2-6 『空』の力
「ーー『空』っ!!」
手元にヤツデの葉を出現させ、それを楓に向けて振るう。楓の周囲を足元からすっぽりと竜巻が囲い、砂が舞う。
「砂遊びがお好きなの? 幼稚ですこと!」
この風が身動きを封じる物だと考えた楓は、両の手に持った番傘を突き出し、周囲の風に向けて力の限り振り回す。見た目以上に風自体の力は弱く、すぐに収まった。
「ーーこんなもんですの……ね? あら??」
どうだ、と言わんばかりに狗のいた位置を見る。しかしそこに狗の姿は見当たらない……まさか、逃げた? とよぎった瞬間、楓の背中に鋭い痛みが走る。
「ーーきゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
楓の背中には鎌鼬による大きな傷が刻まれていた。警戒を解いた訳ではない。前方に集中していた。どんな攻撃が来ようとも手元の番傘で弾く自信もあった。なのに……。
(何故ですの⁉︎⁉︎ 痛い痛い痛い痛い!!)
突如として切り裂かれた痛みに動揺し、思考が上手く纏まらない。絶対に当たるはずのない攻撃だった筈だ。足音も、狗が動いた音すら聞こえなかった。
「ーーへっ。なかなか可愛い声で叫ぶじゃねぇの。さっきの邪悪な笑みよりよっぽど可愛げがある顔になったな。」
背後から狗の声がする。
ーー何故?
ーーさっきまで前にいた筈……!
ここで漸く、自身の身に起きた事に気付く。景色が変わっている。正確には180°回転した景色になっているのだ。
……つまるところ、狗がやったことは大したことではない。風で目眩しをしつつ、楓本人を180°回転させたのだ。そして、楓が番傘を振るい無防備になったところで、背中に向けて鎌鼬を全力で放ったのだった。
ーー楓:HP49/80
それなりの鎌鼬で、30ダメージ。奇襲としては上々の威力だろう。だが。
……楓の背中から滴る血を見て思わず目を背けたくなる。殺す覚悟はまだないにしても、無力化はしなければならない。そのための攻撃だったとしてもやはり見ていて気分の良いものではない。
「いっつぅ……くそ。くそくそくそくそ!!!!!!」
先ほどまでの上品ぶった物言いから一変、背中の痛みと予想外の攻撃から慟哭する。確実に格下であった男に痛手を負わされたのだ。尊厳が傷付かない訳がない。
「やってくれてなぁこのイ○ポ野郎があぁぁぁ!! テメェの玉ちょん切ってズタズタに引き裂いてやるぞクソがぁぁぁぁ!!」
「おー、こわ。怒る女と猛獣には近付かないようにってよく言ったもんだ。」
「あ″あ″っ⁉︎⁉︎ もっぺん言ってみろやゴルァ!!!!」
「何度でも言ってやるよ、面の皮が厚くて上品ぶったお嬢様気取りは、実は中身は品性のカケラもない獣と同程度なんだよ。ほら、さっきみたい品性があるように振る舞ってみろよ? ま、舐めてた相手に攻撃されてそんな余裕もないだろうけどな。」
と言い鼻で笑う。内心は正直おしっこを漏らしそうなくらい怖いし引いている。しかし今が舌戦で畳み掛ける好機だ。このまま頭に血をのぼらせて冷静さを欠いてくれた方が御しやすい。
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