強行捜査
本日2回目の更新です。
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──強行捜査
スヴェンの任務は成功した。
カールが屋敷にいることは確認された。
動員された“連邦”の捜査機関の特殊作戦部隊と、麻薬取締局の特殊作戦部隊。そして、陸軍の周辺封鎖。もうカールに逃げ場はない。
「突入の準備を」
「準備完了」
完全武装の特殊作戦部隊が装甲車に乗り、装甲車はカールの屋敷の前に止まる。
「空軍機に支援を要求しました。狙撃部隊はカールがヘリに乗り込んだのを見ていませんね? 奴はまだ屋敷の中ですね?」
「屋敷の中だ。吹っ飛ばしてくれ」
「こちらメタル・ゼロ。ワン。上空の空軍機に要請する。ヘリを破壊してくれ」
『了解』
ジェット音が響き渡り、投下された航空爆弾がヘリを吹き飛ばした。
「ヘリ破壊を確認。突入、突入、突入!」
フェリクスは特殊作戦部隊の背後からカールの屋敷に入っていく。
特殊作戦部隊はボディアーマーと魔導式自動小銃で武装し、お互いの死角を潰して、カバーし合いながら、屋敷の中を進んでいく。
屋敷の中ではグライフ・カルテルの構成員たちが魔導式短機関銃を持って侵入してきた特殊作戦部隊を銃撃する。特殊作戦部隊の隊員たちは遮蔽物に隠れて応戦する。スタングレネードが放り投げられてカルテルの構成員たちを制圧し、正確な射撃で特殊作戦部隊は屋敷の中を確保していく。
胸に二発。頭に一発。牽制射撃で敵の動きを封じ、その隙に手榴弾などを投擲する。だが、間違ってカールを殺しては困る。特殊作戦部隊の隊員はカールの顔写真を叩き込まれ、間違ってカールを殺さないようにと徹底されている。
「クリア」
「クリア」
屋敷の部屋がまたひとつ制圧される。
「手榴弾だ!」
そこで特殊作戦部隊の隊員が叫んだ。
フェリクスは特殊作戦部隊の隊員に押し倒され、爆発音が響き渡る。
「負傷者2名!」
「後送しろ。畜生め。思い知らせてやる」
仲間が負傷したことで特殊作戦部隊の隊員たちの士気が上がる。
いや、上がったのは殺意か。
「カールは絶対に殺すな。奴を捕まえなければ意味がない」
「分かっている」
特殊作戦部隊の隊員たちは再び屋敷内を制圧していく。
スタングレネードがバンバンと使われ、手榴弾も使われ、銃弾が飛び交う。
そんな中で相手はモロトフ──火炎瓶を投げつけてきた。
屋敷が炎上し、炎が壁を焼き、床を焼き、天井を焼く。
「急げ。このままだと屋敷が燃え堕ちるぞ」
火炎瓶の炎は瞬く間に広がり、屋敷を覆っていく。
このままカールに焼死されては困る。奴には4大カルテルについての情報を吐いてもらわなければならないのだ。何としても生かしたまま捕まえなければならない。
焼け落ちた廊下を迂回して、特殊作戦部隊の隊員たちはカールを捜索する。
「3階層クリア。カールはいません」
「地下か……?」
屋敷の上層階は全て制圧された。無数の死体が転がっている。ひとりぐらい生かしておいて、情報を聞き出すべきだったかと思ったが、敵は完全に徹底抗戦の構えで、ひとりなどは手榴弾のピンを抜いて突撃してきた。
焼け降りた場所にいなければ、残るは地下だけだ。
「地下に向かおう」
「了解」
フェリクス体は地下に降りるために1階に降りる。地下室への入り口は台所にあった。地下はワインセラーになっており、暗い。ライトがつけられ、それを頼りに特殊作戦部隊の隊員たちは進んでいく。
「正面に金属製の扉」
「ブリーチングチャージ、準備」
ワインセラーの奥には金属製の扉で閉ざされた部屋があった。恐らくはパニックルームだ。銃撃戦に巻き込まれたりすることを避けるために、カールは安全な場所に隠れようとしたのかもしれない。
その扉を吹き飛ばすためにプラスティック爆弾をテープ状に加工したブリーチングチャージが貼り付けられる。全員が壁際に退避し、3カウントが始まる。
3秒後、ブリーチングチャージが炸裂し、金属製の扉が吹き飛ばされる。
それと同時にスタングレネードも投げ込まれる。
閃光と爆発音が相手の視野と聴覚を奪う。
「動くな! 連邦捜査局だ!」
そこに魔導式自動小銃の銃口を向けた特殊作戦部隊の隊員たちが突入していく。
「撃つな! 撃つな! 抵抗するつもりはない!」
パニックルームには予想通りにカールがいた。
彼は両手を上げて、武器を持っていないことを示している。
「カール・カルテンブルンナー。逮捕する」
「権利は読み上げないのか?」
「ここは“国民連合”じゃない」
フェリクスはそう言って、カールを後ろ手に手錠をかけた。
「連れていけ」
後からやってきた麻薬取締局の捜査官たちがカールを連行していく。
「後は屋敷から得られるものを全て得るぞ」
カールの屋敷から、情報が得られるとフェリクスは思っていた。
連邦捜査局と組織犯罪捜査担当次長検事局の捜査官たちがカールの屋敷を徹底的に調べる。屋敷が燃え落ちていく中、捜査官たちは金庫をドリルでこじ開け、床板を外して調べ、隅々まで調べつくす。
そうしている間に炎は広まっていき、屋敷は完全に炎に包まれた。
「押収した資料は我々の方で調査する。捜査情報は共有する」
「よろしく頼みます。我々はカールを“国民連合”に連行します」
カールは装甲車両に詰め込まれ、それを“連邦”の捜査機関が護送する。
フェリクスはこの時点でカールから得られるだろう情報に胸を躍らせていた。
カールは多くの情報をもたらしてくれる。カールとの司法取引は4大カルテルを壊滅に追い込むことも可能なほどの情報があると見ていた。
「カール・カルテンブルンナー。これから“国民連合”の刑務所に収監される。正しい選択をすれば、刑期は短くなる。そうでないならば、一生刑務所で過ごす羽目になる」
「俺の手札はすぐに開示される。それがお前たちとの取引だ」
カールはそう言って黙り込んだ。
「保険か?」
「そう、保険だ。4大カルテルの誰が裏切ったかは知らないが、全員道連れだ」
「賢明な判断だ。だが、まずは我々にその保険を見せておくべきだ」
「まだ信用できない。どうして会ったばかりの、家に押し入ってきた相手を信用できる。おまけにお前は麻薬取締局の捜査官で俺のことを死ぬほど憎んでいるはずだ。そういう人間にすぐに手札を見せるほど俺は馬鹿じゃない」
カールはフェリクスを睨みつけてそう言った。
「いずれにせよ、取引はするんだな?」
「当然だ。連中のためにムショに入っておくつもりはない。特に俺を裏切ったような連中については。連中も道づれだ。この俺から帝国を奪って、そしてその上に俺をお前たちに売ったんだ。許してはおかない」
カールが述べる。
「では、検察と判事に俺が掛けあおう。司法取引に応じるなら無罪放免とはいかないが、終身刑は避けられると約束してやる」
「ムショは一番厳重なところに入れてくれ。このドラッグビジネスにおいて裏切者は死ぬ定めにある。俺が4大カルテルを売ったら、ムショに入っていても見逃されるとは思えない。一番警備が厳重なムショに入れてくれよ。そうしないと取引はなしだ」
「分かった。手配しよう」
こうしてカールに対する強行捜査は終わった。
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本日の更新はこれで終了です。
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