情報漏洩の原因
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──情報漏洩の原因
何故、この“国民連合”を揺るがす事件が起きたのか?
ことはオメガ作戦基地から最後の情報を渡されて帰っていったフェリクスたちから始まる。この時点では“国民連合”を揺るがす大事件が起きる兆候など全く存在しなかった。ただ、フェリクスたちは資料を持ち帰っただけだ。
「見ろ。この資料だ」
「『親愛なるフェリクス・ファウスト捜査官へ』? これはヴァルター提督からのメッセージか?」
「ああ。間違いない。なんて書いてあるか読んでみよう」
ヴァルター提督からのメッセージはこういうことだった。
自分たちはこの捜査から手を引くつもりはない。これからもフェリクスたちの捜査に協力することを約束する。情報にせよ、部隊にせよ、必要なものは貸し出す。その代わりこの協定は秘密裏にしてほしい。そういうものだった。
それから見逃してはならないのは『第800海兵コマンドは妖精通信を傍受できる。ヴォルフ・カルテルのボス、アロイス・フォン・ネテスハイムは妖精通信で部下と連絡を取り合っているものと思われる』とのことだった。
「これは上手くいけばアロイス・フォン・ネテスハイムを丸裸にできるな……」
「ああ。これはチャンスだ。逃す手はない」
この時点でフェリクスの頭にはあるアイディアがあった。
アロイス・フォン・ネテスハイム。いや、ヴォルフ・カルテルを庇護しているだろう“国民連合”をヴォルフ・カルテルから引きはがす手段についてのアイディアが。
「提督に傍受を頼もう。奴らの下部組織からひとつずつ潰していく」
「奴を直接狙わないのか?」
「恐らくは狙っても無駄だ」
アロイスを直接狙っても、“国民連合”の庇護が彼を助ける。
まずは“国民連合”の庇護を引きはがさなければならない。
そのためにもまずは下部組織を潰していかなければならない。
フェエリクスたちは下部組織の拠点を目指す。
「ここにヴォルフ・カルテルの下部組織の拠点がある。トラックで毎日、ホワイトフレークやブルーピルを“国民連合”に輸送している連中だ。こいつらがいきなり叩かれれば、アロイスのクソ野郎もちょっとは肝を冷やすだろう」
「フェリクス。頼むからひとりで突っ込むなんていうなよ? 分かってるよな?」
「分かっている。応援が来る手はずだ」
「応援?」
エッカルトが疑問に思っていると、軍用四輪駆動車数台がやってきて、フェリクスたちのところで止まった。
「“連邦”海兵隊。ヴァルター提督の部下か」
「そうです。おふたりを助けるようにと提督から言われています」
「そいつはありがたい」
1個分隊12名の第800海兵コマンドの兵士たちが加わった。
「では、いくぞ」
フェリクスたちは拠点に踏み込み。
下部組織の面々を逮捕していき、刑務所に叩き込む。
下部組織に対する襲撃は繰り返され、フェリクスたちは妖精通信を傍受した記録を読み、次のターゲットを決める。それと同時にアロイスが“国民連合”側の人間と接触するのを待ち続けた。
「そろそろ反応が返ってきてもおかしくないころだよな?」
「ああ。そう思う。だが、まだまだやれることをやっておこう。そろそろ──」
フェリクスがSUVに乗り込もうとしたとき、彼は車から離れた。
「伏せろ! 爆弾だ!」
「畜生!」
次の瞬間、フェリクスたちのSUVが吹き飛ぶ。
「仕掛けてきやがったな。怪我はないか?」
「大丈夫だ。畜生。死ぬかと思った」
フェリクスたちは吹っ飛んだSUVを眺める。
「新車、本局は買ってくれると思うか?」
「少なくとも車が来るまでは動けないな」
フェリクスとエッカルトが肩をすくめる。
そして、それよりも先にフェリクスたちを狙った攻撃が始まった。
車爆弾が計画されたときは事前に爆弾を解体して阻止。狙撃が計画されたときは事前に狙撃地点で待ち伏せすることで阻止。ドライブバイ・シューティングが計画されたときは事前に目標の車両を追跡して、停車させることで阻止。
フェリクスたちはシュヴァルツ・カルテルによるフェリクスを狙った攻撃を阻止し続けた。それで彼らが音を上げるのを期待して。
暗殺計画もフェリクスたちに筒抜けだったのだ。
ダニエルとアロイスの会話を傍受していた。そしてダニエル自身の言葉を傍受して、計画を具体的に知り、それを基に対策を立てていた。
そして、最後の爆破計画も阻止した。
事前に待ち伏せを行い、爆弾を運び込むところでシュヴァルツ・カルテルの構成員を逮捕した。これでシュヴァルツ・カルテルの計画した暗殺計画は全て防がれたのだ。
ここでダニエルが情報漏洩を疑い始める。
『なあ、ボス。あんた、麻薬取締局に情報を流してないよな?』
『とうとうおかしくなったか? なんで俺がそんなことをする必要がある』
『だよな。となると、誰の仕業なのか……』
『情報漏洩を疑っているのか?』
『ああ。それ以外に考えられない』
『確かに、その通りではあるな』
アロイスは半信半疑だが、ダニエルの方は情報漏洩をほぼ確信している。
「この調子だ。この調子でアロイスを追い詰めていってやろう」
ダニエルが手を引けば、アロイスが直接動かなければいけなくなる。
そのはずだった。
ジークベルトの収容されていた刑務所が襲撃され、ジークベルトが脱獄したという知らせを聞いたときはそれなり以上に驚いた。アロイスは確かに直接動いたのだが、それは斜め上に動いたわけなのである。
「ジークベルトが脱獄した。恐らくはジークベルトを焚きつけて俺を殺そうとするはずだ。相手の手札はまだ残っていたというわけだ」
「ジークベルト? 奴はアロイスを恨んでいるだろう。ムショに収容された後も殺されかかったんだ」
「ムショでの生活で裏返ったんだろう。いずれにせよ、ジークベルトが仕掛けてくる」
対策をまた取らなければならないなとフェリクスが呻く。
そして、新しい暗殺作戦の情報がもたらされる。
『奴らは君をトラックで潰した上に、銃撃を加えるつもりだ』
「どうすれば?」
『備えろ。そうとしか言えない。どこで仕掛けるかの情報はない』
「そうですか。了解しました」
フェリクスが電話を切る。
「何だって?」
「備えろ、と」
「備えろ、か」
エッカルトが尋ね、フェリクスが答える。
「なあ、これは本当に大丈夫なのか?」
「小指が脳を動かすにはこれしか方法はない」
「出かけない方がいいか?」
「動かなければ、相手も動かない。危険には備える。それだけだ」
「じゃあ、行ってこい。気づかれないようにな」
「ああ。気を付ける」
フェリクスとエッカルトはそう言葉を交わすとフェリクスはSUVでホテルを出た。
それからトラックに襲撃され、銃撃戦になる。
全ては情報通り。
フェリクスは落ち着いて対処できた。備えることができた。
だから、フェリクスは殺せなかったのである。
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