ミスター・ノース、ところでこれはおいくらで?
本日2回目の更新です。
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──ミスター・ノース、ところでこれはおいくらで?
「ネイサンで結構です。あなたが客人だ。あなたが我々から武器を買う。利益を得るのは我々です。あなたは大切な客人なのです。我々兵器ブローカーにとって」
ノースは恭しくお辞儀した。
「それで、注文した品は届いているのか?」
「ええ。それはご注文通り。どうぞ見て回りましょう」
アロイスは船倉内に魔導式自動小銃を所持したネイサンの護衛がいることを確認した。彼らはネイサンに危害が及ぶのであれば容赦なくアロイスを蜂の巣にするだろう。そして、報復から逃れるために船ごと逃げていくだろう。
だが、そうはならない。アロイスはネイサンを脅かしたりなどしない。
「まずは魔導式自動小銃。200丁。交換部品も含めて3年は持ちます」
「3年経ったら追加発注か?」
「ええ。そういうことになります。我々は持続的な取引を望んでいるし、兵器というのは一度手に入れてそれで終わりというわけではありません。シャンプーが切れたら買い替えるでしょう? 兵器も消耗品です。ライフリングは摩耗するし、兵器というものは衝撃でじわじわと破損していくものです」
「なるほど」
アロイスは1度目の人生でも同じことを学んでいた。兵器というのは消耗品なのだ。どれだけ念入りに手入れをしても交換部品が生じる。その部品交換を怠ると、兵器はたちまちガラクタに成り果てる。
交換部品の必要性は知っている。兵器ブローカーが暴利を貪ろうとしているわけではない。もっともアロイスは兵器の適正価格などしらない。だが、相手は馬鹿なことをしてこれから続くだろう取引をパーにするとは思えない。
そう、取引は続くのだ。アロイスは兵器の交換パーツ、弾薬、その他もろもろの消耗品を獲得していくためにネイサンと取引を続ける。ネイサンは喜んで取引に応じる。なぜならばこの男は兵器ブローカーなのだから。ドラッグカルテルの周りには死の臭いが立ち込めている。奴らはハゲワシやハエのように死の臭いに群がる。
ネイサンは利口な男だとアロイスは見ている。先見の明があると。
ネイサンはシュヴァルツ・カルテルでも、キュステ・カルテルでも、グライフ・カルテルでもなく、ヴォルフ・カルテルと取引を望んだ。まして、他の軍事政権たちでもなく、正統性のないヴォルフ・カルテルを選んだ。
「次に魔導式機関銃10丁。これも交換部品は3年分。おっと、これは戦争状態にある国家での消費の割合から計算されたものです。そちらが平和に過ごせば、交換部品の必要性はなくなります。平和は消費を留まらせるのです」
「それもそうだ」
使わなければ経年劣化を除けば兵器は損耗しない。だが、不幸なことにアロイスは兵器を使うつもりだ。抗争において、暴力を示す場において。
それからアロイスはネイサンの案内で魔導式短機関銃、魔導式拳銃、魔導式重機関銃、迫撃砲、無反動砲、ロケットランチャーを見て回った。どれも衝撃波で破損しないように、おがくずの梱包材に包まれ、卵のように大切に包まれている。
「そして、これが目玉商品。サウス・エデ連邦共和国製の装甲車。50口径の魔導式重機関銃をマウントできます。装甲は重機関銃の射撃に耐え、地雷にも強い。兵員は最大7名を輸送可能。どうです? 立派な品でしょう?」
「不思議だな。どうやってサウス・エデ連邦共和国からこの兵器を買い取れたんだ?」
「それはサウス・エデ連邦共和国が財政難だからですよ。彼らは北の脅威である“社会主義連合国”と対峙しなければならない。かといって自由世界の住民でもない。彼らは自らを第三世界と名乗る陣営に所属しています。だから、外貨は死ぬほど欲しい」
「ドラッグマネーでも?」
「金は金です。金に貴賤なし」
ネイサンはこともなげにそう言ってのけた。
「そうだな。金は金だ。取引をしよう。全部買い取る。一括で。ローン払いは昔から好きじゃない。何か追い立てられているような感じがして」
「我々も一括だと助かります。この手の商売はいつ廃業になるか分かりませんから」
嘘つきだな、ネイサン。あんたはヴォルフ・カルテルから搾れるだけ搾り取って、自分をドラッグでできたドラッグマネーで満たすつもりだろう? 安全な口座に金を振り込み、不動産や株式に投資し、欲深いドラゴンのように財をため込むんだろう?
「全部でいくらかな?」
「装甲車4両を含めて150億ドゥカートとなりますが」
「よろしい。支払おう。それから値段は180億ドゥカートとしてくれ」
ネイサンはそう聞いて聞き間違えかと思うように呆気にとられた顔をした。
値下げを求める客はいるが、値上げを求める客はいない。
「30億ドゥカートは諸君らへの信頼の代金だ。将来的にもっと武器が必要になった場合、君からまた取引したいという願いだ。君が我々とあまり友好的ではない集団と取引していることは我々にとって望ましくないんだ」
アロイスは高給でマリーとマーヴェリックを引き抜いた。敵に引き抜かれる前に。
それと同じことをネイサンに対しても行おうとしている。ネイサンをヴォルフ・カルテルに、いやアロイスに結び付けておくために、他のカルテルなどと取引しないように独占契約を結ぼうというのだ。
ネイサンのような大物兵器ブローカーはそうそういるものではない。これだけの武器を簡単に調達できる人材はそこらにはいない。魔導式拳銃から装甲車まで。ネイサンは有能だ。兵器ブローカーと言えど、使えるものは使うべきだ。
ネイサンがうっかり間違って他所のカルテルと取引した日には30億ドゥカート分の取り立てが待っているだろう。有名な戯曲で言えば、30億ドゥカート分の肉を体から切り取られることになる。そうなったネイサンは恐らくはミンチだ。血の重さなど考える必要性もないだろう。
「本当によろしいのですね?」
「ああ。もちろんだとも。そう考えて金は用意している。外にいる人間を呼んでもらえるか。現金で、この場で、180億ドゥカート支払おう」
ネイサンはやや戸惑った様子だったが、ボスであるアロイスがこの場に無防備にいることに安心したのか、外からの人間を中に入れるよう指示を出した。
そしてマリーとマーヴェリック、そしてジャンとミカエルがそれぞれスーツケースを運んできて、ネイサンの前に置く。
「好きなだけ確認してくれ」
「いえ。そちらを信頼しましょう。信頼こそが我々の尊ぶべきものです」
金払いのいい客の機嫌を損ねたくないだけだろう。それだけネイサンにとってはこの大規模な取引が有用だったということだ。
「これからも末永く取引を続けていきたい、ネイサン。お互いに誓っておこう。ヘマはしない。裏切らない」
「ええ。アロイス。ヘマはしない。裏切らない」
アロイスがヘマをしても、ネイサンがヘマをしても両者が損をする。そしてアロイスが裏切っても、ネイサンが裏切ってもやはりお互いが損をする。
これで俺たちは兄弟だな、ネイサン。
アロイスはそう思ってネイサンと握手を交わした。
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