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進む捜査、進まない捜査

本日1回目の更新です。

……………………


 ──進む捜査、進まない捜査



 フェリクスたちが“連邦”に入ってから、ふたつのことが分かった。


 カールのグライフ・カルテルは思った以上に大きく、カールの影響力は大きいということ。そして、カールの情報は容易く手に入るが、その他のカルテルの情報は全くと言っていいほど入ってこないこと。


「『フィッシュネット作戦』の観点からすると捜査は進んでいると言える」


 スヴェンがそう述べる。


「だが、本当にグライフ・カルテルが脅威なのかは分からない」


「カールはどの道、捕まえなくてはいけないんだ。脅威かどうかなんて関係ない。今はいい機会だ。チャンス到来ってところだ。今を逃せば、次にいつカールを逮捕できる機会が回ってくるか分からない」


「それはそうだが……」


 そう、今はチャンスだ。あらゆるものがカールの逮捕を助けているように思われる。


 だが、それがあまりにもできすぎているのだ。


 カールの情報は次々に入ってくる。まだ決定打には欠けるが、確実に後を追えるようになっている。このままカールを追い続ければ、逮捕は確実だろう。


 だが、そこまで上手くいっているのは妙におかしい。


 これまではカールを逮捕できるような情報はまるでなかった。それが今になって急にカールの情報が次から次へと飛び出てくる。これまでの捜査の困難さはなんだったのかというぐらいに情報がフェリクスとスヴェンの下に流れ込んでくる。


「仮に。仮にだ。カールが逮捕されて得をするのは誰だ?」


「得をする人間はいないだろう。カールは4大カルテルの中の古株で自分が帝国を分け与えた人間たちを知っている。俺たちが未だに正体すらつかめていない4大カルテルの3名について知っているんだ。カールが逮捕されれば? まず司法取引だ。罪はゼロにはならないが、4大カルテルの情報を“国民連合”に売るならば罪は軽くなる」


「つまり4大カルテルの誰もがカールの逮捕を望んではいない。なのに、情報は漏れている。待てよ。4大カルテルのボスたちが逮捕されて、その地位につける人間がいるなら、カールの逮捕を望むんじゃないか?」


「おいおい。カールは30年間もこのドラッグビジネスに関わっているんだぞ。どいつの首が飛べば、誰が地位に就くかまで知っているはずだ。もし知らないとしても、そうではないように振る舞っているだろう。そんな回りくどい方法で王座を奪うつもりならば、直接自分のボスを売った方が早いし、他のカルテルからも恨まれない」


 確かに回りくどい。そこまでやっても自分がカールに売られるリスクがあるぐらいならば、カールを売るよりも、自分のボスを殺した方が早い。偶然の事故に見せかけてボスを消す方が、麻薬取締局にカールを逮捕させるより楽だろう。


 ドラッグカルテルの連中は何を考えている?


「俺が思うにカールは求心力を失ったんじゃないか? 何かのヘマをしでかして信頼を失った。ここ最近、シュヴァルツ・カルテルの売人が逮捕される事件が相次いだ。それにカールが関わっているとしたら、シュヴァルツ・カルテルの連中にとってカールはもういらない爺だ。ムショで引退してもらった方がいいってことになる」


「動いているのはあくまでボス周りではなく、下っ端だと?」


「ああ。連中はカルテルを名乗っているが一枚岩じゃない。いくつものギャングが集まって、あたかもひとつの組織のように動いているだけだ。内部抗争が起きたヴォルフ・カルテルを見れば分かるだろう?」


「ふうむ」


 スヴェンは流石に“連邦”での潜入捜査が長いだけあって、フェリクスより踏み入った分析をする。フェリクスは“国民連合”国内での活動が長かったので、その手の分析にはあまり慣れていない。


「シュヴァルツ・カルテルの売人が逮捕され出した時期は?」


「一昨年ぐらいからだ。1975年だな。そこからシュヴァルツ・カルテルの売人が逮捕され始めて、カルテル間に冷戦状態が生まれたと分析官は見ている。キュステ・カルテルは元はヴォルフ・カルテルだが、そこも全体的にぎくしゃくした関係だったらしい」


「ヴォルフ・カルテルの抗争が起きたのは?」


「去年。連中は組織的な行動をとって目標を確実に消していく軍隊みたいな組織を飼っていると分かった。それでもヴォルフ・カルテルはこの抗争と内部粛清でかなり弱体化しただろうと見られている」


 フェリクスは考える。


 2年前から始まったシュヴァルツ・カルテルの売人逮捕。それは今は止まっている。ヴォルフ・カルテルの抗争ももうとっくに終わった。


 それでもなお、カールに恨みを持っている人間がいるのか?


 カールが両方の事件に関与していると示す証拠は手に入っていない。まるで自分たちがカールを売る理由を隠しているかのように、その情報は次々に入ってくるカールの身辺情報からも抜け落ちている。カールの最新の主治医にによるカルテまでフェリクスたちの下には届いているというのに!


「どうも俺たちに渡されている情報は偏っているようだ。あんたはまだカバーは剥げていないよな? 連中が麻薬取締局を操ろうとしていて、あんたのカバーが剥げていたら、この件が終わった途端、あんたは危険にさらされる」


「待て待て。全て俺が直接集めてきた情報じゃない。カール近辺の情報は今は開きっぱなしの水道みたいに末端のドラッグの売人から汚職警官まで知っている。そして、かなり突っ込んだ情報は大使館のアタッシェが集めた情報だ」


「戦略諜報省か?」


「そうだ。俺は元戦略諜報省の人間だ。戦略諜報省もドラッグ対策を行っているのを知っているし、そういう情報収集を専門とするアタッシェが配置されていることも知っている。戦略諜報省もカール逮捕に協力してくれているということだ」


 戦略諜報省の噂は海兵隊時代にフェリクスも聞いていた。


 ペーパーカンパニーと外人部隊を使って、ドラッグ取引をしていたり、民間人でも無差別に殺害する作戦を実行していたりと。


 スヴェンには悪いとフェリクスは思うのだが、戦略諜報省の情報だからと言って鵜呑みにはできなかった。あそこはかなりの無茶をやる組織だという認識がある。


「では、情報を整理しよう。汚職警官にまで流れているカールの情報と、戦略諜報省の集めたカールの情報。それらを比較して、何か気づくことがないか確かめよう」


「戦略諜報省を疑っているのか?」


「いや。疑っているのは自分自身だ」


 そうだ。俺自身で俺自身の判断や分析を信じられずにいるのだ。フェリクスはそう思う。自分の判断が間違っていれば、自分の分析が間違っていれば、俺たちはドラッグカルテルの連中を助けてやることになるんだぞ、と。


「なあ、俺たちは仮にカールを逮捕できても、それがドラッグカルテルの連中の利益になる場合、どうすればいいんだと思う?」


「分からない。逮捕はするべきだ。カールの犯してきた罪は償わせなければならない。それがドラッグカルテルの利益になるとしても。今度はその利益を得た連中を拘束して、ムショに叩き込んでやるんだ」


「そうだな。いずれは全員ムショに叩き込んでやろう」


 フェリクスはそう言って分析を続ける。


……………………

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