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ドラッグカルテルの会合

本日1回目の更新です。

……………………


 ──ドラッグカルテルの会合



 アロイスは粛清を終えた。


 ごますりノルベルトの密告とアロイスの10年間の記憶、そして『ツェット』による通話傍受などの情報取集活動で、敵と見做した相手を皆殺しにした。


 またしても『ツェット』がヴォルフ・カルテルの裏切者たちに刃を振るった。


 ドラム缶に入れられて蒸し焼きにされた汚職警官。バラバラにされた死体。重度の暴行を加えられた末に吊るされた売人。あらゆるアロイスの帝位継承に異論を唱える勢力が『ツェット』という暴力装置によって排除された。


「これで俺はようやく皇帝か」


 全ての粛清が終わった時、全ての敵が死んだ時、帝位を得る邪魔者が死んだ時、アロイスはそう呟いた。


 もはや、アロイスに歯向かうものはいない。敵意あるものはヴォルフ・カルテルから一掃された。アロイスの戴冠に異議を唱えるものはいない。『ツェット』という暴力装置が全てをなし遂げた。


 アロイスは『ツェット』に大金をかけたことを後悔せずに済んだ。むしろ、感謝すらしている。自分の大金を注ぎ込んだ組織がその役割を果たしていることに満足している。武器弾薬に思う存分、金を注ぎ込んだことに満足している。


「あんたが皇帝だ、ボス。正真正銘の皇帝だ。さあ、お望みは? 世界征服? それとも美男美女の揃ったハーレム? あるいは金塊や豪華な宝石?」


「平穏な生活を望む」


「つまらない」


 マーヴェリックは退屈そうにそう言った。


「俺の人生なんて退屈なものさ。退屈そのもの。平穏が欲しいだけなんだ。警察にも、麻薬取締局にも追われず、西海岸の小さな別荘のベランダで小説を読みながら日光浴をする。それぐらいが俺の望みなんだよ」


 他に望むことなどあるのか? 俺は最初から平穏が欲しかっただけなんだ。


 それがどんな財宝より手に入らないものだとしても。


 アロイスの有している全財産を投じても、平穏な人生は手に入らない。アロイスはドラッグの非合法取引、殺人、殺人教唆、その他もろもろを詰め込んだ罪状で一杯なのだ。今さら平穏は望めない。警官殺しまで唆したアロイスに誰が許しを与えるだろうか。


 許されない罪ならば、許されないなりに戦うだけだ。


「これからシュヴァルツ・カルテルのドミニクと話す。キュステ・カルテルのヴェルナーとも話す。我らが2大ネットワークを再び起爆するときが来たんだ。大金を生み出す歯車を回そう。保険の件は既に片が付いた。もう誰も俺たちの取引を暴露できない」


 カールがくたばってから、ハインリヒがくたばるまで、アロイスはアロイス=ヴィクトル・ネットワークとアロイス=チェーリオ・ネットワークを掃除し続けてきたのだ。これまでの経緯を知らないドミニクやヴェルナーが取引を追跡できない形に。


 アロイスはシュヴァルツ・カルテルも、キュステ・カルテルも、生贄の羊に捧げるつもりだ。そのうち片方でも保険を準備していたとしても、アロイスたちが打撃を受けることのないように取引を再編成し、ネットワークを掃除し、売人を入れ替えた。


 今でも2大ネットワークは元気に大金を生み出している。掃除の最中もアロイスはネットワークを停止させることはなかった。ネットワークはマグロと同じなのだ。泳ぐの止めれば死んでしまう。


 大金が流れ続け、売人を買収し続け、警官を買収し続け、そして『ツェット』を維持するためには大金が必要だった。だから、アロイスはネットワークを止めることなく、掃除と再編成を済ませた。


 泳ぎ続けないと死ぬのはドラッグビジネスのどれにも言える。


 金を注ぎ続けなければ、組織は崩壊する。下っ端の売人は稼ぎ続けないと、ドラッグを買えずに主人を変える。倉庫は維持費だけで赤字になり、富を生み出すはずのものが負債へと変わる。幹部たちの忠誠心も金を注ぎ続けなければ維持できない。


 結局のところ、ドラッグビジネスに関わる人間の全てがドラッグの奴隷なのさとアロイスは自嘲する。ドラッグ。ドラッグ。ドラッグ。クソドラッグ。ドラッグを回し続け、金を回し続け、あらゆるものを回し続けなければ、待っているのは死だけだ。


 ヤク中は更生できる。更生施設に入って、ドラッグを抜き、カウンセリングを受け、神の教えなりなんなりに目覚めれば、ヤク中はヤク中であることを止められる。


 だが、ドラッグビジネスに関わっている人間はそうはいかない。


 俺たちは皆、ドラッグ様の奴隷なのだから。


「ドミニクに会いに行こう。だが、その前に気になる情報がある」


「というと?」


「内通者がいる」


 アロイスは知っていた。


 麻薬取締局の捜査の一件で、どこかのカルテルの背後に内通者がいることを。


 というのも、カールの逮捕に至るまでに麻薬取締局が先行した気配がするのだ。証拠があるわけではない。アロイスの予定とはずれて、カールが逮捕されたということだけだ。麻薬取締局はカールが屋敷にいるかどうか確認する手段はなかったはずだ。だから、アロイスはカールが屋敷にいるという決定的情報を準備して戦略諜報省に渡す準備を進めていた。


 だが、カールが屋敷にいるのを察知したかのように麻薬取締局はカールの屋敷に踏み込んだ。これはおかしい。まだその時点では戦略諜報省はカールのいる場所に関する情報をアロイスから受け取っていないのだ。


 もちろん、麻薬取締局が独自のルートでカールの居場所に関する情報を手に入れた可能性もある。どうにかして、例えば航空偵察とか、電話の盗聴とかで、カールが強行捜査の際に屋敷にいると突き止めた可能性はある。


 だが、疑うことはドラッグカルテルのボスに必要とされるものだ。ドラッグカルテルのボスは疑う。何でもかんでも。とにかく疑う。猜疑心の塊だ。


 そうしないと生き残れないのだ。


「こちらの内通者からはカールの屋敷に麻薬取締局が踏み込む数分前にシュヴァルツ・カルテルのドミニクから電話があったと聞いている。それがカールが屋敷にいる確認の電話だったとしたら?」


「怪しいな」


「だろう? ドミニクにどうして電話をしたのか聞いておかないといけない」


 ネズミは殺せ。ネズミは始末しろ。そうしないとネズミは疫病をもたらす。


「さあ、ドミニクに会いに行こう。そして、話を聞こう。どうして電話をしたのか。その電話は盗聴されていなかったか。不審な人間が最近うろちょろしていなかったのか。ドミニクからその答えを聞こうじゃないか」


 アロイスはそう言って、マーヴェリックの運転する防弾SUVに乗り込む。マリーも一緒だ。何もドミニクを喜ばせるつもりではない。マリーもまた自分の護衛なのだ。彼女の死霊術は非常に役に立つ。


 特に相手が武装していて、こちらが相手に苛立つだろう話をするときには。


 ドミニクを苛立たせるかもしれない。彼は自分の部下を疑われて、腹を立てるかもしれない。そうして銃撃戦になったときに、死霊術は役に立つことだろう。


 そうならず、裏切者のネズミを見つけ、始末できれば問題なしだ。


 アロイスはそう思ってドミニクの城に向かった。


……………………

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