ルール無用
本日1回目の更新です。
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──ルール無用
トマスとフェリクスはミドルタウンにあるハンバーガー店までやってきた。
「あいつだな。なんとまあ、堂々としてやがる」
トマスは覆面パトカーの中からスキンヘッドの男を見つけて呆れたように呟く。
「やりますか?」
「営業中の看板は下げてないが、間違いなくスノーパールは持っているだろう。さあ、楽しい時間の始まりだ」
トマスは覆面パトカーから降りる。
それと同時にスキンヘッドの男の視線がトマスに向けられる。
「フリーダム・シティ市警だ。ちょっと質問したいことがあるんだがいいか?」
「ああ。いいとも。あの世で思う存分、話して来い!」
スキンヘッドの男は魔導式拳銃を抜き、銃口をトマスに向けた。
「危ない!」
フェリクスがトマスを押し倒し、銃弾が覆面パトカーの窓ガラスをぶち抜いた。
「遮蔽物へ! 援護します!」
「すまん! しくじった!」
フェリクスも魔導式拳銃を抜き、スキンヘッドの男を牽制するように銃弾を放つ。
スキンヘッドの男も銃撃を行いながら、遮蔽物へと隠れようとする。
覆面パトカーに何発もの銃弾が突き刺さり、甲高い金属音が響く。
「大丈夫ですか!?」
「俺は平気だ。だが、銃の撃ち方はてんでダメだ。民間人を巻き込む恐れがある。車の妖精通信は生きてるか?」
「確認します」
フェリクスは銃弾の中を車の中に入り、妖精通信を手に取る。だが、妖精通信は銃弾を受けて破壊されていた。どこにも通じない。
「ダメです。妖精通信は破壊されました」
「畜生。ついてないな。俺が囮になるから、その隙に男を押さえてくれ。足になら数発ぶち込んでも構わん。だが、殺すなよ。殺したら糸が途切れる」
「了解」
海兵隊時代の経験を思い出す。素早い判断、素早い行動。それに勝るものはない。どんな武器でも判断が遅く、行動が遅ければ意味がない。
「いくぞ。3カウントだ」
トマスがそう言って、覆面パトカーの影から様子を窺う。
3──2──1──。
「今だ!」
トマスが飛び出して駐車場を走り、スキンヘッドの男の射撃がトマスを狙う。
それと同時にフェリクスも飛び出した。
フェリクスは男をいつでも狙えるように魔導式拳銃を構えたまま突撃し、スキンヘッドの男がフェリクスに気づいたときにはタックルを食らわせていた。スキンヘッドの男は銃口をフェリクスに向けようとして藻掻き、フェリクスにケリを叩き込む。
だが、レスリングと軍隊格闘の経験があるフェリクスには敵わなかった。男は魔導式拳銃を奪われ、うつぶせの姿勢で取り押さえられた。
「やったか……?」
「ええ。トマス、あなた撃たれて……」
「この程度掠り傷だ。どうってことはない。ハンバーガー屋で電話を借りてくる。そのまま取り押さえておいてくれ」
トマスはそう言って右足を引きずりながら、ハンバーガー屋に向かった。
「畜生。警察じゃないな? 麻薬取締局か?」
「どうしてそう思う?」
「市警の警官はそんな訓練は受けてねえ」
スキンヘッドの男はフェリクスを睨む。
「だとしても、お前は警官を相手に発砲した。その罪は重いぞ。覚悟しておくことだな。スノーパールも持っているんだろう?」
「どうだろうな?」
スキンヘッドの男がにやりと笑ったところでフェリクスは違和感を覚えた。
フェリクスが頭を上げたとき、ひとりのスノーエルフとハイエルフの混血の男がフェリクスに向けて銃口を向けているのに気づいた。
「畜生!」
フェリクスが反射的に近くにあったゴミ箱の影に隠れる。
銃弾はフェリクスがいた場所を通過していき、アスファルトに突き刺さった。
それから数回射撃音がし、フェリクスはゆっくりと物陰から顔を出す。
「大丈夫ですか!?」
やってきていたのは警官だった。
「市警の警官か? ここにいたスキンヘッドの男はどうした? それからさっきあっちの方から銃撃してきた男はどうなった?」
「落ち着いてください。スキンヘッドの男は武器を持っていて警告に従わなかったので射殺しました。それから別の男は確認していません。本当にそんな男がいたんですか?」
「いた! 発砲音が聞こえただろう!?」
「聞こえませんでした」
警官は首を横に振る。
「男の荷物は?」
「そのままです」
警官が報告するのにフェリクスは捜査用の手袋をはめる。
そして、男の抱えていたボストンバックを漁った。
「……ない」
スノーパールはなかった。一粒も。
「フェリクス! 警官が応援に来るぞ!」
そうしているうちにハンバーガー屋からトマスが戻ってきた。
「トマス。男は死にました。そして、スノーパールは持っていません」
「何があった?」
「別の襲撃者に襲われて男から離れたときにそこにいる市警の警官が男を射殺しました。バックを調べましたが、スノーパールは一粒すらありません」
「畜生。冗談だろう。スノーパールを持ってないのに銃撃してきたってのか?」
「自分にも何がどうなっているか分かりません。ですが……」
フェリクスが男の死体を見下ろす。
「これで糸は途切れました」
ブルーボーイの情報は事実だったが、相手は一枚上手だった。
「いや。ひとつ糸が切れただけだ。別の情報源から別の売人の情報を手に入れる。だが、その前にこの男の死体と俺の負傷について報告しなければならん。暫く、時間がかかる。すまないな」
「いいえ。大丈夫です。確実にやっていきましょう」
それから男の死についての調査と、トマスの負傷についての報告と調査が行われた。トマスは単独行動を取っていたことを上から叱責されたものの、地位は追われなかった。男を射殺した警官はフェリクスに言った通りのことを報告し、現場検証でそのことが裏付けられた。
新手に襲撃者から発砲され、アスファルトに突き刺さっていた銃弾は警官が発砲したものだった。魔導式拳銃を持ち、警告に従わなかった男を射殺したときのものとして扱われたのだ。
フェリクスの異論は証拠はないとして無視され、警官の証言が採用された。
それからトマスが病院から戻ってきて、フェリクスが泊っているホテルを訪れた。
「ブルーボーイが殺された」
「マフィアの仕業ですか?」
「分からん。マフィアは密告者を嫌うが……」
トマスが言葉を濁らせる。
「死体はマフィアらしからぬ処理がされていた。銃創はなし。検死解剖の結果、ブルーボーイは生きたままバラバラにされたそうだ。それも最後まで意識があるようにアドレナリンが投与された痕跡も見つかっている。あいつ、そこまでされるようなことはしてなかったってのに」
トマスはそう言って額を抑える。
「あの警官の証言がおかしいです。襲撃者は確かにいた。現場に薬莢は残っていなかったんですか? 目撃者は?」
「フリーダム・シティの住民は馬鹿じゃないし、この間の抗争絡みの件で自己防衛に懸命だ。銃撃戦に巻き込まれる前に全員が逃げた。それにアスファルトから見つかった銃弾のライフル痕は警官の魔導式拳銃と一致した。そして、薬莢は警官が発砲した数だけ」
トマスはそこでため息を吐く。
「この街はどうなっちまったってんだ……」
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