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第四刀 斬撃

『三年間、そこでお前に足らない物をしっかり磨き上げてこい』


そう言われて何も分からずに放り込まれた学び舎。足らない物。そう言われたとき、心護は意味が分からなかった。

今までも自分に足りない部分があると、あの師匠は回りくどい方法で、自分に気づかせてくれた。

だが、今回はその気づかせるヒントすら無い。学園に向かいなさかも必死に、自分に足らない物と言う物を、今までの師匠の言葉や課題の経験を元に考えたが、全く分からなかった。

普段ならば、気づく為の何かしらの切っ掛けになる言葉をくれるのだが、それすらなかった。

霧の中、目的地が定まる事なくあやふやに歩いている感覚が、学園に着いてからもずっと片隅にあった。


――――今のは…


しかし、その一太刀を浴びた瞬間、強烈な痛みと共に感じたのは、驚嘆。

師匠とたった二人で技を磨き上げてきた。他の流派と出会ったのも今日が初めてだった。故に、興味があった。どれほどの物なのかといいう好奇心があった。

師匠より教えられて来た武士モノノフとしての本能があった。

その全てが、己の下らない慢心だと、理解させられた。

技へと繋ぐ歩法も、刀を振り抜くための体捌きも、太刀筋の鋭さも、技を放つためにリスクを負う胆力も。

自分自身も同じだからこそ、どれほどの研鑽を積み重ねてきたのかを察する事が出来た。

熱が全身に広がるように激痛が広がっていく。呼吸をするという当たり前の事さえも、今の身では、困難を極める。

それでも、それを凌駕する程に湧き上がってくるのは…


――――すげぇ!すげぇ!すげぇ!すげぇ!すげぇ!すげぇ!すげぇ!


一種の尊敬。自分の常識では考えつかなかった術理!自分と同じ年齢の武士モノノフが、自分では絶対に使う事の出来ない術理を持って、己を倒さんとしている。

その事実に対する歓喜が、尊敬が、感謝がわき上がる。

坂原仙弥という武士の一太刀が、己の中にあった霧を斬り裂いた。

ああ、これ・・こそが師匠の言っていた、足りない物。

あの場所に閉じこもっていたのでは決して、知る事の出来なかった感情。

今目の前に自分に打ち勝とうとしている相手を乗り越えたとき、自分は一体、何処まで進めるだろうか。

競える相手がいる事に感謝を、そして自分に向かって全力を出してくれる敵に敬意を。


――――なら、それを形にしないとな…


敬意と感謝、そして殺意を持って、その戦意おもいに応えろ。全力には全力で、それが武士の礼儀だ。

痛みがある、それでもこのまあ終わるなんてあり得ない。


「天念理心流を見せてくれた礼だ

今度は俺が、斬荷ざんかりゅうをみせてやる!!」


宣言しろ。そして示せ。そして勝利しろ!

それこそが、今の俺のすべき事だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


――――驚いた。まさか、あれを喰らってまだ立ち上がるとは。

    たいした耐久力だな。


立ち上がった心護の姿を見た柳道は、驚いた様に眉を上げる。

古い時代では、木刀を持って行われていた仕合。当たり所が悪く、対戦相手が死んでしまう事故も多数あった。

しかし技術が進歩して生まれたのが、対衝撃反応式クッションで出来た保護具である。

高速で振るわれる事で空気を吸収し、衝撃が加わる事で膨張し、模擬武器の直撃を避ける。加えて、模擬武器には衝撃分散ジェルがつけられており、直撃したとしても、ジェルが衝撃を分散してくれる。

とは言っても、この二つはあくまでも直撃による骨折などの怪我を予防する為の物でしかない。

対衝撃反応式クッションによって、直撃は避けられると言っても、痛みを無くす物ではない。

一定以上の技術を持つ者ならば、衝突した時の衝撃は十分なダメージになる。ジェルの方も、骨等を守る為であり、分散した衝撃を受けるのは筋肉なのだ。

これらの二つによって、仕合による死者はいなくなったが、それでも怪我人がいなくなる訳では無い。

幸か不幸か、そういった患者が一定数いたために、日本における整体や医療技術の発展に繋がった。


―――――今年の1年は、粒ぞろいかも知れないと思っていたが、どうやら思い過ごしでは無いかも知れないな。

普通に考えれば、立ち上がれただけでも対した者だが、此処から君は何をするんだい。


学園における生徒達の長は、これからを思い浮かべ楽しそうに仕合を見守る。


◆◇◆◇◆◇◆◇


立ち上がってきた心護の姿に驚愕を覚えるが、それも一瞬のこと。即座に迷いを振り払い、構えを取る。


――――斬荷流…聞いたことの無い流派だが、何処かの流派から派生したものか?

いや、知らないならば考えるだけ無駄だ。

ならば、俺が成すべき事は一つだ!


名乗られた流派に聞き覚えが無い仙弥は、予測を立てる事を辞め、構えを取り心護に集中する。

仙弥の集中を感じ取った心護もまた、笑みを浮かべ集中力を高めるように呼吸を深める。


――――相手が何をしてこようと関係が無い。

俺は俺が信じる最強を持って、その全てを切り倒す!!


――――奴の流派は恐らく全て捨て身が前提。

下手な崩しは、むしろ向こうの得意な戦型かたに持ち込まれる。

なら、手段は一つ!!


二人だけの無音の世界。二人ただ待つ。己の気が満ちるその瞬間を。数秒先にて、勝利する己の姿を実現させるために、極限の今を研ぎ澄ます。

抜き身の白刃が互いの喉元に迫る緊張感。二人だけの空間に置いてただ一人中立である柳道は、ゾクゾクと興奮を覚える。


――――まさか初日で、ここまで真剣勝負を見られるとは、私は本当に運がいい。


自分よりも年下でありながら、これだけの空気を生み出す二人に柳道は、心の底から敬意を、そして同時にそれを体感することの出来る自分の幸運に笑みを浮かべる。

そしてその笑みが合図となった。


「「ッ!!」」


出だしは僅かに仙弥が早い。されど…


――――斬撃の速度が速い!!


二人の様子を見ていた柳道は、その異質を把握していた。出だしが遅れたはずなのに、刀が届く速度・・・・・・は明らかに心護の方が速い。


――――ッ!?問題ない!逆境は、望むところ!!


――――斬る!!


対面していた仙弥もその異質さを感じ取るが、恐れる事なく踏み込む。

その直後、激突が起きた。

ゴン!と轟音が鳴り響く。刃と刃がぶつかり合い、拮抗が生まれる。


――――天念理心流…


仙弥は拮抗した状態から技を始動せんとするが。瞬間、異変に気がつく。


「なっ!?」――――これは、押し込まれ…


受けたはずの心護の斬撃が止まらない。一度止まったはずなのに、可笑しな事に心護の斬撃は一切止まっていない。

堪えようと足腰に力を込めるが、心護の斬撃はその力に呼応するように力を増す。


――――堪えが効かない…押し込まれ


押し込まれ、重心が後ろに下がってしまえば、仙弥にその斬撃を押させる事が出来ない。


――――斬荷流 斬法ざんぽうノ弐・じょう


「はあっ!!!」


心護が刀を振り抜くと同時、仙弥は吹き飛ばされる。

振り抜いた心護は、状態を戻しながら地面に倒れた仙弥を見据える。構えは解かない。自分がそうであった様に立ち上がってくるかも知れない。

だからこそ、構えを解かない。


そしてその思惑は現実になる。フラフラになりながらも、仙弥は立ち上がる。


「ハハ。やっぱ、すげぇなお前」


その姿に改めて敬意を持って構えを取り、仙弥も構えを取ると為るが…


「っ――――」


平正眼の構えを取ろうとしてそのまま仙弥は、ドサと床に倒れる。一瞬の沈黙。何故、限界だった身体でも立ち上がり、戦おうとしたのか、その理由を理解した・・・・・・・心護は告げた。


「坂原仙弥。初めて仕合えた相手が、お前で良かったよ」


感謝の言葉と共に心護は頭を下げる。そして再び顔を上げた心護と倒れた仙弥、その両者を確認した柳道が今度こそ告げる。


「それまで!!

この仕合、勝者は、山木心護!」


仕合の終わりが告げられる。それを確認した心護は、静かにその場を去る。礼はしない。それは武道の世界のルール。

武士モノノフにおいて、勝者が敗者に礼を示すなど、それこそ敗者を侮辱している事に他ならないのだから。


う~ん

上手く表現できた気がしないので、もしかした書き直すかも知れません。

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