2-8 幻想瞬歩
ーー何故目の前に? そうよぎったが、次の瞬間には目の前から楓が消える。
「ほらほらぁ!! ブヒブヒお鳴きなさいな!!」
次は後頭部、脇腹と絶え間なく楓の拳や蹴りが突き刺さる。首、鳩尾、顎。的確にダメージが通りやすい部分を攻撃される。フットワークでは到底不可能な動きだ。それこそ瞬間移動をしているような……。瞬間移動……? まさか……!!
狗:HP63/100
「あら? 気づきましたの? やっぱり目敏い方ですのね。一気に畳み掛けるつもりでしたのに。」
攻撃の手を止め、少し距離を置いたところで楓が話し始める。口元には加虐を楽しんでいる笑みを携えたままだが。
「ーーお前。あの小傘に移動できるんだな。」
「パチパチパチー。正解ですわ。よくわかりましたわね?」
「投げつけてきた小傘が攻撃の役割果たしてなかったんだ。どんな馬鹿でも分かる。」
「あらあら、私貴方の事ハナナガザルだと思ってましたわ。おほほほほ。」
ーーそう。この女は、投擲してきた小傘の所へ瞬間移動ができるのだ。
「瞬間移動とは恐れ入ったね。アンタみたいな煙たがられる存在にはお似合いの逃げ技だな。」
「うふふ。私が逃げるのはイケメン相手だけですの。貴方みたいな猿を前に逃げるなんて以ての外ですわ。」
「はっ。立派な鼻がついてる人型を猿に見えるなら、相当トシだな。眼科にかかる事をオススメするぜ、お・ば・さ・ん?」
「おばっ……! ……コホン。まあ私の強さに驚いて口でしか戦えない下々の者には好きに言わせてあげましょう。ええ。私、上流階級ですので。」
青筋を浮かべながら引きつった笑いを浮かべ、楓は話を区切る。……こりゃ図星か? 多分マジでいいトシした女だな。
しかし瞬間移動、この能力非常に厄介だぞ。傘自体の威力もなかなかだが、この女自身の格闘術。これが一番手強い。見た目の華奢さと裏腹に、一撃の重さもあるが、何より急所狙いに躊躇がない。後頭部、首、顎など人体の弱い所をしっかり狙ってきている。
「……殺す気満々って訳だ。」
「ええ、生存競争ですもの。生き残るには戦うのが正解でしょう?」
「ああ、漸く実感したよ。これが殺し合いってのをな。」
「うふふ。覚悟も決まってなかったのね、やはり猿は理解が遅くて大変ですわね。」
「……はっ。人殺しして気持ち良くなってる、外だけお嬢様より数段マシだと思うがな。」
ーージリジリと。体勢を立て直しつつ相手の攻撃を窺いながら近付く。
「ああ、そうだ。一つ言い忘れてた。」
「……なんですの?」
「俺の種族だ、『天狗』だよ。」
「……は?」
「だから、天狗だよ。こういうのは本来、殺し合いが終わる前に伝えとくべきだろ?」
「……ふふっ。あはははは! 貴方面白い芸も使えるお猿さんですのね! あはははは!」
種族を伝えた瞬間に爆笑をされた。そんなに変な事を言ったか?
「うふふふふっ。今から殺し合い再開、ってタイミングで普通言わないでしょうに。ほんと面白いお猿さんね。」
「天狗だけどな。」
「はいはい、天狗さんね。わかりましたわ。」
「それで?」
「はい?なんですの?」
「……アンタの種族だよ。こっちが言い出した事だけど知らないのはフェアじゃないだろエセお嬢様?」
「エセっ……⁉︎ ……まあいいですわ。私の種族はーー。」
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