2-3 接敵
「ーーさて。先ほどから偉そうに上で監視してるお方。降りてきなさいな。」
冷ややかな声を発し、目線をこちらに向け傘女は言う。いつから俺の存在に気付いていたのだろうか。空中から高度を落とし、タタッと地面へ着地する。
「これは失礼をした。強い女だな、貴女は。」
「見ず知らずの殿方に言われても、嬉しくもありませんがそれはどうも。」
ツン、と澄ました態度でこちらの言葉を受け取る。今のところ殺意や敵意のようなものは感じない。こちらが戦闘態勢に入っていないからだろうか? ……それとも先程の戦闘から察するに取るに足らない雑魚だと侮られているのか。まあどちらにしても良い。一先ずは会話を試みる。
「俺は『狗』という。種族は……見ての通りだ。」
「あらこれはご丁寧に。先程の“クロ“と違ってちゃんと知的生命体なのね。私は『楓』。貴方の種族と言われても何も分からないので、こちらの種族も内緒にさせていただきますわね。」
と、目線をこちらに向けてくる。先ほどまでの冷ややかな感じから一変し、初対面の会社員同士が顔合わせした時のような雰囲気が漂う。
……こういう雰囲気、嫌いなんだよなぁ……。
「見事な戦いぶりだったな、あの動き大したものだ。俺には真似できんね。昔、武術でも嗜んでいたのか?」
「……さあ? 何分記憶もありませんので。習っていたかもしれませんわね。」
……ふむ。カマをかけてみたが乗ってこないな。嘘か誠かわからないが、マトモに答える気はあまりないようだ。
「その番傘、なかなかに丈夫なようで。なにか特殊な材質でも使っているのか?」
「……そんな口説き方で、女性が靡くとでも?」
「いや、純粋な疑問さ。他意はない。」
「……。」
あまりにズケズケと聞きすぎたせいか、少し警戒をされたようだ。今は敵意がないにしても、目の前にいるのは確実に『敵』である。戦わず、仲間にできるので有ればそれに越したことはない。
「あー……その、なんだ。今のところ別にアンタと戦おうと思ってはいない。」
「ふーん……。ではなんの御用で?」
「……仲間は、いらないか?」
単刀直入に話を切り出す。過去の記憶上、女性や取引相手には誤解を招かないよう単純明快に自分の意思を伝えるのが得策だ。
「うーん……。今のところは仲間を持つことにメリットを感じませんわね。」
「そうか、それは残念だ。しかし先程の“クロ“とかいうやつの最後の攻撃で肩を怪我しただろう? リスク回避のために仲間を作るのは一つの手だと思うのだがどうだろう?」
この短時間での話の雰囲気を察するに、彼女は損得で物事を捉えるのだろう。そして、語調から相手を見下す傾向にあるのを感じた。彼女のHPは69/80となっており、あまり大きなダメージでは無いが、この先のことを考えるのであれば、ダメージを負うリスクを減らせる共闘者がいた方が良いだろうと機嫌を損ねないように提案をする。
「ーーああ、この肩のことですの? でしたら問題はありませんわ。」
そういい、彼女は懐から小傘を取り出し、公園の脇にいた『人』に向けてそれを投げつける。
「へぶっ。」
情け無い声を出し、歩行者は倒れた。すると彼女の体力が79/80となりほぼ完治した。
「ああ、楽ちんですわねこれ。……それにこの感覚、クセになってしまいそう……!」
そう言う彼女の表情は人間のそれではなく、醜悪な笑みを浮かべていた。……今の行動で完全に理解した。この女は殺めることになんの罪悪感も抱いていない。
「……なるほど。つまりはアンタはそういう類のヤツな訳だ。」
「ーーええ。ですので仲間など不要ですの。それよりも……私自身で動いて生存者数を減らした方が早いと思いますの。」
言い切った彼女は、番傘を広げ、それと同時にこちらへ殺意・敵意を剥き出しにした。もう会話もする気もないのだろう、臨戦態勢だ。
……やむを得ない、戦うしかないだろう。
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