥深くまで入り込んじまってる。寿が俺らを探し出すまでに時間がかかるだろう。その間俺らはどうする。まずもって寿が本当に気づいていくれるかも怪しい」


 なにを考えているのか分かりづらい寿では仕方ないだろう。

 新也の言っていることの危険性が理解し始めたのか、アリシアの顔がだんだんと青ざめていく。


「そうなると俺らはずっと見つけられないままだ。そうなると————」

 ここまで言ってしまえばアリシアでも分かってしまう。自分達がどれだけ危険な場所にいるかを。そしてアリシアはそのことに気がつき声を大きくして叫んでしまう。


「進めていたゴジモンがプレイできなくなる!?」


「バカか! てめえは! もっとやべえ状況だろうが! ゲームより考えることがあんだろうが!」

「だ、だって、あともうちょっとで伝説のゴジモン『ゴジーラ』がレベル100になるんですのよ。こんなところであきらめるわけにいきませんわ」

「そうかよ。じゃあ、てめえの命は諦めちまえ」

「え? なにを言ってますの。わたくしの命はそんなに安いわけないじゃないですの? 神によって清められたこのわたくしの命が」

 毎日毎日ゲームして昼寝して無駄に金を使って、クソみたいな人生を送っている奴の命が神によって清められたとか言われても……。

「じゃあどうやって生き延びてくんだ。この状況でもお前は生きてけるって言えんのか?」

「ああ、食料のことですの? それでしたら心配いりませんわ。こんなこともあろうかと————」

 アリシアは背負っていたリュックから新也達に1度配ったスティック状の食料を取り出した。それが残り4本。ほかにも水が入ったペットボトルを3本取り出した。


「…………お前はなにを想定して出てきたんだ」

 アリシアの奇行が奇功なってしまった。本当にアリシアは目的を理解しているのか怪しいところである。


「常に準備を(おこた)ってはダメですわよ。備えあれば(うれ)いなしですわ」

 まったくその通りなのだが、アリシアに言われると腹が立つのでなにも答えない新也。

「でも、お前これだけで生きていくつもりか?」

 アリシアの行動は確かに奇跡的にも2人の状況を少しだけ明るくした。だが、それは少しだけである。結局はなんの解決にもなっていないのだ。

「この量じゃ、2,3日が限界だろ。もし、それ以上時間がかかるとしたらどうすんだ」

「…………」


 どれだけ用意周到にしたところで、さすがにそこまでは見えていなかったのか、アリシアの顔は愕然(がくぜん)とうなだれていく。結局のところアリシアはアリシアでありそれ以上にはなれないのだった。


「ど、ど、ど、ど、どうしましょう。わ、わたくしたちはこんな場所で誰に看取られるわけでもなく、こんな男と一緒にご臨終(りんじゅう)しなくてはならないんですの! それだけはイヤ! 100歩譲ってここで死ぬのはいいですわ。でも! こんな男と一緒に逝くなんて絶対にイヤですわ!」

「あーそーかよ! 俺だって、てめえと一緒に死ぬなんて御免(ごめん)だね。ってことでてめえはここで死ね! これだったら一緒に死んだことになんねえだろ!」

「なんでわたくしが新也より死ななければならないのですの! 死ぬんでしたら先に死んでくださいまし。そうしたらその腐りきった精神を清めて差し上げますわ!」

「てめえに清められるもんなんかねえよ! そもそも俺はキリスト教じゃなくて仏教なんでな。てめえの宗教には当てはまらねえんだよ!」


 取っ組み合いを始めた2人の体力はどんどん減っていくが、今はそんなことお構いなしに続ける。それが自らの首を絞めていることにも気づかずに。


「わたくしに清められないものなどありませんわ! というか新也。わたくし別にキリスト教じゃありませんわよ?」


「え?」

 意外なアリシアの発言に一旦落ち着く新也。それに合わせてアリシアも取っ組み合いで乱れた服を直す。


「だからわたくし、キリスト教じゃありませんわよ」

「いや、だってお前、シスター服着てんじゃん」

「え? わたくし別にシスター服なんて着て————ってそうですわよ! わたくしはシスターですわ!」

 なにかに焦るように言葉を濁すアリシアだったが、その頬は冷や汗が伝っていた。


「お前、今、自分がシスターであること忘れてなかった?」

「そ、そ、そんなことはありませんわ。わたくしは列記(れっき)としたシスターですわ」

「へ〜〜〜〜」

 怪しい。怪しすぎる。アリシアがシスターであろうがなかろうが新也にとってはどうでもいい。どうでもいいがしかし、そのせいでなにか問題を起こす可能性はアリシアなら十分ある。これまでの経験が新也にそう物語っていた。

「じゃ、お前が崇拝(すうはい)してる神の名は?」

 だから新也は今ここで照明しようとした。アリシアの正体について。


「そ、そ、それはあれですわ」

「あれってなんだ? あれなんて神いないぞ。もしかして自分が崇拝する神の名前すら言えないってことはないよなぁ?」

「そ、そんなわけあるわけ————」

「だったら言ってみろよ。その神とやらの名前を」

「えっと、その……あの……」

 言い淀むアリシア。そしてその反応から新也はアリシアが嘘をついていると確信する。

「あ、あの……その……」

「おいおい、さっきから『あの、その』しか言ってねえぞ。これはもしかしなくても、もしかするんじゃねえか?」


 さすがに分が悪いと思ったのか顔を俯かせてしまったアリシアだったが、いきなり顔を上げたかと思うと声を大きくする。


「ありましたわ! これですわ!」


「な、なんだよ。急に大声出しやがって」

 いきなりの行動に新也の心は少し驚きを見せてしまう。だが、すぐに冷静になる。

「そうやって話をはぐらかそうとしても無意味だぜ。さあ、白状しろ!」

「なにを言っているんですの? 別に話をはぐらかしてませんし、隠すつもりもありませんわ」

 アリシアはなにを思ったのか、リュックを下ろすとその中を懐中電灯で照らしながら漁りだす。そして目的の物を見つけたのか、それを新也に見せえた。


「これ、ですわ! わたくしたちが生き残る方法は!」


「は? 休に何言いだしてんの? てめえの頭はお花畑なの?」

 アリシアが取り出したものは四角い箱のようなものだった。暗くてよく見えないが、よく見ればその四角い箱には画面がついていて小型のテレビのようにも見えた。


「これがどうしたんだよ。つかなにに使うんだ」

 使い道がまったく分からないし、これが生き残る方法とは思えない。

 しかしそんな新也をよそにアリシアはそれを操作し始めると、その画面に小さな光の点が浮かびあがる。

「なんだこの点? もう1つ増えたぞ?」

「この位置ですと2人は一緒にいるってことですわね。ぎりぎり圏内ってところでよかったですわ」


 アリシアはなにを言っているのだろう。光る点が2つ。それが隣合うように光っている。そして圏内であったことに安堵(あんど)している。そのことから導き出せる答えとは。


「ま、まさかこれって!」

「そうですわ! これぞ文明の利器! GPSですわ!」


 アリシアが取り出したものは火蓮と寿の位置を指し示す機械——GPSだったのだ。


「なんでそんなもん持ってんだよ! つかなんで火蓮と寿も発信器を持ってんだよ」

「え? それは隠して持たせているんですもの。気づくはずありませんわ」

「うっわ……。お前それ、ストーカーの域を超えてんぞ……」

 初めて本気で引いてしまう。

「つか、そんなんあるんだったら最初っから出せよ! 猫に案内されるより全然マシじゃねえか!」

「最初はそうしようと思いましたわよ。でもこれは距離があり過ぎると発信器を追えないんですの。だからさっきまで忘れていたんですのよ」

「あと、なんでそんなもん持ってんだ? まさかお前本当にそっちに気があるってわけじゃねえだろ?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないですの! わたくしは健全ですの!」

 新也が言っていることがしっかり理解できているのか、顔を赤くしたアリシアが否定する。

「これはなんとなく面白そうだったからやっただけですわ。GPSとかなんかかっこいいじゃないですの」

 確かに、アリシアの言うことは分かる。GPSを使って相手を追いかける。なんかいいな。ちょっと中二病っぽいけど。


「なにはともあれ、確かにこれなら2人の居場所が分かるな。だったらさっさと合流してこんなところからはおさらばしようぜ」

「そうですわね。でも先に言っておきますが、これは相手の位置が分かるだけであってそれまでの道のりは分かりませんわ。つまり相手がいる方角しか分かりませんの。道は自分たちで探らないといけませんわよ」


「…………使えねぇ〜」


 やっとゴールが見えてきた新也達だったがその道のりはまだまだ長そうだ。

 そしてもう一方のゴールもまた長そうであった。


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