2-5 新技
「ーー少々はしたなかったですわね、失礼いたしました。」
そう言った楓は口元を上品に隠す。しかし口の端は歪んだままであり、瞳の奥から愉悦を感じている様が見てとれる。相手を追い詰めたりする様子から、加虐心も非常に強いのであろう。
「……くそっ。余裕かましてくれやがって。上品そうに振る舞ってても、内側の醜悪さは隠しきれてねぇぜ?」
唯一の攻撃手段が通じず、内心焦ってはいるが、ここで動揺した様子や醜態を晒すわけにはいかない。
ーー何か手はないか?
ーー『風を操る力』……?
ふと、神様の説明書を思い出す。
“能力の運用・幅に関しては神様が許可を出したらーー“
そういえば説明の段階で、そう書いてあったはずだ。能力の運用・幅……。つまりは『風』という大きな括りはあれど、自身のイメージ次第ではどんな派生もできるのではないか?
そして神様は思考を読める、つまりは今思いついたことも『す魔ほ』を経由せず意図を伝えられるのではないか?
(このままじゃ、絶対に勝てない。ならば賭けるしかない!)
頭の中で、神様へ自身のイメージを伝えるよう意識する。天狗といえばうちわのようなヤツデの葉を持っていた筈だ。それをーー能力に使えばーー!!
『はいはーい。神様だよー。狗くんなかなか面白いこと考えるねぇ〜。それに頭のキレも悪くはないみたいだ! それでそれで? どんな能力を使いたいんだい?』
テレパシーのようなものであろう。頭の中に神様の声が響く。第一段階は成功のようだ。あまり時間もない、自分がイメージしたものを神様へ伝える。
『……へぇ。なかなか面白い使い方だね。うん、いいよ。そのくらいの能力なら許可してあげよー!』
伝えたイメージは、難なく許可を得れた。これならば初撃は必ず当たる。
『あーでも。一個だけ条件はつけるよ。』
なにっ⁉︎ どんな条件を付けてくるのだ? まさか使用回数に上限をつけたり、能力の強さに弱補正を付けるのか?
『ふっふっふー。条件はたった一つ。“カッコいい技名をつけて叫ぶ“ことだ!』
……何を言ってるんだ? 技名?
『そうそう、バトルたるものやっぱり技名言ってドッタンバッタンやらないと盛り上がらないしねー! んじゃ、それでよろしく! 叫ばなかったらペナルティで消滅だからね!』
ーーくそっ! こっちは命懸けで戦ってるってのに! だが仕方ない、恥もクソも生き残ってこそだ。
ーー叫ぶ。
ーー自分のイメージした技の名前を。
「……『空』っ!!」
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