フリーダム・シティは燃えているか
本日2回目の更新です。
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──フリーダム・シティは燃えているか
チェーリオは狡猾だった。
彼はようやく5大ファミリーの会合に出席してもいいというメッセージをそれぞれのファミリーに届けさせた。それによって、5大ファミリーは一時的な休戦に応じたのだった。ひと時の穏やかさがフリーダム・シティに訪れる。
警官は相変わらずパトロールの巡回路から5大ファミリーの関係施設は外しているが、もはや5大ファミリーの戦争は終わったと思っていた。フリーダム・シティを巻き込んだ大規模な抗争はカルタビアーノ・ファミリーの降伏によって終わるのだと。
だが、チェーリオは戦争を終わらせるつもりなど欠片もなかった。
彼は奇襲するのだ。5大ファミリーを。5大ファミリーというしがらみに唾を吐いて、その枠組みを完全に破壊し、チェーリオの望むような体制へと変えさせるのだ。
5大ファミリーは時代を見誤ったとチェーリオは考える。
もう昔のような商売で食っていける時代ではない。5大ファミリーが適応できなければ、他の適応した犯罪組織がフリーダム・シティの新しい支配者になるだろう。5大ファミリーはどのみち終わりなのだ。
だから、自分だけでも生き延びる。長く自分たちマフィアが牛耳って来たフリーダム・シティの支配権を早々よそ者に渡してなるものか。5大ファミリーが適応できないのは自然淘汰だ。進化についてこられなかった哀れな生き物は淘汰される。サーベルタイガーが時代についていけなかったように。
哀れな5大ファミリー。チェーリオは5大ファミリーに同情するとともに、嘲っていた。哀れな年寄りども。時代遅れの骨董品どもめ。お前たちは生き延びられない。だが、俺たちは違う。俺たちは適応する。生き延びるんだ。お前たちの死体を足蹴にしてな。
チェーリオは自分の所有するビルの最上階で、屈強な護衛たちに守られながらそう思っていた。警備は厳重。何層もの警備がビルの入り口から各フロア階段、エレベーターを押さえている。
チェーリオは停戦する気はないことの表れだった。
そして、今、不意打ちが行われようとしていた。
「情報は確かか?」
「ええ。幹部とボスが揃っている。停戦宣言のおかげでボスと幹部が別々に行動することはなくなった。纏めて始末できる」
「上等」
マーヴェリックはカルタビアーノ・ファミリーの情報屋から情報を得ると、黒いライダースに身を包んで、スリングに止めた魔導式短機関銃の動作を最終確認する。魔導式短機関銃はカタログスペック通りに丁寧に動く。
「派手にぶちかましてきてやる」
サプレッサー付きの魔導式短機関銃を手に、マーヴェリックはバイクを走らせる。
バイクはフリーダム・シティの道路を疾走し、目的地に向かう。最初のターゲットはレストラン。そこに5大ファミリーの一角であるマフィアのボスと幹部が存在している。停戦命令が出てからも、警戒はある程度続いているのか、レストランの周りには屈強な男たちが武器を持って、備えていた。
そこにマーヴェリックのバイクが突っ込んでくる。
異常に気づいた警備が武器を構えようとするが、その前に炎に包まれて焼死した。レストラン内には炎が放たれ、幹部やボスが燃え上がる。そして、そこに追い打ちをかけるようにマーヴェリックの魔導式短機関銃が銃弾の嵐を浴びせた。9ミリ拳銃弾。それがトドメを刺し、ボスと幹部を一掃した。
このような襲撃がもう一度繰り返された。
カルタビアーノ・ファミリーを除いた5大ファミリーのうち半数は行動不能に陥った。炎と銃弾の洗礼を受けたマフィアたちは次々に死体に変わっていく。カルタビアーノ・ファミリーと抗争中だったマフィアのボスと幹部たちが消えていく。
それと同時にマリーも動いていた。
彼女は準備を念入りに行っていた。
彼女の爆弾を運ぶもの。それは人間の死体だ。正確には死霊術で操られた人間の死体であった。敵対するファミリーの幹部を拉致し、殺害し、爆弾を巻きつけて会合の場に送り出す。後は幹部がボスの前に立ったら起爆。
「第二目標、確認」
狙撃銃の光学照準器を覗き込んでマリーが呟く。
爆弾を体に巻き付けた動く死体はボディチェックを受けずに、室内に入り、幹部たちに挨拶する。死体なのに違和感もないように動かせるのが、マリーの技術を示していた。通常、死霊術で蘇らせた死体は違和感のある奇妙な動きをするものなのだが。
幹部が部屋の奥に進んでいくと、ボスが出迎えた。
「第一目標、確認」
これで幹部たちとボスが同じ場所に立った。
「点火」
無線信号で雷管に電気が流れ、プラスティック爆弾が起爆する。
巨大な爆発。爆風そのものの威力も強力であれば、爆弾に仕込まれた釘やネジのもたらす破壊も膨大だった。ボスと幹部たちは鉄の嵐に八つ裂きにされ、近くにいた護衛も巻き込まれて、死の炎に巻き込まれる。
室内とそのすぐ外にいた人間はほぼ即死した。
マリーは光学照準器で念入りに生き残った幹部やボスがいないかを確認すると、観測地点としていたビルから撤退し、次の目標に向かった。
次の目標ではボディチェックがあることを知っていたので、マリーは死体の腹を切り裂いて、腹の中に爆弾を詰め込み、縫合しておいた。まるで七面鳥に香草を入れて、焼くかのようにして。
人間爆弾は先ほどと同じように幹部とボスの部屋を訪れる。ボディチェックが行われるが、爆弾は腹の中だ。見つかるはずもない。
人間爆弾は室内に入り、幹部と抱擁を交わす。マリーはボスの姿が確認できるのを待っていた。狙撃ではひとりより多くの目標を始末するのは難しいが、人間爆弾は確実に複数の目標を仕留められるのだ。
マリーはじっくりとボスが姿を見せるのを待ち続ける。
そして、光学照準器にボスの姿が見えた。ボスは葉巻を咥え、紫煙を吐きながら、幹部に何事かを言っている。だが、それに返事をする必要はない。
「点火」
人間爆弾が爆発する。
ボスと幹部たちは皆殺しになった。殺戮の嵐が吹き荒れ、室内は悲惨な状態になっている。人間だったものがそこら中に転がり、血だまりができている。炎に焼かれたカーテンや家具が今も燃え、近くの住民は悲鳴を上げて警察に通報しろと叫んでいる。
「任務完了」
こうしてカルタビアーノ・ファミリーによる5大ファミリーへの奇襲はなされた。
5大ファミリーはカルタビアーノ・ファミリーを除いて主要な幹部とボスを失い、どうしていいか分からずに右往左往するばかりであった。
そこをさらにカルタビアーノ・ファミリーから攻撃を受け、同時にこの抗争の勝者がカルタビアーノ・ファミリーであると踏んだ汚職警官たちによって、構成員たちが次々に様々な罪状で逮捕されて行く。
5大ファミリーは辛うじて生き残った幹部たちが引き継ぎ、今度こそ平和を求めてカルタビアーノ・ファミリー──チェーリオに講和の場を設けることを求めた。
主導権を得たチェーリオは会合の場所を自ら指定し、幹部たちを待ち受けた。
5大ファミリーの幹部たちはそれに応じるしかなかった。
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