“連邦”との国境の街にて
本日1回目の更新です。
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──“連邦”との国境の街にて
麻薬取締局は“国民連合”の各地に支部を置いている。
だが、現状は人手不足で満足に回っている支部は少ない。
その中で唯一の例外があった。
“連邦”との国境沿いの街であるパラスコだ。
パラスコは川を挟んだ国境線があるだけで、そのまま“連邦”の都市と繋がっている。そうであるが故に不法越境者や密売人が集まる場所となっている。
フェリクスはこのパラスコの麻薬取締局の支部にやってきた。
「紹介しよう、フェリクス・ファウスト君だ。これから彼は“連邦”での捜査に当たる。“連邦”政府との共同作戦『フィッシュネット作戦』のためだ。彼に必要な情報を渡してやってほしい」
「よろしく」
パラスコ支部の支部長はそうフェリクスを局員たちに紹介した。
「それから、スヴェン・ショル特別捜査官を君に紹介しておこう。彼はもう何度も“連邦”で捜査に当たっている。表向きは観光客として。君がスコット局長に要請していた相棒という奴だ。仲良くやってくれ」
「よろしくな、タフガイ」
スヴェンは筋肉隆々の大柄な男だった。“連邦”に馴染めるサウスエルフとスノーエルフの混血で、健康的な褐色の肌をし、癖のある黒髪を短くまとめている。
「よろしく。何故、タフガイと?」
「個人的にドラッグカルテルに狙われているって聞いたぜ。家族はセトル王国に避難させたんだろう?」
フェリクスはスコットが全てを見抜いていたことを知った。彼はフェリクスが個人的に狙われていると知っていながら、それでも彼を捜査から外さないでくれた。フェリクスは局長の心配りに感謝する。
「個人的には狙われていない。ただ、無差別銃乱射事件に巻き込まれただけだ」
「そうか。まあ、頼りにしてるぜ。相棒」
「こちらこそ」
この男とは上手くやっていかなければ。彼が死ぬことのないように。
「状況を纏めた全体ミーティングをやる。フェリクス、君も来るんだ」
「了解」
支部長が呼ぶとフェリクスたちが会議室の中に入る。
「さて、現在の“連邦”から“国民連合”に流れるドラッグの経路について改めて纏めておく。かつては国境警備員が国境沿いの検問所に常駐し、常に向こう側から来る荷物について取り調べていた」
その時は平和だったのだろうとフェリクスは思った。
「だが、状況が変わった。NWCFTA──北西大陸自由貿易協定だ。今や“連邦”から膨大な工業製品や食料が運ばれてきており、それらを全て検査することなど不可能になった。視察に来た上院議員は『国境に壁を作ればいいんじゃないか?』と言ったが、連中は“連邦”と我が国の間にデカい穴を開けたのが自分たちだということを忘れたらしい」
くぐもった笑いが漏れる。
NWCFTAは北西大陸の産業を活性化させ、ドラッグカルテルを活性化させた。確かに人件費が安い“連邦”で作られた工業部品を使えば、車にせよ、他の工業製品にせよ、価格を抑えられる。急速に力をつけている他の国々に負けない工業力を養える。
だが、支部長が言ったようにNWCFTAは国境にデカい穴を開けた。扉から入ってくるものがいいものだけとは限らない。ドラッグもまた工業部品と同じハイウェイに乗って、“国民連合”に流れ込んでくる。
壁など作っても無意味だ。連中は裏口から入ってくるんじゃない。正々堂々と正面玄関から入ってくるのだから。
フェリクスはそう思う。
「NWCFTAに今さら文句を言ってもしょうがない。どの道、あの協定がなければ“国民連合”には失業者が溢れていたかもしれないんだ。問題は需要と供給だ」
そう、需要と供給。ドラッグビジネスも他のビジネスと変わらず、それを重視している。需要があるから供給が生まれる。需要が高ければ高いほど、供給側は値段を釣り上げられるし、多くの供給を図れる。
「“国民連合”は需要に満ちている。ヒッピーどもは合成ドラッグだろうとなんだろうとキメるし、貧困層は辛い現実から逃れるためにドラッグに手を出す。最近では金持ちすらも刺激という奴を求めてドラッグに手を出す。どうすれば需要をなくせるかなど見当もつかない。世界がひっくり返ったって、状況は変わらないだろう」
ああ。そうだとも。“国民連合”の市民はあまりに簡単にドラッグに手を出す。ちょっとした刺激のために人生を台無しにする人間が一体何千人いるか見当もつかない。貧困層、中流階級、上流階級に至るまでドラッグの潜在的な需要は存在する。フェリクスはそう考えると憂鬱な気分になるのを感じた。
「需要はどうしようもない。麻薬取締局でどうにかできる問題じゃない。政治家の仕事だ。俺たちはドラッグに手を出す人間を逮捕はするが、そのうち刑務所はヤク中で満員になるだろう。それぐらいの勢いでドラッグは拡散している」
支部長はそう述べてため息をついた。
「そして、問題は供給の側だ。エリーゼ、“連邦”の状況説明を頼む」
ここで解説が支部長から女性局員に代わった。
「“連邦”の状況ですが、主要なカルテルは4つ。一番盤石なのはシュヴァルツ・カルテル。そしてヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテル。最後にグライフ・カルテルです。かつてこれらのカルテルはカール・カルテンブルンナーというひとりの男によって治められていましたが、彼のカルテルは分裂を起こし、今の4大カルテル体制になりました」
カール・カルテンブルンナー。伝説の麻薬王だ。
この男がドラッグカルテルの基盤を築いた。だが、今では彼の帝国は4つに分裂した。カールと違って名前も分かっていない3人の男たちに率いられるものへと。
「麻薬取締局では今もカール・カルテンブルンナーをマークしています。ここ最近の情報ではヴォルフ・カルテルでは内戦が勃発し、分析官たちはこれによってヴォルフ・カルテルは弱体化したと考えています。4大カルテル体制は5大カルテル体制か6大カルテル体制になるのではないかと言う分析官もいます」
「ヴォルフ・カルテルが分裂すると?」
「はい。その兆候は見えています。エリーヒルの麻薬取締局本局も同意見です」
「なるほど」
真に倒すべきはシュヴァルツ・カルテルか? それともキュステ・カルテルか? それとも王座を退いた男の率いるグライフ・カルテルか?
「“連邦”との合同作戦である『フィッシュネット作戦』ではシュヴァルツ・カルテルへの捜査を予定していましたが、シュヴァルツ・カルテルの行動が低調なものになっているとの報告から、予定を変更しグライフ・カルテルを標的にすることになりました」
「シュヴァルツ・カルテルが一番盤石だったのでは?」
「はい。ですが、その盤石さは活動の少なさのためだったと思われます。小規模な取引に従事していれば、組織は割れない。組織が割れるのは新しいものごとに挑戦するときです。今、シュヴァルツ・カルテルが盤石なのは彼らがホワイトグラスなどの従来の商品しか扱っていないためだと思われます」
これを聞いてフェリクスは疑問を感じた。
どうしてシュヴァルツ・カルテルではなく、グライフ・カルテルに捜査対象が変更になったのだろうかと。
確かに盤石な理由は女性局員の言う通りかもしれない。だが、その代わりにキュステ・カルテルや崩壊の危機にあり捜査の行いやすそうなヴォルフ・カルテルではなく、かつて王座に座っていたという経歴があるだけの男がいるグライフ・カルテルを?
だが、そう捜査方針が決まっているなら従うしかないとフェリクスは考えた。
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