そして、去る者は
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──そして、去る者は
フェリクスの暗殺計画は念入りに計画された。
不確定要素は最低限にまで排除し、絶対にフェリクスを殺せる状態を生み出す。
「汚職警官たちからの情報だよ」
アロイスは述べる。
「フェリクスはここ最近、港を重点的に調べているらしい。悪い知らせだ。俺たちのビジネスがパーにされかねなない」
「なら、なるべく迅速に殺さないとね」
「ああ。そうなる。なるべく迅速に奴を殺す。そして、確実にこの世から消えてもらう。手加減は抜きだ。マーヴェリック、マリー。1個小隊を率いてフェリクスが港に出たところを襲撃してくれ。期待している」
「あいよ」
マーヴェリックは軽くそれを引き受けた。
「全員聞けっ! これからクソッタレな麻薬取締局のクソフェリクス・ファウスト特別捜査官を殺しに行く! ボスは奴の首をお望みだ! 仕留めたらあたしたち全員に報酬が出るぞ! 気合は十分か!」
「おうっ!」
「よろしい! それでは装備確認! 行くぞ!」
マーヴェリックたちは魔導式自動小銃や魔導式機関銃で武装し、ヘリポートで待っている輸送ヘリに乗り込んだ。
ガンシップも2機が随伴する。もし、また待ち伏せが行われていたとしても、叩き潰せるだけの火力をアロイスは準備した。
「では、マーヴェリック。幸運を」
「ああ。あんたもあたしたちが留守の間に殺されるんじゃないぞ?」
「頑張って生きておくよ」
マーヴェリックにそう言って、アロイスはヘリが飛び立つのを見送った。
汚職警官の報告通りにフェリクスの使っている軍用四輪駆動車は港にとまっていた。港には貨物船が並ぶが、この港にはアロイスたちが東へのパイプラインに使用している貨物船は停泊していない。
『ツェット・ゼロ・ワンよりフェアリー・ゼロ・ワン。全兵装使用自由。繰り返す、全兵装使用自由。目標を発見し次第蜂の巣にしろ』
『了解』
2機のガンシップが港の上空を旋回しながら飛行し、フェリクスを探す。
『対空ミサイルだ! ロックオンされた!』
『畜生め! 待ち伏せだ!』
2機のガンシップがチャフとフレアを放ちながら戦場から離脱していく。
「あの貨物船からミサイルは飛んできたな」
「あの貨物船、沈める?」
「フェリクス・ファウストを確実に殺したって証拠が欲しい。乗り込もう」
「了解」
マーヴェリックとマリーがそう言葉を交わし、対空ミサイルをやり過ごしたガンシップが援護する中、マーヴェリックたちを乗せた輸送ヘリが貨物船にロープを下ろし、それを伝ってマーヴェリックたちが降下する。
マーヴェリックたちは慣れた動きで貨物船内を捜索していく。
「接敵! いたぞ! “連邦”海兵隊だ!」
「叩き潰せ!」
そして、銃撃戦が船内で始まる。
相手は“連邦”海兵隊。
それも既に防衛の準備を済ませている。
「援護する! 対戦車ロケット弾を使え!」
「了解!」
しかし、マーヴェリックたちも火力では負けていない。
魔導式機関銃が火を噴き、魔導式自動小銃のアンダーバレルに装着されたグレネードランチャーが火を噴く中、対戦車ロケット弾が発射される。
“連邦”海兵隊の兵士たちが吹き飛び、防衛線に穴が開く。
「行け、行け、行け! 1個分隊ずつ援護しながら進め!」
マーヴェリックたち『ツェット』の動きは“連邦”海兵隊を上回っており、防衛線に開けた穴から次々に敵の陣地を崩していく。コンテナが大量に積み込まれた船内は迷路のようだが、マーヴェリックたちは火力でそれを押し切った。
ひとつ、ひとつ、“連邦”海兵隊の陣地が制圧され、マーヴェリックたちが船倉を奥へ、奥へと進んでいく。
「うわ──っ」
だが、そこで敵も準備を怠っていないことが示された。
マーヴェリックたちが通過しようとしていたところで指向性地雷が炸裂したのだ。鉄球が撒き散らされ、『ツェット』の兵士が3名、纏めて倒れる。助けるには負っている傷が深すぎる。
「畜生。クソ野郎どもめ」
「ブービートラップに警戒。注意して前進せよ」
マーヴェリックは怒り、マリーは対応を指示する。
「悪いことがひとつ起きると、立て続けに悪いことは重なる」
「何かのことわざ?」
「あたしの経験」
マーヴェリックたちはブービートラップに用心しながら前進する。“連邦”海兵隊の抵抗を排除しなら、確実に進んでいく。
不意に前方を進んでいた兵士の頭が弾け飛ぶ。
「狙撃手! 伏せろ!」
すぐに次の銃弾が飛んできて、マーヴェリックの頭を掠める。
「あなたの経験も馬鹿にできないわね」
「全くだ。ツェット・ゼロ・ワンよりフェアリー・ゼロ・ワン。近接航空支援を要請。赤でスモークした場所にたっぷり弾丸をお見舞いしてやってくれ」
『了解。目標指示を待つ』
そして次の銃弾が狙撃手から放たれた後にマーヴェリックが銃弾が飛んできた方向に銃を乱射し、ついでにアンダーバレルからスモークグレネードを叩き込む。
それからガンシップが船から漏れる赤いスモークを見てそこに向けてロケットポッドとガトリングガンを叩き込んだ。
「狙撃手は片付いた。前進、再開」
そして、マーヴェリックたちが前進を再開する。
マーヴェリックたちは確実に前進する。
そして、だんだんと敵の数が減ってきて、船倉から船員区画に入った。
「部屋が多い」
「片っ端から手榴弾を放り込んでいくしかないね」
船員区画はいくつもの部屋があった。
その廊下をマーヴェリックたちは進み、部屋に手榴弾を投げ込む。
そうやって前進していたときだった。
突如として前方の部屋から何かが廊下に向けて放り出された。
それは猛烈な閃光と轟音を発すると、マーヴェリックたちの動きをマヒさせた。
「動くな! 麻薬取締局及び“連邦”海兵隊だ!」
「畜生。畜生。畜生! 第3分隊援護しろ! 撤退だ!」
辛うじて無事だった第3分隊が麻薬取締局の特殊作戦部隊と“連邦”海兵隊の合同チームに鉛玉を浴びせかけ、麻薬取締局の特殊作戦部隊と“連邦”海兵隊も反撃する。
「マリー! 行け! 引くんだ!」
「あなたも早く!」
珍しく感情的にマリーが叫ぶ。
「このクソッタレの麻薬取締局──」
そこで一発の銃弾がマーヴェリックの右目を貫き、後頭部から抜けた。。
マーヴェリックは手榴弾のピンを抜いており、それを投げながら地面に崩れ落ちる。そして、手榴弾が炸裂する音が響いた。
「マーヴェリック!」
「大尉! 援護します!」
マリーが急いでマーヴェリックを遮蔽物に引きずり込む。
だが、既にマーヴェリックはこと切れていた。彼女の心臓は停止し、脳も死んでいた。彼女は完全な死を迎えていた。
「……撤退する」
「了解」
マリーはマーヴェリックを背負うと、来た道を戻り始めた。
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