2-4 『狗』と『楓』
ーー正直に今の気持ちを言おう。めちゃくちゃ怖いし、戦いたくない。先ほどの“クロ“を倒した実力もそうだが、一般人を殺して気に病まないどころか悦を覚える女だ。元の現実だったら絶対に近寄りたくない女ランキングに入る。それに自分の力を奮うのにも躊躇いがある。
しかし、そうも言っていられない。生き残るためには目の前の『敵』を倒し、プレイヤー数を減らさなければならないのだ。
……と、少しの躊躇を見破ったのか、楓から小傘が物凄い速さで飛んでくる。目の前に上方へ吹く突風を起こし、直撃を避ける。
「あら? 甘ちゃんな感じかと思ったら、意外とちゃんと対応しますのね?」
「……死にたくないからな。」
「ーーでは、これはどうかしら?」
そう言い、楓は指の間に小傘を何本も挟み、俺の周囲を駆けながら小傘を投擲してくる。顔へ、背中へ、脇腹へ、足へ。息つく暇もない感覚で連打をする。俺は自分の周囲に円形の風を纏い、その全てが体に当たらないように逸らす。真正面から当たった小傘は風の勢いに負け、大破する。
材料は見るからに竹と木と紙。しかし、石突きから中棒にかけて、先端の尖った鉄のような硬い金属類が忍具のように仕込まれている。楓の力とこの金属が合わされば、当たりどころ次第で、人は一撃で死ねるだろう。
「あっぶね……。儚い乙女かと思ったけどやっぱり一物抱えてやがったか。」
「あらあら、私か弱い乙女ですわよ?」
「ーーへっ。言ってろ性悪!」
いつまでも防戦というわけにもいかない、こちらも鎌鼬を繰り出す。……無論、大怪我をしない範囲で、だ。
「オラっ! ぶっ飛べ!」
「あら気持ちの良い風ですこと。貴方の力は風を使う能力かしら?」
と軽い調子で言いつつ、楓は番傘を開き、鎌鼬を完全に防ぎ切る。
「なっ……!」
「うふふ。団扇の代わりくらいにはなりそうかしら。」
「わりぃがそんなお手頃なもんに喩えられても嬉しくないんだ……よっ!!」
今度は先程よりも強い鎌鼬を放つ。直撃したら、個室に付いた傷跡のようにダメージは逃れられないだろう。
「あらあら、扇風機程度には強く風が吹くのね!」
そう言い、彼女はどこからかもう1本畳んだ状態の番傘を取り出した。そしてそれを豪快にフルスイングし、鎌鼬を掻き消す。
「おいおい、マジかよ……。女の力じゃねーだろそれ……。」
「女性だからといって、ひ弱なんて思うのは失礼でなくて?」
「へっ、名前も楓みたいな乙女な名前じゃなくて、ゴリ美とかにするのをオススメするぜ畜生!」
「まあ、か弱い乙女に酷い言いよう。私、いたく傷つきましたわ!」
「んなこと言いながらメンタルも金属だろうが、その気色の悪い笑顔みたら並大抵の男は飛んで逃げんぞ!」
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