2-9 楓の種族
「私の種族はーー″付喪神″。物に宿る種族ですわ。」
「ほほぅ……。それはそれは。通りで物への移動もできるわけだ。」
「ええ、私の本体、つまり自我自体は霊魂のような存在ですの。物を媒介に顕現して、仮初の肉体を得ているというのが分かりやすいかしら?」
「ふぅむ。なんとなくはわかった。つまりその気になればどんな無機物にでも憑ける訳だ。」
「……実はそうでもないんですの。」
「そうなのか?」
「ええ、神様の制限で今はまだ傘にしか取り付けないようになっていますの。」
「……そうか。分かったよ、付喪神の『楓』。ありがとな。続きといこうか。」
「……ええ。天狗の『狗』さん。存分に殺し合いましょう?」
ーー付喪神。物が百年存在すると魂が宿り動き出す妖怪。どんな物でも魂が宿ることから″九十九神″とも表記される。
……こいつは厄介だ。さっきの会話で何気なく楓が言っていた。『今はまだ』傘にしか、と。つまりこの先能力の使用許可が出たら、どんな物に化けるか分かったもんじゃない。今、傘にしか憑けないうちに倒さないと、後々確実に脅威になる。
「天狗が『狗』、推して参る!!」
「付喪神が『楓』、舞ってみせましょう!!」
そこからの戦いは膠着状態が続いた。楓が瞬間移動出来ると知った狗は、楓が放った空中に留まる小傘を撃ち落とし、番傘の攻撃を強い風で押し返す。楓は常に周りに意識を割き、狗が鎌鼬のような大技を繰り出せないよう絶えず攻撃を続ける。
両者共に決め手に欠けている状態であった。
「ちっ! ぶんぶんぶんぶんハエみたいに小傘飛ばしやがって! 鬱陶しいんだよ!」
「あらあら、優雅さが足りませんわねぇ。私のように軽やかに動くこともできないのかしら?」
「軽やかだぁ? 番傘振るたび地面からズシンズシン音がなってんぞ超重量級が!」
「カチーン! 乙女になんて言い草するの……よっ!!」
「ふんっ!! 乙女ならこんな重い傘振り回さないで、フライパンでも振って花嫁修行でもしてろってん……だっ!!」
「きゃん! それは男女差別発言ですわよ! 今の時代女が家事をやるだなんて古い考えーー」
「おらぁ! 女房は夫の三歩後ろを歩くのが全男子の夢だよ!」
「あんっ! イケメン相手ならやぶさかではないですけど……ねっ!!」
いまだに均衡は崩れない。隙がないのだ。共に攻防に優れている。何かしらキッカケがないと押し切れない。
ーーしかし、その瞬間は突然訪れた。
ガラン、と音を立てて崩れたコンクリートのカケラが、狗の足元に転がる。狗は楓の攻撃に釘付けになっており、そのことに気付かず……。
「……のわっ!」
思い切り踏みつけ、狗は体勢を崩す。
(マズイっ……!!)
(勝機ですわっ!!)
狗の体勢が崩れたところに、番傘の石突を向け突きを繰り出す楓。狙いは喉。番傘の尖った石突部分であれば大ダメージと更なる隙を作れるだろう。
(もらいましーー)
「『空』っ!!!!!!」