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第八刀 隠れた伝統

月一更新達成!!

早朝の天理学園。部活動の朝練で登校する生徒や教員達のみがいる時間帯。そんな時間帯にも関わらず、生徒会室と書かれた場所では、既に何かを書く音がうっすらと聞こえている。


「会長、そう言えば。昨日、また無茶をしたんだって?

桐島の兄ちゃんが、残業だーって頭抱えてたぜ」


「それは当然でしょう。通達も無く急に始めると言うのですから。

会長の突発的な発作にも困ったものです」


黙々と作業を行う中、ある程度作業に区切りが付いたのか、生徒会庶務である天理学園2年八組総合学科後藤力也ごとうりきやが昨日の心護達の仕合を話題に出す。

後藤の言葉に続く様に生徒会書記である天理学園2年九組芸能科佐藤千音さとうかずねが呆れた口調で生徒会長の柳道をみる。

後輩である二人からの視線を受けている柳道だがその表情には一切動揺が見られない。寧ろ、堂々と「ああ。その件なら、大戸先生を筆頭にお叱りと罰を受けたさ」とまだまだ自分も若くて未熟でいけないと呟く。

問題行動を起こしてかつ自覚があってのこの言葉である。面が厚いにも程があると、二人は呆れてしまう。


「はいはい。この表面完璧人ぽい、自己中心的武術バカがやらかすなんて何時もの事でしょ。

そんな事よりもアンタは少しは陽也たかやを労りなさいよ」


「僕は別に。…もう慣れたし」


「それが駄目なんだってば!」


生徒会会計である天理学園3年拾組特進科毒島彩希ぶすじまあやのがそんな三人のやり取りを聞き、柳道をトコトンけなしつつ釘を刺す。

毒島の言葉に柳道はいくら何でもひどいんじゃないかと呟くが、毒島は気にした様子も無く「2年ちょい一緒にいて出た正当な評価でしょ」とジロリと睨み付ける。

対して急に話題を振られた生徒会御家である天理学園3年参組武芸科室井陽也むろいたかやは諦めたように息を吐いているが、その姿が返って毒島を刺激する。

毒島の言葉を皮切りに先程までの静寂とした空気は消え去り、ある種年相応の空気が場を包む。


「あんた達。話すのは良いけど、あと少しで終わるんだから、まずは仕事を終わらせてからにしなさい。

もしくは、そこのバカ会長に罰として仕事を押しつけてから喋りなさい。

教師からの罰は受けても、私たち生徒達の罰は受けてないみたいだし、此処でしっかり罰でも与えない」


「おっ!

流石は優理菜さん!!話が分かってる!!

そういう事なんでお願いしますね」


「あら?なら私もお願いします」


「確かにそれは良い案ね!

ほら陽也。アンタも」


「いや…でも」


「いいから。いいから。

少しはこのバカを困らせない」


そんな緩んだ空気にある種の爆弾を放り込んだのは、生徒会副会長である天理学園3年弐組普通科茶円ちゃえん優理菜ゆりな

茶円の言葉に賛同するように他の役員達が残った書類などを柳道の机に置いていく。如何に残りの量が少ないといえ、それが5つも集まればそれなりの量となる。一限目が始まるまであと一時間ほどあるとは言え、その量はかなりきつい。


「なっ!優里菜、それはあんまりじゃ無いか」


目の前の積まれた仕事の山に流石の柳道も焦りの声を上げる。が、仕掛け人である茶円は自業自得とばかりに茶菓子を出して完全に役員達で休憩タイムを広げ始めている。

他の役員に助けを求めるが、全員がその視線を無視して休息に入っている。唯一室井だけは、心配そうに此方をチラチラと見ているが、毒島と茶円の二人に遮られてしまい。諦めて休息に入ってしまう。

結果として仕事を行えるのは自分になってしまう。

こうなってしまえば生徒会の陰の権力者である茶円に逆らう術は無いと、柳道はシクシク仕事を進めていく。


――――仕事を早急に終わらせるのは当然として。私の我が儘で少し早まった・・・・が、例年通りなら今から忙しくなるだろう。

さて、君はどうする?


柳道は仕事に掛かりながら柳道は昨日の仕合を思い出す。まるで大好きなオモチャで遊ぶ子どもの様に純粋でいながら、決して平和な日常を送っていては浮かべることの出来ない獰猛で好戦的な顔が混ざったその笑みを。


———―似た表情ならば仕合などで観たことがある。なのに何故も、こうも印象に残っているのだろう。

聞いたことの無い流派と言い、彼を含めて今年の一年は興味深いな…


「思考の海に潜っているそこのバカ。

手を動かさないと終わらないわよ」


「っ!そう思うなら手伝ってくれても良くないかい」


「此処で手伝ったら、罰にならないから嫌。

これに懲りたら、少しは自重する事ね」


「くっ!」


茶円の指摘に柳道は慌てて作業を再開し何とか一限目までに全ての作業を終わらせた。


◆◇◆◇◆◇◆


天理学園において学生達は、一般的な普通科・進学に力を入れる特進科・進学よりも就職に力をいれる総合学科・俳優/女優・アイドル・モデルや芸を学ぶ特殊性の強い芸能科・武士モノノフを育成する武芸科と分かれている。

その中で特に武芸科は特殊である。前提として人数が少ない為、武芸科のみでクラスを作ることが難しいため、武芸科の生徒は、その学力や学びたい内容によって他の学科の生徒達のクラスに配属される。

その学科の授業のカリキュラムと照らし合わせて武芸科のカリキュラムが行われるため、同じ武芸科でも授業の中で他の武芸科の生徒とは中々一緒にならない事がある。

その為、武芸科においては仕合の結果は大きな意味を持っている。


天使学園での入学式を終え、新生活に浮かれながらも授業は初日から進んでいく。普通科の中に配属された心護や坂原も同じであり、教師の自己紹介や軽い中学の範囲の復習をしながら授業が進んでいく。

2限目の終了を告げる鐘が校舎に響く。授業が終わり、心護が所属する壱組の面々は、授業で使用した教科書を片付け、次の授業の準備を行う。次の授業は壱・弐組合同で行う体育。その為、壱・弐組の生徒達は、更衣室で着替えを行う為、教室を後にする。

更衣室で着替えを終わらせた心護が更衣室から顔を出すと一人の人物が立っていた。「桐島さん?」更衣室の前に立っていた意外な人物に心護は思わず声を掛ける。


「武芸科は体育の授業は普通科とは別の場所でやるんだよ。

そんで俺はお前らの担当教師だ。

場所は前に仕合を行った場所だ。行き方はわかるか?」


桐島は心護の疑問に答える様に自分がいる理由を答える。その返答に納得した心護は行き方は分かると答える。心護の返答を聞いた桐島は「それじゃあ、先に向かっててくれ」と指を指す。

それを見た心護は頷き、一足先に第四体育館に向かった。


◆◇◆◇◆◇◆


授業開始2分前。第四体育館には心護を含めて4人と教師である桐島の計5人が集まっている。


「それじゃあ、少し早いが授業を始めるぞ。

点この前に、説明会もあって知っていると知っていると思うが、今回は1人特例が居るから、復習を込めて説明する。

お前ら武芸科は各学科の副教科のコマ数を利用して授業を行う。授業内容については、歴史とか心得とか、制度を学ぶ学科もあるが、メインはやはり実技になる。

ただし、各々修めている流派が異なるため、一律的な実技は余り行わない。精々軽い準備運動ぐらいだ。

他は各自、流派事の訓練を行って貰って構わない。

まあ一応、教師おれの手元には生徒達の流派についてのデータはあるから、細かいアドバイスは難しいが、大雑把な点ならアドバイスは出来るから、適度に期待せずに頼ってくれ」


桐島の言葉に心護を除く3人は僅かに?を浮かべるが、説明会などを受けていない心護に取ってはありがたく授業内容を把握していく。


「うんで少し早いが実技試験についてだが、歩法・体幹・素振り・技・仕合の五項目で判断する。

学科はそれほどでも無いが実技は特に難易度が高いから、学んでいるから大丈夫だと油断してると補習受けるハメになるから気をつける様に。

実際、2~3年に1人は居るからな。

以上、説明は終わりだ。何か疑問点や不明点があったら授業終わりや放課後にでも質問してくれ」


分かったかと桐島は心護の方を見ながら告げる。その言葉に心護は了解したと言う意味を込めて頷いた。


「それじゃあ、点呼の前に自己紹介をしようか。

俺の名前は桐島忠。年齢はまあ、30代前半だ。

担当科目は、武芸科と古文をしている。2年次から俺担当の古文の授業を受けるかも知れないから、そん時は宜しくな。

後、此処にいる3人はそうだが輪和荘の管理人もしてるから、住んでる奴は寮では気楽に話しかけてくれ。

趣味は料理で、それなりに覚えがあるから晩飯とかリクエストがあったら言ってくれ。出来るだけでるだけ応えるつもりだ。寮に住んでない奴でも料金払えば、寮で飯は食べられるから、一人暮らしなら是非活用してくれ。

伝えた奴もいるが、俺も武士の一人だ、流派だが、内村流槍術を習ってる。

とまあ、こんな感じだ。名前を呼んだら、お前らも名前と流派と趣味を答えてくれ。武芸科と輪和荘むこうだと交流会も普通の歓迎会はしないからな。お互い自己紹介も済んでない事もあるだろうしな」



桐島が自己紹介をしながら気楽なテンションで告げる。説明を受けた心護達は了解したと頷く。


「それじゃあまずは、壱組、坂原」


「はい!

坂原仙弥です!

流派は天然理心流を習っています。

趣味は、ランニングをよくしています」


「よし。次は、山木」


「うっす。

山木心護です。

流派は斬荷流の門下生です。

趣味は……釣りっすかね」


「OK。次は、風間」


「…はい。

風間かざま仁朗じろう

流派は、タイ車流。

趣味は読書」


「無口だな。まあいいっか。ラストは、野間」


「はい!!

野間のま隆生りゅうせいだ!!

習ってる流派は、矢の如くと言われる稲田流!!

趣味は、よく登山をしに色んな山に登ってるぜ!!」


「逆にこっちは元気だな。

まあ元気なことは良いことだ。

よし。簡単な自己紹介も終わった事だし、早速始めるか」


桐島は自己紹介と点呼が終了するとパタンとバインダーを閉じて告げる。心護達は桐間の言葉に同意する様に強く頷き武芸科の授業が始まった。


◆◇◆◇◆◇◆


武芸科における実技授業はほぼ個人修行に当てられる。全体としては修行を始める前にランニングや柔軟を一緒に行った後は、担当に身が行う修行内容を告げ、その為に必要な機材を隣の倉庫から持ってきて、各自が今までも積み上げてきた修行を行う。いくつか例外はあるが、概ねその流れで進む。

心護達も例に漏れず、ランニングとクラス事に分かれての二人一組での柔軟を行う。基礎が粗方終われば、担当である桐島が生徒達が告げた修行内容に適した場所区切りを行い、時に稽古相手が必要な場合は、桐島がその相手をする。その段取りを終わらせ、心護達四人はそれぞれ指定された場所に分かれていく。


「山木。少し良いか」


「うん?どうしたんだ、坂原。

後俺のことは、心護で良いぜ」


声を掛けられた心護は、まだ少し堅い坂原に気楽に行こうぜと言うように応える。心護の言葉に坂原も「そうか。では俺のことも、仙弥で構わない」と告げる。


「了解だ、仙弥。

それで何だよ?時間も限られてるし、さっさと始めたいんだけど」


背後の自分のエリアに視線を向けながらソワソワとした雰囲気で改めて心護は坂原にどうして声を掛けてきたのかと聞く。心護の問いに坂原は一度目を伏せた後、刀を握ったまま拳を心護へと向けた。


「?。なに…」


「俺は!!」


を。と続けるよりも早く坂原が声を出す。


「心護、お前に敗北するまで、驕りがあった!!

同流派においても特に腕が立つという言葉を鵜呑みにして、自分に酔っていた!!

本当の意味での他流派仕合も行った事が無いにも関わらずだ!!」


突如として大声で語らえる坂原の独白に周りも何だ何だと視線を向けている。心護もまたどうしたと思いながらも、その内容を聞きある種仕方が無いと言う思いを感じていた。

それ程までに先の仕合は激烈だった。ほんの少し歯車が狂っていれば、負けていたのは自分だったと断言出来る程だ。断言出来てしまうほど、坂原仙弥の技は強力であり洗練されていたのだ。それは技を受けた心護だからこそなおを思うのだ。


「だけど、お前が俺の驕りを壊してくれた。

お陰では俺は初心を思い出せた。お陰でまた一から積み上げていける。

だから、山木心護。俺が再びお前に挑むまで、誰にも負けるな・・・・・・・!!」


坂原の独白は誓いと懇願だ。自分が強くなると言う誓い。そしてそんな自分を破った山木心護には、自分に倒されるまで負けるなと言う懇願。同時にそんな心護に土を付けるのは己だという宣戦。

自分の弱さを根底とした誓いに見えて、何処までも自分本位な願望。その願望が正しいのか間違っているのかは置いておく。

心護は少し唖然としながらも、その言葉の意味を理解して深い笑みを浮かべる。


「ハハ。いいぜ、そもそも負ける気なんて更々無いんだ。

仙弥。お前ともう一度やる時まで、俺は負けねえよ」


その思いに応え心護は、坂原の拳に自分の拳をぶつける。コツンとぶつかり合う拳が互いの了承を意味する。突如として起きた二人の宣誓を見た周りは、一切の関心を見せぬ者、若いねと感心する者、そして…


「ハッ!」


小説・漫画・アニメにおいて「殺気」とは使い古された表現である。しかし現実において彼ら武士達は、実際に殺気を感じ取る。

殺気とは、対象に向ける目線であり、自身に迫る足音・呼吸であり、表情であり、普通では無い匂いであり、五感の全てで感じ取るものだ。

瞬間、心護の聴覚が迫る踏み込音と武具を放つ者独特の呼吸音を、触覚が迫る大気の圧を、視覚が驚愕に顔を染める仙弥を、嗅覚が闘志を嗅ぎ取る。

五感から上半身に向けられている事を察し心護は、反射的に上半身を反らす。心護が上半身を反らした瞬間、先程まで心護の上半身があった場所に槍が襲い来る。


「リュウ!いきなり何のつもりだ!!」


心護と同じく槍の攻撃を回避した坂原が、乱入者である野間に真意を問う。問われた野間は、槍を引き戻しながらも悪びれる様子を見せず口を開く。


「悪い悪い。でもよ仙弥。お前らが面白い話をしているのも悪いだろ。

それにお前も伝統は知ってるだろ?

仙弥。悪いがお前の誓いは俺が破らせて貰うぜ!!」


乱入者ある野間の言葉に坂原は唇を噛む。伝統それは、暗黙の了解に近いものだ。一年の最初に行った仕合の勝者は、他の生徒達に狙われ続ける。そしてそれは負けるまで続くというのも。

訳など語るまでも無い。より強い者を倒したいという本能が、自ずとこの伝統を生んだのだ。


「そういう訳だからよ!

俺とやろうぜ、山木心護!!」


坂本への言葉を切り、野間は体勢を立て直した心護へと視線を向ける。視線を向けた先、心護は顔を俯かせていたが、野間の言葉を聞いた瞬間笑う。


「ハハハ!!

本当に天理学園ここは最高だな!!!」


決意を新たにした途端である。笑みが零れるのを止められない。心護は改めてこの学園に来られた事に感謝した。

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