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第九刀 規則(ルール)の意義

二度目の月一更新達成!!

両者の笑みに比例して場に気が蔓延する。


「いいぜ!やっぱ、武士モノノフはそうじゃなくちゃよ!!

名乗ったが、改めてだ。野間隆生だ!リュウって呼んでくれ!!」


「おうよ!宜しくな、リュウ。

俺は山木心護だ。心護でいい」


互いに名乗りを上げながら武器を構える。何時、仕合が始まっても可笑しくない程に、空気が張り詰めていくが…


「はい。そこまで」


バン!と桐島が野間の頭にバインダーを叩き付ける。意識外からそれなりの威力で叩き付けられ、野間はしゃがみ込み頭を抱える。


「はあ。血気盛な事は構わないが、生徒達おまえらだけで勝手に始めるな。

そもそも申請しないと仕合は許可できないって校則があるだろ」


桐島は呆れたように溜息を吐きながら心護と野間を窘める。そんな桐島の言葉に痛みから回復してきた野間が「何でだよ!!初日、あっちは戦ってたじゃねえか!!」と文句を言う。

野間の文句を聞いた桐島は、更に深く溜息を吐く。


「あれは、生徒会長の暴走だ。つまり例外中の例外だ。

山木。お前さんも、バアさんに釘指されただろ」


「……はい」


話題を振られた心護は桐島のいうバアさんが誰なのか直ぐに察しが付き、罰が悪そうな顔をする。そんな心護の顔を見て桐島は「だった止めとけ止めとけ。怒ったバアさんは怖いからな」と、何かを思い出した荷のように怯えたように肩をふるわせる。


「よし。じゃあ、そろそろ各自修練に入れ。

時間は有限だ」


先程までの空気が霧散する。霧散させた当事者である桐島が軽い口調で告げる。しかし納得していない者が二名。その一方が食ってかかる。


「いや!!待てよ、先生!!」


「うん?どうした」


「まず。なんで俺だけ体罰で、心護には口頭なんですか!!

不公平でしょ!!」


「不公平も何も、さっきのはお前が仕掛けたからだろ。

首謀者であるお前は罰を受けて、半分加害者である山木には口頭でいいだろ別に。

まさか武術を習ってる身で体罰だパワハラだとか言うわけじゃあるまいし」


野間の文句に桐島は面倒くさそうに答える。ある種の正論を告げられ、野間はグヌヌと口を結ぶ。しかし先程までのあくまでも次いで。

本当に言いたいことは次だ。だからこそ野間は、先程の勢いのままに口を開く。


「それよりもだ!!

さっき言ってたよな!!生徒会長の暴走で、仕合が出来たって!!」


「おう言ったぞ。うちの生徒会長は、基本的には文句の付け所が可愛げの無い奴なんだが、時たまに私情に動く悪癖を持ってるのが難点なんだよ」


今まで振り回された時のことを思い出しながら告げる桐島の雰囲気は何処かくたびれたサラリーマンを連想させる。しかし反比例するようにその声音は、何処か興がのっている。

桐島の雰囲気が先程以上に和らいだ事を感じた野間は此処で本題を口にする。


「だったら、生徒会長に頼むとか!教師権限を使えば、今日にでも仕合が出来るんじゃないですか!!」


野間の言葉を聞いた瞬間、同じく仕合が流れる事に納得のしていない心護も大きく頷き「その手があった」と声を上げる。左右から、闘志満々のギラギラとした目線を受けた桐島はガシガシと頭を掻き、はぁーと大きく息を吐く。


「よし!お前ら、逸る気持ちは分かるが…一端落ち着け」


「「ッ!!!」」


語尾が強まったわけでもない。流れのままに発せられた言葉。だが、落ち着けと言われた瞬間、確かに心護と野間の両者から発せられていた闘志が沈まされた。と同時に、心護と野間が感じたのは首元に刃を突きつけられているかのような圧迫感。圧を感じ取った瞬間、反射的にに両者は桐間から距離を取り構えを取る。


「全く。毎度事ながら、武芸科は血の気が多い。

まあ、悪い事じゃないけどな。

落ち着いたなら、先生の話を聞いてくれ」


闘志が落ち着いたのを見計らい桐島は二人に話しかける。その声音には先程の圧は無いが、心護と野間の両者は警戒を解かず、油断なく桐島を見据えている。しかし、話だけは聞く様子を見せており、桐島は二人が聞く耳を持っている事を確認してから話し始める。


「血気盛んで結構。武士モノノフを目指すなら、寧ろそうあるべきだ。

だが同時に、力を持つ俺たちはルールを厳守する必要がある。

ルールってのは、色んな観点から律される物だ。それらを守るからこそ、俺たちの力は正しい形で振るう事が出来る。

当然、例外は存在する。だが安易なルール違反を繰り返すと信用は無くなるし、何も感じなくなる。

それは獣に等しくなる。力を持った者が我欲を優先する。それ程恐ろしい事はない。

だからこそ、武士モノノフは誰よりも律しなければ成らない。

ここまで言えば、俺の言いたい事は分かるな?」


確かな重みが籠もった桐島の言葉。それは彼の言葉と言うよりも、誰かから教わった言葉をそのまま伝えているような言葉。

戦えない事に不満はあるが、告げられた言葉に一切の不満もない為、心護と野間の二人は言葉を受けてめる。そんな意気消沈の二人の姿に桐島はククと苦笑を零す。


「若いからこそ、これから学んでくれたらいい。

さっきも言ったが初日の生徒会長の暴走も、裏でキッチリ処罰を受けてる。

この三年間はそういう場所だ。寧ろ、そこまで完璧にされたら俺たち教師の意義がない。

そしてお前らに戦う気があるなら申請を通してやるから、明日まで我慢しな」


「「「え!!?」」」


続けて告げられた言葉に心護と野間そして坂原は呆けた声を出す。そんな三人の姿に桐間は益々笑みを深くする。


「何を呆ける?仕事が増えるが、それも俺ら教師の仕事だ。

言ったろ、ルールを破るのは駄目だが、ルールに則るなら何の問題も無い。

お前達が間違いを犯さない様に為るのと、お前らの熱意を支える事は決して反発しないんだよ。

今のうちにトコトン間違えろ。その度に俺たちが正してやる。

そんで筋道は作ってやるから、その道でしっかりぶつかれ」


教師としてのあり方を告げながら背を押す言葉に二人は笑みを浮かべ「「勿論!!」」と答える。二人の返答に桐島もまた笑みを浮かべる。


「ならさっさと授業再開だ。

時間は無駄にするなよ」


桐島の言葉に今度こそ三人は各々指定された場所に向かい修行を初める。そんな四人の姿を確認しながら桐島は、先程の騒動に一切関心を向けなかった風間に視線を向け


「やれやれ。今年の一年は、例年よりも曲者が多そうだ」


誰に告げるでも無く、小さく呟いた。


◆◇◆◇◆◇◆


その日の放課後、業務を行う理事の矢沢と生徒会長の柳道にある書類が回ってくる。その書類に目を通した矢沢は「毎年だが、この時期は忙しない」と風物詩のような書類に過去を見て、柳道は「楽しみだ」と笑みを浮かべる。

逆に二人とは対極の反応を見せたのは、二人の承認の印が押された通知書を受け取った大戸は頭に手を置き「全く。悪ガキどもわ」と疲れた様に溜息を吐いた。

その日の夜。心護と野間の携帯に通知が届く。


【武芸科壱組山木心護と武芸科弐組野間隆生両者の仕合を承認する。仕合は放課後、17時30分より第四体育館にて実施】


内容に目を通した二人は、歓喜の笑みを浮かべ明日を待ちわびる。

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