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第七刀 若葉達の朝

想像よりも慌ただしい入学式と入寮式を終えた翌日、輪和荘。まだ日も昇りきらぬ内、日の光によって薄まった夜を斬る裂く音が響く。それも一つでは無く複数。

武士達の朝は早い。何故そうなったのかは誰も分からない。只ひたすらに鍛錬の時間を求めた結果、そうなっただけの話である。

そんな一人である心護も例に漏れず、与えられた鍛錬場で汗を流している。


「フゥー―――」


中段の構えを取る心護は、既に大量の汗を額から流している。流れ落ちた汗は、首を通り既に上半身すらビシャビシャに成っており、服が張り付くのを嫌ってか、上半身裸で木刀を振っている。

通常鍛錬方法は、流派によって千差万別だ。呼吸法、歩法、型、実践稽古等を組み合わせた流派独自のものもある。

そんな中で心護が修める斬荷流の鍛錬はシンプルの一言に尽きた。


「はッ!!」


集中し、自身と木刀の重さを正確に把握して振る。ただそれだけが、心護が師より教わった斬荷流の鍛錬方法だ。以前なら加えて、師匠との実践稽古もあったのだが、今は出来ないため、ただ素振りを行う。

素振りを終えれば、もう一度構える。その際、先程と同じようには構えない・・・・・・・・・・・。疲労から木刀と身体の一体感・・・が失われる。その為心護は、その都度身体と木刀が一体になる様に重心や構え方を変えて素振りをしている。

本来の武術においては、流派によって最適な構えは決まっており、その為どれだけ疲労してもその構えを維持する、もしくはその構えが最も楽な姿勢になる様に鍛錬を行うのだが、斬荷流はその特性・・から【重さ】を重要視する。その為、重さを感じ取る感覚を磨く意味を込めて、特定の構えを取らず、その都度身体と木刀に最適な構えを取って素振りを行っている。


千を超える数を振り続けていた心護はふと視界の端から昇る朝日が強くなった事を捉え手を止める。

時間的にもそろそろ朝飯や登校の準備を始めなければならない時間だ。まだまだやっておきたい欲求に蓋をして、自身の訓練室から顔を出す。


「おっ!心護か。

お前もあがりか?」


「糸原先輩もっすか」


「おうよ!

腹の虫が鳴り始めたからな。

まだ続けてる奴らもいるが、まあ時間も時間だからな。

時期に切り上げるだろ。

そんな事より、桐島のおっさんの飯は美味いから期待してろよ」


バシバシと心護の肩を叩きながら糸原は先に寮へと戻っていく。糸原に叩かれた肩をさすりながら、心護は鍛錬の音に後ろ髪を引かれながらも寮へと戻っていった。


◆◇◆◇◆◇◆


シャワーを浴び、通学の準備を終えた心護は朝食を食べるために食堂に向かっていた。


――――おっ!同期か?


食堂に向かう最中、先に食堂で食事を終えたであろう一人の寮生が共有ルームから、心護の側の一年の部屋のある宿舎ルームに向かって来ている。


「よう!

山木心護だ!

お前は?」


「………」


これから三年間同じ屋根の下で生活するのだからと心護は挨拶をしたが、相手はそれをスルーして通り過ぎる。

まさか無視されるとは思っていなかった心護は、唖然としてしまい硬直してしまう。


「なんだよ、えらく無愛想な奴だな」


数秒の硬直の後、心護はふて腐れたようにそう呟いた。あんな奴と三年間同じ屋根の下で生活できるのかと不安になるが、今は考えても仕方が無いと割り切る。


◆◇◆◇◆◇◆


食堂に入った瞬間心護の鼻孔に食欲を刺激する匂いが立ちこめる。その匂いを嗅ぎ、朝方糸原が告げていた言葉を思い出し、より食欲が湧き上がる。

輪和荘の食事は、食堂が開放される朝の6時より、寮生事に仕分けられた食事を期限である8時までに食べれば良い。

心護が食堂に訪れたのは7時20分頃、食堂の時間も後半にさしかかっており、人数もそれほどいない。これならば何処で食べても問題なさそうだと心護は、座る席に当たりを付け、食事を取りに行く。


「おっ!お前さんが山木心護か」


「アンタが、桐島さんか?」


心護が食事の提供口に置かれた朝食を取って席に座りに行こうとすると、提供口の奥から八重歯が特徴的な男が現れる。

糸原の言葉から現れた男が桐島だと当たりをつける。心護の言葉に八重歯の男は「正解!上の奴らから聞いてたな。改めて、この寮の管理人をしている桐島忠きりしまただしだ。お前らと同じで武芸科出身だ。宜しくな。

上の奴らも頼もしいから滅多に無いと思うが、困ったことがあったら言ってくれ。無理の無い範囲で応えるぜ」

桐島はそう言って人の良い笑みを浮かべ手を差し出す。差し出された手に応えるように心護も手を差し出す。瞬間、心護はその鍛え上げられた手から桐間の実力を見抜き、その感じ取れる高さに目を見張る。

同時に武士モノノフとしての闘志が顔を出す。


「改めて山木心護です。よろしくお願いします。

糸原先輩から飯が美味いって聞いてるんで楽しみしてます」


「はは。武芸科は血の気の多い輩が多いけど、君は人一倍だな。

今年の一年は特にくせ者揃いと理事長から聞いていたが、その通りだな。他の一年生もそうだったが此処まで露骨なのは君が初めてだ」


心護の闘志を真正面から受けた桐島は面白いものをみたとばかりに笑みを浮かべながら「その通り。俺の手料理は絶品だ!時間が無くなる前に全部食べきってくれよ。残されるのは悲しいからな」と心護の肩をバシバシと叩く。心護は自分の意思がいなされている事に敗北感を感じながらも、言われたとおり時間も無いと会釈をして席に着く。

席に着き、いただきますと食材に感謝を告げ朝食を口にする。


――――あっめちゃくちゃ美味い!!


糸原の言葉通り、桐島のご飯は一口食べた瞬間、心護が食べてきた料理の中で1番美味しかった。心護は先程の桐島とのやり取りでの敗北感を忘却し、ただただ朝食の美味さに没頭した。

しばらくは月一更新で頑張ります!!

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