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第二刀 強者の一角

心護と仙弥の二人が仕合を行う事が決まった同時刻、天理学園学理事長室。

そこに座るは、男性にしては珍しく腰にまで伸ばした黒髪と鼻の中心部から横一線に走る刀傷。本来ならば痛々しい筈の傷が、その男が纏う雰囲気とその猛禽類を幻視させる瞳と合わさって、見る者に嫌悪感を抱かせない。本人に伝えれば、眉を歪めるだろうが、むしろ勲章様に思える。

彼こそは天理学園理事長にして、武道省ぶどうしょう 武術連盟ぶじゅつれんめい幹部

七支刀しちしとう第三刀だいさんとう

草薙くさなぎ一刀流いっとうりゅう 当主とうしゅ 矢沢やざわ明宗あきむね


「………」


明宗の前には一枚の書類が無造作に置かれている。その書類に書かれている内容に視線を向けながら、明宗は数日前の事を思い起こしていた。

何の前触れも無く、音信不通だった知り合いから連絡が来たと思えば、こちら側の質問などお構いなしに、一言。


『弟子をお前の学園に入れたいから、手続きと書類をよろしくな!住所とかは後で送るから、任せた!』


それだけ告げると通話を終了させた。掛かってきた番号に折り返し電話をしても、出る事はなかった。文句の一つ二つでは済まないほど、言いたいことがあったが、これ以上怒っても自分だけが損をするのだと、心を落ち着かせたのは、自分らしからぬ行動だったと思う。

とはいえ、あの自由奔放さと唯我独尊の化身とも言える友人の前だと、そうなってしまうので自分もまだまだ修行不足だと痛感出来るのは、ある種ありがたいが…

そして冷静さを取り戻したとき、友人の台詞の異常事態に気がついた。


『弟子…?…弟子と言ったのか、あいつが』


その実力の高さは、問題がある人格面を覆い隠すほどに強烈である。その実力は紛れもなく達人であり、今代でも随一といえるだろう。

あの性格で無ければ、七支刀筆頭にさえなれたかも知れない。しかし当の本人は、『めんどい。いらん』それだけの理由で辞退したほどだ。

それはまあいい。あくまでも七支刀になるかは、本人の意思に委ねられている。問題なのは、弟子を取らないという点だ。

技術の継承は、流派の当主の役目であり、技を磨くと同時に後継を育てる事が、受け継いできた自分たちの役割だ。

しかし…


『弟子?居ないが、何か問題あるのか?』


自分が弟子の育成について討論をしようと数人の馴染みと集まった際、偶然捕まえ、出席させた折りに飛び出た言葉だった。

余りに言葉にその場にいた全員が唖然として動きを止めてしまった。当の本人は、首を傾げて不思議そうな顔をしていた。

巫山戯るなと思った。友人の技は、自分達から見ても見事であり、それが失われてしまうは間違っている。

全員が詰め寄り、あの手この手で叱り、弟子の意味を説いた。濁流のように説かれ、友人も勘弁してくれと謝った所で、連盟を介して有能な弟子候補を見繕う話になったのだが…


『あ~~そう言うのはいいや。そうであった・・・・・・みたいに、の目で見つけるわ』


真っ直ぐと異論を認めないそう存外に口にした。反論を口にするのは出来たが、誰も否定はしなかった。友人の過去を考えれば、それは必然だと感じたからだ。

一先ずは、弟子を探すと決めただけでも一歩前進だと思っていた。

しかし時間が経てども、一向に弟子を見つける気配も無く、それとなく問うてみても

『あ~~まあ、そのうち見つかるでしょ』とそれほど気にした様子も無かった。

此はいよいよ、強制手段を取るべきかと悩みはじめていたタイミングでの連絡は、明宗にとっては無視出来ない物だった。

長い期間弟子を取らなかった友人が弟子を取って、学園に入学させたいと言う事実。それが真実ならば、大事件にも等しい。

弟子がこの学園で研鑽して欲しいとして、自身を頼ってくれたのも友人としては嬉しく思う。

しかし問題は…


『もう武芸科の試験は終わっているんだ、あの馬鹿者!!』


そう数日前に武芸科の試験は終了している。元々、武芸科に進む人数も少なく、武術連を通して人数なども把握が容易なため、武芸科の試験は他の科よりも早くに終了してしまうのだ。

この時点で入学することは不可能だ。だが、明宗は友人の申し出を断るという気はさらさら無かった。

あの自由奔放さには、何度も手を焼いているが、それでも自分には出来ない雲のような生き方をする友人に一種の尊敬があり、門下生を持つ身としても、弟子に再考の環境を用意したいという気持ち理解できる。

ならばと…


『仕方が無い。余り気が進まないが、持っているだけで使う気がなかったが、権力ものは使いようだ』


七支刀第三刀の権力と天理学園理事長の肩書きを使って、枠を増やしてねじ込む。所望、裏口入学だ。学力や武力という項目があるが、友人の弟子である時点で、武力については問題なし。後は学力だが、あの友人は適当なところがあるが、その辺はしっかりしていたはずなので、問題ないはずだ。

数日後、友人から届いた住所に必要な書類や必要になるかもしれない資料を送付した。


「山木心護…奴の弟子」


本来ならば、願書が来た時点で確認したかったのだが、連盟や理事長としての仕事、そして当主としての仕事が忙しく見る事が出来たのは、つい先程だ。

直接見たことが無いから、山木心護という少年がどれ程なのか分からない。友人がこの少年に何を見たのかを確かめたいと思う。

その為には、一番簡単なのは自分が会いに行くことなのだが…


――――だが、いきなり理事長が一生徒との顔を身に行くなど、普通は無い。それは明らかに、山木君が何か特殊な事情があると勘ぐられてしまう。逆に呼び出すのも同じ…どうするべきか


友人の弟子には何の柵も無く、一生徒として研鑽を積んで欲しいと思っている。それは友人が望んだ事であり、自身もが望むことだ。

その為、自分の立場が会いに行くと言う行為を行う事で、下らない柵を纏わせてしまうのは不本意だ。

出来るならば早めに会っておきたいと考える明宗は、どうすれば会いに行けるだろうと思考を巡らせていると。

部屋に備えつけられていた電話が鳴る。思考を一時中断し、明宗は受話器を取る。


「もしもし。私だが何かあったか」


「理事長。お忙しい中すみません。

実は、柳身君が会長権限で二人の新入生の仕合を開催していまい。

柳道君が審判を行うので心配は無いと言っていますが、報告は必要だと思いまして」


「心配しなくても大丈夫だ。

むしろ、キッチリと報告してくれて助かる。

柳道には困ったものだが、審判としても問題ないだろう。

何度か行って無事に納めた実績もある」


柳道誠は、普段は品行方正で頼りになる生徒会長なのだが、時たまに年相応と言うべきなのかは分からないが、我が儘という様な事を起こす。質が悪いのは、自分の分量で処理が出来てしまうため、周りにそれほどの被害が出ないという所か。

その実力は、明宗自身も認めるところであり、審判としても申し分ない。


「その件は柳道の裁量に任せる。

一応、仕合をする生徒の名前を教えて貰ってもいいか」



「分かりました。

ええっと、仕合を行うのは壱組の坂原仙弥君と山木心護君ですね」


「…分かった。

要件は以上で問題ないか」


「はい。連絡事項は以上になります。

では、理事長。失礼致します」


その言葉と共に通話が終了し、受話器を置いた明宗は身嗜みをと問えると、理事長室から出て行く。

向かう場所は一つだ。仕合の観戦ならば、自分が行った所で何の問題も無い。大手を振って観察することが出来る。


「山木心護…勝手で悪いが、その鱗片を見定めさせて貰うぞ」


何処か楽しそうに呟きながら、明宗は仕合を行う場所へと足を進めた。


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