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生き残ろうとするカール

本日2回目の更新です。

……………………


 ──生き残ろうとするカール



 カールは焦っていた。


 アロイスを殺すはずだった傭兵たちは壊滅した。


 アロイスの部下──『ツェット』は次はカールを殺すと脅してきた。


 だが、カールには保険がある。


 4大カルテルの具体的な情報について書かれた書類という保険が。それがある限り、カール本人は殺せないはずだった。ハインリヒもそれを知っているからこそ、カールとの友好を保とうとしているのだ。


 カールは30年間、スノーホワイトを育てて、ドラッグビジネスに携わってきた。


 彼の知っている情報は非常に多く、どのドラッグカルテルにとっても暴露されれば致命的になる。だから、ヴォルフ・カルテルはもちろん、シュヴァルツ・カルテルも、キュステ・カルテルもカールには手を出せない。


 カールはこの保険で身の安全を確保し、そして陰謀を進めるつもりだった。ハインリヒを、ドミニクを、ヴェルナーを破滅させるための陰謀を。


 だが、ルールに従わない存在が現れた。


 アロイスだ。


 アロイスはカールを追い詰めようとしている。カールはそうはさせまいとアロイスの暗殺を企てた。だが、暗殺を請け負った傭兵は壊滅し、その傭兵たちを壊滅させたアロイスの私設軍はカールを脅迫した。


 次はカールを殺すと。


 どうにかして、アロイスを止めなければならない。アロイスは保険の存在など知らないようである。いくら自分の死後にドラッグカルテルが纏めて壊滅するとしても、カールはまだ死ぬことなど考えていなかった。


 自分はこれから自分の帝国を奪った連中を壊滅させるのだ。破滅させてやるのだ。そうすることでカールの復讐はなされるのだ。


『もしもし?』


「ハインリヒか? カールだ。会いたい。うちの屋敷に来てくれるか?」


『そちらから招待するとは珍しいな。何があった?』


「お互いにとってメリットのある話をしたいと思っている」


 アロイスを止めるか、アロイスを殺すかという話を。


『分かった。そちらに出向こう』


「待っている」


 カールは待つ。


 自分の帝国を引き裂いた男の到着を。


 自分を惨めな立場に追い込んだ男の到着を。


 アロイスを殺そうとしたことは既にハインリヒにも伝わっているだろう。だが、ハインリヒは手出ししないという絶対の自信がカールにはあった。


 カールは保険をかけているからだ。カールは自らの保険に絶対の自信があった。


 だが、それはハインリヒとの間の取り決めを守っている限りのことである。


 カールは失地回復のために動かない。それが絶対的条件だった。この条件を破れば、ハインリヒは“連邦”のあらゆる捜査機関を動員して、保険を無力化するだろう。家宅捜索を行い、弁護士を締め上げ、情婦の家を全て調べ、カールの保険は無力化される。


 自分が失地回復のために動いていると思わせてはならない。あくまで意見の行き違いがあったということに済ませないといけない。アロイスを殺害しようとしたのは、先に向こうから手を出してきたということにすればいい。


 カールは伊達に30年間、アロイスの生まれる前からドラッグビジネスに関わってきたわけではない。荒くれ物を率い、警官を買収し、自らの帝国を築いていたのだ。


 それが20歳かそこらの若造に負けてなるものかとカールは思った。


 そうだ。アロイスはたかだか21歳だ。そんな相手にこのドラッグビジネスで負けるなどあってはならない。カールは帝国を失ったが、未だに皇帝なのだ。


「旦那様。ハインリヒ様がお見えです」


「通せ。それから飛び切りのブランデーを」


「畏まりました」


 まずは敵対の意志がないことを示さなければ。カールが失地回復のために動いていると知られるともっとも不味い相手がハインリヒなのだから。


「カール。そちらから呼ばれるとは久しぶりだな」


「ああ。わが友ハインリヒ。いろいろとあってな。何せ命を狙われたのだ」


「命を狙われた?」


 ハインリヒの表情が僅かに、ほんの僅かに歪むのをカールは見逃さなかった。


「お前の息子のアロイスからだ。俺の家に脅迫の電話がかかってきた。殺してやる、と。お互い、取り決めのことは覚えているな?」


「覚えている。だが、息子はお前から命を狙われたと言っている。何かの間違いかと思っていが、私に明かすことなく息子と殺し合いを繰り広げていたのか? それがお互いにとってどれだけリスクのある行為なのか分かっているのか?」


「すまない。だが、俺は殺されようとしていたんだ。反撃はする」


 そして、そこにブランデーを持った執事がやってきた。


「まあ、腹を割って話そう。俺は正直に語る。取引には信用が必要とされるからな。お互いを信頼してこその取引だ」


「そうだな。私もお前を信頼している」


 馬鹿なハインリヒめ。俺がお前を殺す夢を見ない日はなかったのだぞ。


「お前の息子から脅迫を受けた。俺を殺してやるとのことだった。あいつはどうなっているんだ? あいつからは俺への敵意をひしひしと感じる。あいつに取り決めの件は話しているのか? 俺たちの互いの立場を保証する取り決めについては?」


「言っておきたいが、私がけしかけているわけではない。あいつはキュステ・カルテルのヴェルナーとお前が私を嵌めようとしているという録音テープを持ってきたのだ。それはでっち上げだと思っていたが、私の考えは間違いではないな?」


 なんてことだ! ヴェルナーのクソ野郎、裏切りやがった!


 カールは平常心を維持しようとする。どうりでアロイスの動きが早かったわけだ。奴は攻撃が行われることを知っていた。だから、反乱分子を先に始末したのだ。


 カールは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


 アロイスはどこまで知っていた? ヴェルナーを焚きつけたことを知っていたならば、他のことも知っているのか? そもそもどうやってカールの息のかかった反乱分子を全て特定できたというのだ? 魔法でも使わない限りそんなことは不可能だ。


「お前の息子が私を嵌めようとしているんだ。我々の間に亀裂を生じさせ、世代交代を、クーデターを図ろうとしている。俺たちが共倒れになって得をするのは誰だ? お前の息子とヴェルナーだ。両方とも若く、野心に溢れている。俺たちを嵌めて、争わせ、そしてヴォルフ・カルテルをお前の息子が乗っ取り、ヴェルナーのキュステ・カルテルは完全な独立を得る。それが狙いだ」


「ふうむ。自分の息子は疑いたくないものなのだが……」


「じゃあ、俺を疑うのか? お互いに協定を結んだ関係だ。俺たちは信頼し合っている。裏切れない関係だ。そうだろう? それに比べてお前の息子はどうだ? 身勝手に暴れまわり、俺を脅迫し、お前を脅かしている。どっちを信用するんだ?」


 さあ、ハインリヒ。息子を疑え。親子で殺し合え。そうやって俺の帝国を奪ったことの報いを受けるがいいだろう。


「分かった。協定を維持しよう。アロイスには言い聞かせておく。お互いに協定を維持しよう。この現状維持こそが、我々にとっての理想だ」


「ああ。そうだ。息子をちゃんとコントロールしておけ。ヴェルナーもな」


 そして、お前は俺に裏切られるんだよ。


 俺の帝国は返してもらう。絶対にだ。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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