父親との軋轢
本日2回目の更新です。
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──父親との軋轢
アロイスが大量の武器弾薬をネイサンから購入した翌日。
アロイスはハインリヒからの呼び出しを受けた。
「親父さん、今度は何かね?」
「多分、俺がカールの情報を流していることに気づいた。あれだけ派手に情報を流してたんだ。いつ気づかれてもおかしくない。それで親父は激怒ってところだろう。親父は本当にカールと和解できると考えているからね」
「カールおじさんはあれだけ明確な裏切りの証拠があるってのに無罪放免だもんな。そりゃ、どうかしてるって思う」
「実際にどうかしてる」
アロイスは今後のことを考えてうんざりした。
ハインリヒは未だにカールと和解して、これからも親しい隣人、良き隣人として付き合っていけると考えている。
アロイスはカールに殺されかけたというのに!
「カールに殺されかけたことは報告する?」
「もちろんだ。傭兵連中が自白したのを録音したテープがある。それを示す。それでも親父が夢を見ているなら、どうしようもない。こっちで予定通り、カールを追い詰める。麻薬取締局も戦略諜報省も、こっちの作戦に乗っている。後は“連邦”に入っている麻薬取締局の捜査官が実際にカールを追い詰め、カールが弁護士に電話するのを待つ」
「あいつ、まだ弁護士に電話してないのか?」
「してない。だが、強行捜査に踏み切れば、カールも司法取引のために保険を出すだろう。それか本格的に君たちによって殺されかかるかによって」
「殺しに行った方が早そうだ。奴の頭の横に銃痕を刻んでやれば、大急ぎで弁護士に電話するだろうさ。そして、保険が公開される前に弁護士を始末して、保険を確保する」
既に『ツェット』はカールの弁護士をマークしている。だが、弁護士が保険を持っているという保証はない。カールが保険を持っていて、どこかに隠している可能性があった。そして、自分の死後に弁護士がそれを公開する。
カールの屋敷か、カールの銀行か、カールの情婦の家。
どこに隠してあるか分からない以上、不用意に弁護士は殺せない。
そして、弁護士が必ずしも保険を公開するという保証もなかった。弁護士以外の人間が保険を公開する可能性もあった。
分からないからこその保険なのだ。
そして、アロイスは保険を潰すために何だろうとする。
「とにかく、親父に会おう。無視しているわけにもいかない。無視を続ければ、親父も何かしらの制裁を加えてくるはずだ。それは望ましくない。ノルベルトを味方につけているとしても、スノーホワイト農園の実権を握っているのは親父だ」
「了解。親父さんは裏切らないよな?」
「そうだと願いたいね」
念のために防弾SUVでアロイスはハインリヒの屋敷に向かう。『ツェットの』1個小隊が軍用四輪駆動車に乗って警護に当たっている。
「ようこそお帰りなさいました、若旦那様」
「ああ。イーヴォ、お前の家族はどうだ?」
「娘は自動車部品メーカーの事務職で働いております。何のとりえもない娘ですが、そろそろ結婚すると聞いて嬉しく思っております」
「そうか。嬉しいニュースだな」
頼む。イーヴォの娘がヴァージンロードを歩くまでイーヴォを生かしておいてやってくれ。それぐらいのことは望んでもいいだろう?
「それでは旦那様がお待ちです」
いつものようにイーヴォがアロイスをハインリヒの場所に案内する。
「アロイス。どういうつもりだ?」
「何がです、父さん?」
「カールの情報をそこら中にばらまいているだろう。“連邦”に“国民連合”の麻薬取締局の捜査官が入国しているんだぞ。そいつらがカールの情報を手にしたらどうなると思う? いったい何を考えてこんなことをした?」
「カールは敵です。そして、麻薬取締局の捜査官はカールを逮捕するでしょう。“国民連合”まで連行して、刑務所にぶち込む。終身刑10回分の罰を受けることになる」
「カールは敵ではない。お前がそう思い込んでいるだけだ」
「そうですか? これを聞いてください」
アロイスは録音テープを再生機に入れて聞かせる。
『お前らはアロイス・フォン・ネテスハイムを殺そうとした。誰に雇われた?』
『畜生』
ここで骨の砕ける音がする。
『ああ! ああ! カールだ! カール・カルテンブルンナー! 奴に雇われた! アロイス・フォン・ネテスハイムを殺せば5億ドゥカートだという依頼だった!』
『本当だな?』
『本当だ。ここで嘘をついてもしょうがないだろう?』
『ご苦労様。お前はお喋りの裏切者だ。死ね』
銃声が響く。
「どうです? 実際に俺はカールの雇った傭兵に襲われました。それも2回。それでもまだカールは敵ではないと?」
ハインリヒは固まっている。
「父さん。カールと何を取引したかは知らないが、カールは裏切っている。奴を叩くべきだ。“連邦”の捜査機関も動員して、カールを追い詰めよう」
「ダメだ。カールとの仲は修復できる」
クソ親父! 俺は殺されかかったんだぞ!? 息子よりカールが大事なのか!?
「無理だ。絶対に無理だ。カールは裏切者だ。追い詰めなければならない。野犬狩りのように容赦なく、無慈悲に、徹底的に。カールの保険を潰す算段はできている。父さんはせいぜいカールおじさんと仲良くできるように頭を下げていればいいさ。俺はカールのクソ爺なんかに頭は下げない。奴の両膝を撃ち抜いて跪かせ、脳天に一発くれてやる」
「親の言うことが聞けないのか!」
「父さんの理屈は筋が通ってない! 聞く義理なんてない!」
「親の言うことを聞いていればいいんだ!」
ダメだ。話にならない。アロイスは諦めた。
親父が協力してくれたら、カールはもっと追い詰めやすくなった。親父ならばカールを呼び出せる。そして、誘き出したカールを麻薬取締局に逮捕させられる。
「お前は軍隊遊びに入れ込んで、この屋敷に来るのにも軍隊を引き連れてきた。それがどれだけ目立つのか分からないのか? カールの問題は私に任せて、お前は軍隊ごっこをしているがいい」
俺の『ツェット』のおかげでカールの陰謀は阻止できたんだぞ。
それを軍隊遊びとは!
俺が軍隊遊びならあんたはカルテルごっこだ。まるで利益にならないことをしている。子供のお遊びだ。カルテルのボスぶって、椅子に座り、やっていることはおままごと。子供だってもっとマシなことをするだろう。
「俺の軍隊は役に立つ。おままごとじゃない」
「本当の軍隊に入ったこともないのに偉そうなことをいうな」
「軍隊に入ったことがなくとも専門家がいる」
マーヴェリックはアロイスがそう言うのに挑発的な笑みを浮かべた。
「何が専門家だ。お前の情婦だろう。女を連れまわして、恥ずかしくないのか?」
「ないね。彼女は頼りになる護衛だ。俺の命を救ってくれた。父さんはカールから俺を守ってくれそうにもないけれどね」
「出ていけ!」
ハインリヒはそう言って、アロイスを屋敷から追い出した。
「親父さんとあそこまで喧嘩してよかったのか?」
「構うものか。親父は馬鹿だ。救いようのない馬鹿だ。いない方がマシなくらいだ」
そして、俺はブラッドフォードに依頼して親父を始末させるのさとアロイスは思った。航空事故に見せかけたテロで“国民連合”はハインリヒを始末する。
俺は最低の息子かもしれないが、親父は最低の親父だ。
奴の死までもう少しだ。
だが、その前にカール問題を片づけなければ。
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