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2度目の人生の初めて

本日2回目の更新です。

……………………


 ──2度目の人生の初めて



 アロイスはチェーリオから渡された魔導式拳銃を眺める。


 オーソドックスな45口径拳銃。“国民連合”のマフィアが好きそうなものだ。


 刻印は消されているし、アロイスは手袋をしている。証拠は何も残らない。


「やめてくれ……。家族がいるんだ……」


「ああ。そうだったな。あんたの家族を忘れてた。連れてこい」


 チェーリオが合図すると、外から麻袋を被せられた人間が連れて来られた。


「サプライズ。あんたの家族だ。お別れを言う準備はできているか?」


「なんてことを……」


 麻袋が取り払われると猿轡をかまされた女性と女の子と男の子が姿を見せた。


「さあ、やれよ、アロイス。俺たちはこれで共犯となり、強く結びつく。お前、言ってたよな。お互いにヘマはしない。裏切らないって。それを確かなものにするためには、俺にその覚悟を証明してもらわなきゃならない」


 チェーリオがそう言うのをアロイスは聞いていた。


 1度目の人生では何人もの人間を手にかけた。自分の手で魔導式拳銃の引き金を引くこともあったし、人にやらせることもあった。アロイスの場合は、大抵後者だった。暴力とは自分が狂暴であると示すことで証明されるものではない。それはただの狂人だ。暴力とは他者に振るわせ、それを操れる立場にあることを示すことで証明される。


 アロイスは魔導式拳銃の撃鉄を起こす。


 2度目の人生で人を殺すのは初めてだ。


 確かにギルバートは殺した。彼の妻も殺した。正確にはヴィクトルのけしかけたヤク中が殺した。だが、殺すように指示を出したのはアロイスだ。アロイスがヴィクトルに頼んだ。ギルバートを殺せ。ヤク中の仕業に見せかけて銃を乱射させろ、と。


 その後の、フェリクスに対する暗殺作戦でも人が死んだ。アロイスが名前すら知らない全く無関係の一般市民が死んだ。


 エルケも死んだ。アロイスが勧めたドラッグで酩酊状態になっているところを車道に飛び出し、トラックに轢き殺された。


 5大ファミリーのボスと幹部たちもアロイスの指示でマーヴェリックとマリーが殺しまわった。巻き込まれた民間人もいるし、死ぬ必要のなかった人間もいる。


 思えば結構な人間に死をもたらしてきたものだ。


 だが、直接手を下したことはない。


 これが2度目の人生で初めての殺しになるなとアロイスは感慨深げに思った。


「やれないのか?」


「いいや」


 アロイスはまずは幹部の妻に銃口を向けた。そして、引き金を引く。


 頭が弾け、頭蓋骨の破片と血液がスイカを叩き割ったみたいにまき散らされる。


「ああ! ああ! やめろ! 俺だけを殺せ! 家族に罪はない!」


「あんたの家族なのが罪なんだよ。分からないのか? この手の商売は感染症なんだ。親が感染すれば子も感染する。そして、親の罪を子が背負うんだ。そのまた子も同じように罪を背負う。俺たちは罪深い罪人の一族だ」


 神は罪を許すそうだが、俺たちは罪を許さない。そう、同じ罪人同士で殺し合うんだ。ああ。そうとも。無関係の民間人まで殺すような俺たちが、同じ罪人を殺すのを躊躇うとでも? 馬鹿馬鹿しい。


 アロイスは次に少年に狙いを定めて引き金を引いた。


 脳漿がスプレーみたいにまき散らされるのが奇妙に思えた。


「この狂人め! イカれた野郎め! 子供を殺しても何も思わないのか!?」


「そんなことを思うぐらいなら、最初からこの商売をしてない。分からないのか? あんたと俺は同じだ。あんたが俺の立場なら、俺の家族を殺すだろう。今の俺の家族はひとりだけだけどな。親が殺されれば、子は復讐を考える。それは5年後かもしれないし、10年後かもしれない。俺は自分が殺されるリスクを抱えたくない」


 アロイスは少女に銃口を向けた。アンモニア臭が漂い始める。


 アロイスはあっさりと引き金を引いた。また脳漿がスプレーみたいにまき散らされるのが少しばかり面白く感じられた。


「ああ……」


 もはや幹部は言葉を失っている。


 自分の家族が皆殺しにされた。そのことに衝撃を覚えているのだ。


 どんな屈強な連中でも弱点がある。それが家族である割合は高い。


 家族は弱点だ。だから、1度目の人生でアロイスは家族を作らなかった。自分の弱点として家族が使われることを恐れたのだ。実際にアロイスは敵対者を脅迫し、いいなりにさせるために敵対者の家族を拉致していたので、分かっていた。


 家族は、愛情は、執心は弱点だ。自分の愛するものは弱点になる。だから、アロイスは体だけの関係を、一晩かぎりの関係を求める。


 弱点は麻薬取締局ですら利用する。連中が家族を餌にドラッグカルテルの幹部を越境させ、逮捕してきたことを知っている。“連邦”の法律で裁き、“連邦”の裁判所で判決を下し、“連邦”の刑務所に収容することを避けたのだ。ドラッグカルテルの大物は、“国民連合”の法律で裁くというわけだ。


 アロイスは1度目の人生においても完璧を求めた。自分が弱点をさらけ出すことを嫌った。そうであるがゆえに1度目の人生で彼が愛したものはいなかった。


 だから、分からない。親子の情がどれだけ深いのか。家族の繋がりがどれだけ重要なのか。自分は家族を弱点としてしか見ていないのだということを実感する。


「最期だ。言い残すことは?」


「クソくらえ。貴様に災いあれ」


「陳腐な遺言だな」


 アロイスは4度目の引き金を引く。


 幹部の頭が吹き飛び、幹部の体が後ろ向きに倒れていく。


「片付いた、チェーリオ。これで満足か?」


「……かなりイカれてるな、お前」


 チェーリオは信じられないという顔でアロイスを見る。


「君が求めるがままにやっただけだ。何をそんなに恐れている?」


「俺は確かに殺せと言った。だが、それは男の家族じゃない。男だけだ」


「一緒だろう? 男が死ねば、どのみちこの家族も死んでる。君が報復を阻止するために殺すはずだ。違うのか?」


「“連邦”の人間はみんながそうなのか?」


「違うよ、チェーリオ。ドラッグカルテルの人間だけだ」


 取引にはこれで用心するようになっただろう、チェーリオ。俺は女子供だろうと容赦なく殺す。お前がヘマをしたり、裏切ったりすれば、この男の立場になるのはお前なんだよ。それを理解して俺とは取引していこうじゃないか。


「“連邦”のドラッグカルテルは狂ってるぜ」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 全てが終わるとチェーリオの部下が死体の処理を始める。


 死体はドラム缶に詰められ、苛性ソーダで溶かされてから、海に廃棄される。幹部たちも、幹部の家族も同様に処理される。ただ、死体を海に沈めても腐敗が進めば、ガスが溜まり浮かんで来る。死体は完全に処理されなければならない。


 死体が見つかりフリーダム・シティ市警が動くようなことは好ましくない。


 すでに多くの血が流れたが、その勝敗は不確かなままにしておきたいのだ。


 フリーダム・シティ市警もその麻薬取締課が動いているのだから。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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