議会にて
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──議会にて
議会での証言は宣誓したうえで行われる。
もし、偽りの証言をしたりすれば、重い偽証罪に問われることになる。
「──。では、あらゆる宗教に関係なく、正しい証言を行うと宣誓しますか?」
「宣誓します」
議会でのヴォルフゲート事件に対する公聴会はG24Nを始めとする多くのマスコミが注目していた。一体どのようなことが新たに証言されるのだろうかと注目を集めていた。反共保守政権の議員たちはフェリクスを睨みつけ、改革政党の議員は期待するようにフェリクスを見つめている。
「まず尋ねなければいけないのは、どうしてマスコミが捜査中の情報について入手したかについてです。何があったのですか、フェリクス・ファウスト捜査官?」
「それについては情報を上に報告しても揉み消される可能性があったからです。我々はこれまで度重なる捜査妨害を受けてきました。それが大統領を含めた政権与党の仕業であったことはテープが証言しています」
俺に捜査情報を漏らしたことを証言させ、責め立てるつもりだったのだろうが、そうはいくものか。
「では、その録音テープはどのように入手したのですか?」
「盗聴です。我々はブラッドフォード・ブレアム氏がアロイス・フォン・ネテスハイムと会うと知り、彼のプライベートジェットに盗聴器を仕掛けました。もちろんこれが違法な捜査であると認識した上で、です」
「つまり違法捜査だと認めるのですね?」
「認めます。その上で必要な捜査であったと主張します。このドラッグカルテルと“国民連合”の政治中枢の結託はこうでもしなければ、暴けなかったでしょう」
質問していた政権与党の議員が唸る。
「我々は直視しなければなりません。ドラッグカルテルの金で戦争をしていたことを。ドラッグマネーを使うために裁かれるべきドラッグカルテルの人間を見逃していたことを。正義はこれまで果たされなかったことを」
議会ではフェリクスは正直に物事を伝え、そしてそれが必要だったと訴えた。
反共保守政権は怒りを持って、改革政党は敬意を持って、フェリクスへ質問を重ねた。これまでどれだけの捜査妨害を受けてきたかをフェリクスは語り続け、マスコミはそれを逐一報道した。
「それではフェリクス・ファウスト捜査官。あなたはこれからどうなることを望みますか? 我々政治家に何を求めますか?」
「正義を。正義が下されることを望みます。正しい法の裁きが、この事件に関係した人間たちに下されることを望みます。それだけです」
「それにはあなた自身も含まれていると考えていいですか?」
「ええ。自分のやったことには責任を持ちます」
裁くならば裁け。俺は法廷で洗いざらい喋ってやる。これまで大統領やブラッドフォード、戦略諜報省がやってきたことについて暴露してやる。
議会での質問は3時間ほど続き、その全てがG24Nを始めとするマスコミによって報道された。政権与党が状況はかなり不味いと認識して、大統領を切り捨てる方向へと進み、改革政党は今こそ政権奪取のときと期待した。
だが、フェリクスはどちらの政権にも期待していない。
政権与党がドラッグ政策について改め直しても期待はできない。彼らには前科がある。かといって改革政党に期待できるかと言えば、そうでもない。彼らはこの事件の反動でドラッグ規制の強化を訴えているからだ。
ドラッグ規制の強化は裏でのドラッグビジネスを活発化させ、全体的にドラッグカルテルに利益をもたらす。ダイヤモンド会社が採掘したダイヤモンドを全て市場に出さないのと同じだ。稀少価値が付いたドラッグは高く売れる。
ヤク中はどうあってもドラッグが欲しい。今、この瞬間にも何十万人ものヤク中がドラッグを探してさまよっている。
むしろ、規制を緩和するべきなのだ。ヤク中に合法的にドラッグを、管理された状況で与えれば、ドラッグカルテルの出る幕はなくなるし、オーバードーズで死ぬヤク中もいなくなる。そして、更生を行って、立派な社会の一員としてドラッグ中毒者を送り出せばいいのである。
だから、どちらにも期待はできない。
なるようにしかならないのだろう。
これが全て終わって、アロイス・フォン・ネテスハイムがムショに叩き込まれるようなことになっても、また新しいドラッグカルテルが生まれ、せっせと“連邦”から“国民連合”へとドラッグを密輸するのだ。
何も変わらない。
だが、無意味ではない。
これまで死んでいったものたちの仇は取れる。
ここに至るまで大勢が死んでいった。抗争で、裏切りで。
その無念を晴らす義務がフェリクスにはある。
彼らの犠牲の上でこの疑惑は暴露されたのだ。フェリクスがひとりで秘密を暴いたわけではない。大勢が犠牲となり、ヴォルフ・カルテルという怪物を相手と戦ってきた。そして、今、連中の庇護は剥げようとしている。
そうなれば、いよいよヴォルフ・カルテルに渾身の一撃を食らわせられる。
「それでは質疑を終了します」
3時間に及ぶ質疑が終わって、ようやくフェリクスは解放された。
フェリクスはざわざわとざわめく議会を出て、マスコミに取り囲まれる。
「フェリクス・ファウスト捜査官! 大統領は辞任するべきだと思われますか?」
「他にも疑惑はあるのでしょうか!?」
フェリクスは疲れ果てていた。マスコミの質問にある程度応じつつもタクシーに乗ってホテルに戻った。
ホテルに戻ってデリバリーのピザとビールを手にひとりでテレビを眺める。
どのチャンネルもヴォルフゲート事件とフェリクスの証言を扱っている。他のことを報じているチャンネルはないと言っていい。
『フェリクス・ファウスト捜査官は共産主義者なのではないかという興味深い情報が、とある情報筋からもたらされ──』
やれやれ。あの録音テープと写真の証拠としての価値を貶めるためには、俺を共産主義者扱いすることも厭わないというわけか。これはちゃんと反論しておかなければならないなとフェリクスは思った。
『フェリクス・ファウスト捜査官の上司であるハワード・ハードキャッスル氏は『捜査の法的問題があれば、自分が責任を取る』と発言しており、今後フェリクス・ファウスト捜査官が取った違法捜査の調査についての報告が待たれます』
これにはフェリクスも驚いた。ハワードはフェリクスを切り捨てるものだとばかり思っていた。だが、状況が変わったのだろう。フェリクスの違法捜査の件で責任を取るということは、つまりは違法捜査の結果も自分のものにするということだ。ハワードは散々捜査を妨害しておきながら、結果は受け取ろうというわけだ。
ただ、純粋に部下を思って責任を取るというほど、彼は感情的ではない。
そこで電話のベルが鳴る。
「もしもし?」
『フェリクスか? トマスだ。カルタビアーノの連中はすぐにでも挙げられる。チェーリオ・カルタビアーノもついに年貢の納め時だ。どうだ? 立ち会うか?』
「まだ挙げるのは止めておきましょう。アロイス・フォン・ネテスハイムという供給源を潰してからではないと、意味がありません。アロイス・フォン・ネテスハイムを潰し、チェーリオ・カルタビアーノを潰す」
『そっちは大丈夫なのか?』
「ええ。もちろんです。この馬鹿騒ぎが終われば、アロイス・フォン・ネテスハイムを仕留めて御覧に入れますよ」
『期待している』
アロイス・フォン・ネテスハイムは報いを受けるべきだ。
奴に報いを受けさせるためにこれまで捜査を進めてきたのだ。
報いを受けろ、クソ野郎。
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