会合の真相
本日1回目の更新です。
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──会合の真相
「なあ、ドミニク。カールが逮捕された日に、カールに電話しただろう?」
「ああ。したぞ。カールの奴が捕まって司法取引でもされたら面倒なことになっていただろう。それにカールの保険の件もあった」
ドミニクはあっさりと電話したことを認めた。
「あれは合図になっていた。麻薬取締局がカールが屋敷にいるか確かめるための合図だ。あんたの電話から5分と経たない内に麻薬取締局がカールの屋敷に突入した。奴らには情報があったんだ。カールが屋敷にいるって情報が」
「俺がカールを売ったっていいたいのか?」
「違う。どこかにいる内通者があんたにカールに電話するように促したはずだ。そいつは誰だか覚えているか?」
「ふうむ。あの時は……」
頼むからドラッグでハイになっていて忘れていたなんて言わないでくれよとアロイスは真剣に願った。
「外国人だ。俺の部下が外国人を連れてきて、カールに警告した方がいいと言った」
「そいつだな。呼び出して、ちょっとばかりお喋りしよう」
「待て。奴はいい奴だ。ドラッグを確実に運ぶし、利益はしっかりとうちのカルテルに還元している。殺すことはしないよな?」
「裏切者のネズミだぞ? 麻薬取締局の捜査官かもしれない。そいつが無実だって証明できるまでは何とも言えない。お喋りに付き合ってもらって、無実だと判明したら殺さない。そうでなければ殺すべきだ」
「畜生。あの外国人め。おい、例の外国人を呼べ」
ドミニクが指示を出す。
「スヴェンですか? さっき便所に行くと言って出ていきました。呼んできます」
「この薄のろ! 警備から外れるならば俺に報告しろ!」
これでますますスヴェンとかいう外国人は怪しくなってきたなとアロイスは思う。
「マーヴェリック。探してきてくれるか。恐らくは電話に急行している」
「了解」
マーヴェリックが男たちを押しのけて外に出る。
「どうして電話だと?」
「スヴェンは扉のすぐ外にいた。俺が“国民連合”政府に伝手があることも聞いていたはずだ。まずはそのことを報告するだろう。そして、麻薬取締局にも俺の手が伸びていて、潜入捜査がバレたと思えば助けを求める」
「なるほどな」
これぐらいのことは小学生にだって分かるだろうがとアロイスは内心で毒づく。
「しかし、奴があんたと“国民連合”政府の癒着を暴露してもいいのか?
「その前に押さえたいところだけど、幸いにして相手は俺の名前も知らなければ、俺と“国民連合”政府を結びつける証拠も持っていない。そもそも俺自身だってそんな証拠は残しておかない。繋がりがバレることはないと言っていい」
「デカい儲けに繋がっているのか?」
「あいにくだが、これは俺の取引だ。あんたでも譲れない。ただし、また2大ネットワークを使って商売することはできるぞ。手数料はいただくがね。こっちもいろいろと出費が重なって、そうそう楽はできないんだ」
「構わないぞ。手数料分の儲けはある。大儲けできる。だが、アロイス。こうも商品が“国民連合”に溢れかえるとお互いに競争相手になるんじゃないか? 俺はお前を裏切りたくはないが、競争相手としては勝負することになる」
ドミニクの頭は冴えていた。
確かにこのまま3大カルテルがドバドバとドラッグを輸出していたら、市場価格は崩壊し、ドラッグで儲けるのは難しくなるのではないかという懸念はあった。
そして、ドラッグが市場に溢れたら、ドラッグカルテル同士での競争になりかねない。ドラッグカルテルはカルテルと言う名前がついているのに市場を独占したり、談合をしていないのである。
「それについては問題ない。石油と一緒だ」
「石油と?」
どうしてこの話で石油の話が出てくるのだろうかとドミニクは首を傾げる。
「産油国は高値で石油を売りたい。俺たちもそうだ。産油国は考えた。市場に出回る石油の量を産油国同士で調整して、石油価格を安定させれば、石油でも儲け続けられるだろうと。事実、産油国は増産と減産を繰り返して石油価格を安定させている」
「ああ。俺たちも市場に出回るドラッグの量を調整して、価格を一定に抑え、儲け続けようってことか。それはイケてるな」
「気に入ってもらったようでなによりだ。今度、ヴェルナーも踏まえてドラッグ価格の安定化を図ろう。だが、ドラッグは石油と違って、違法な代物だ。警察に押収されることもある。そういう場合の損失を埋め合わせる手段についても話し合わないとな」
「警察は役立たずの犬だ。ちょっと餌をやれば喜んで尻尾を振る」
「だろうね」
そんな甘い考えだから潜入捜査官に潜りこまれたんじゃないのかとアロイスは思った。少なくともアロイスは潜入捜査官には徹底的に注意している。
ただ、検事総長だったハインリヒがいなくなってから、“連邦”の捜査機関の情報を得にくくなった。連中が飼い主に逆らうとは思えないが、また麻薬取締局との合同捜査などになると、どう転ぶか分からない。
「はい。連れてきたよ。どこかと電話してたみたいだけど」
「ご苦労様、マーヴェリック」
スヴェンは顔面蒼白だった。これから何が起きるのかを彼は理解している。
「スヴェン、スヴェン、スヴェン。俺を裏切っていたんだな? お前のことは信用してたんだぞ。友達にだってなれたかもしれない。だが、お前は自分のことを麻薬取締局の捜査官であると隠していた。そうなんだろう? 麻薬取締局の捜査官がお前の正体だろう? いまさらしらっばくれても無駄だぞ」
「何かの間違いだ、ボス。俺は麻薬取締局なんか知らない」
スヴェンはそう言うのに、ドミニクが机をひっくり返さん勢いで立ち上がった。
「よくも抜け抜けと! そんなでたらめで俺を騙せると思っているのか? “連邦”の人間はみんな阿呆だから、騙すのは楽勝だってか! ふざけんなよ、このクソ野郎! この場でぶち殺してやろうか! さあ、跪け!」
ドミニクは激昂して魔導式拳銃を抜いて構える。
「落ち着け、ドミニク。ここで殺してもこいつがどんな情報を流していたか。誰にその情報が届いていたか。そして、どこまで俺たちについて知っているかが分からない。ここは尋問、それと拷問のプロに任せてはどうかな?」
「畜生。確かにそうだな。そうしよう。拷問は俺たちでやっていいか?」
「こちらからも立ち会いをひとり。マーヴェリック、お願いできるかい?」
ドミニクが尋ねるとアロイスがマーヴェリックにそういう。
「せっかくだ。マリーも参加させよう。その間の警備はジャンとミカエルに任せる」
「お好きにどうぞ。必ず情報を聞き出してくれよ。手段は問わない」
アロイスがそう言うのにマーヴェリックはサディスティックな笑みを浮かべた。
「さて、スヴェン。俺たちと仲良くお喋りしようじゃないか、ええ?」
スヴェンはふたりの大男に両脇を掴まれると、そのままアパートメントの地下に連行されて行った。ここで拷問は行われ、その後は大抵の場合、人間のシチューにされる。
「クソッタレの麻薬取締局め」
ドミニクが呪詛を吐く。
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