暴露される陰謀
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──暴露される陰謀
アロイスはその日の朝のG24Nのメーリア語放送を見て愕然とした。
『──州選出の上院議員ブラッドフォード・ブレアム氏と世界最大のドラッグカルテルのボスであるアロイス・フォン・ネテスハイム容疑者の間にあるものは何なのでしょうか? G24Nが独占入手した情報を公開します。これは音声分析の専門家と、画像解析の専門家の両方が合成や編集されたものではないとの──』
テレビは喋り続けている。
そして、記録された音声ですと言ってテープの音声が流れ始める。
『ブラッドフォード。これは一体どういうつもりだ』
『電話でも話したが、何のことか分からない。何をそんなに怒っているんだ、ミスター・アロイス? 我々は上手くやっているだろう?』
『上手くやっていた、だな。あなたたちは俺たちを裏切った』
『そんな馬鹿な! 我々は運命共同体のようなものだ。裏切るなどあり得ない』
『では、何故妖精通信を傍受して、フェリクス・ファウストに伝えた? 知らないと言わせないぞ。妖精通信の傍受ができるのは軍か諜報機関だけだ。“連邦”の軍は陸軍から海兵隊まで俺が押さえている。では、誰が妖精通信を傍受した?』
『待ってくれ。誓って我々はそちらの妖精通信を傍受などしていない。していたとしても、どうしてフェリクス・ファウスト特別捜査官に伝える? 彼は我々の関係を暴こうとしている共通の敵なんだぞ?』
『大統領選のためだろう。大統領選の前に、麻薬取締局の捜査官が殺されて、麻薬取締局が非難の対象にされるのを避けたい。だから、フェリクスに情報を流した。いや、それどころか麻薬取締局の手柄を増やして政権の存在感を示すために、俺たちの下部組織の情報も売った。そうじゃないか?』
『完全な誤解だ、ミスター・アロイス。我々はそのようなことを考えていたりはしない。あなたから選挙資金として1000億ドゥカートも受け取っているのだ。それなのにあなたを売るような真似をして、機嫌を損ねさせるはずがないだろう?』
『本当にそうなのか? 俺が気づかないからと言って、陰謀を仕組んでいるんじゃないのか。どうせ、相手は表立って騒げないドラッグカルテルのボスだからと。いや、あなたたちにとってはもう俺たちは不要なのか?』
『断じて。断じてそんなことはない、ミスター・アロイス。我々はこれまでもこれからもパートナーだ。我々はあなた方かラ資金援助を受け、あなた方は我々から庇護を受ける。そういう仕組みだ。それが崩れることなどない」
『だといいのだが。俺は人間不信になりそうだよ、ミスター・ブラッドフォード』
アロイスの言葉がテレビに流れている。
『もし、本当にあなたたちが裏切っていないというのなら、そっちでフェリクスを殺してくれ。やれるだろう? あなたたちにはその力があるはずだ。その力を振るって、フェリクスを亡き者してくれ』
『ミスター・アロイス。我々にばかりそのような要求を突きつけられても困る。我々は共通の利益を持っているからこそ、一致団結しているのだ。その共通の利益が失われることがあっては困る』
『共通の利益? ああ。共産主義者を殺すことか』
『そうだ。反共主義を貫くことだ。正義を貫くことだ。自由を貫くことだ。もし仮に改革政党が選挙で勝利したりなどすれば、連中の無能さによって、“社会主義連合国”や“大共和国”などは大きく幅を利かせるだろう。我々は今の与党に勝利してもらい、反共主義の下で団結する。あなた方はドラッグマネーを我々に渡し、我々はあなた方のために様々な便宜を図る』
『ああ。そうだ。だから、便宜を図ってくれ。フェリクス・ファウストを殺してくれ』
『できない。できなんだ、ミスター・アロイス。分かっているだろう? 確かに麻薬取締局の捜査官が死ぬのは悲劇なのだ。麻薬取締局の局長が吊るし首にされるだけで済むならばいいが、大統領にまで塁が及ぶのは好ましくない』
『方法はいろいろとあるはずだ。ドラッグの過剰摂取で死んだように見せてもいい。そういう殺し方ができる人間があなたたちにはいるだろう?』
『検討はしてみるが、約束はできない』
『あなたたちが俺たちを潰すのに、自分たちの手ではなく、フェリクスの手を使っても俺は報復するぞ。俺が逮捕されたり、殺されたりしたとき、どんな情報が世の中にまき散らされると思う? 俺が何の準備もしていない間抜けだとでも思ったか?』
テレビはアロイスの言葉を続ける。
『俺の身の破滅は、あなたたちの身の破滅でもある。覚悟しておくことだ。俺は『クラーケン作戦』について知っている。俺は『ストーム作戦』について知っている。俺は『フリントロック』作戦について知っている。俺はあなたちの大統領が次の選挙で当選するために誰から金を受け取ることになるのか知っている』
『私を脅迫しているのか?』
『いいや。事実を述べているだけだ。だが、これを脅しだと感じるならば、後ろめたいことがある証拠だろう。ならば、お互いの身の破滅を避けるためにベストな選択肢を選ぼう。フェリクス・ファウストを、殺せ』
『……分かった。彼を殺そう。手配する』
『ありがとう、ミスター・ブラッドフォード。我々の友好が末永く続くことを祈っているよ。我々はこうでもしないと付き合ってられない関係なのだから』
テレビが続ける。
『殺害はいつ頃になる?』
『私にはなんとも言えないよ。だが、可能な限り速やかに実行するつもりだ。少なくとも来月までにはいい報告ができるだろう。その間は待っていてくれ。必ずいい知らせを届ける。だから、馬鹿な真似は考えないでくれ』
『もちろんだ。クリスマスの子供みたいにわくわくしていよう』
全ての、あのプライベートジェットの中の全ての音声が記録されていた。そして、今、数千万人が視聴するテレビに流れている。
『これはその際に撮影された映像です。右に映っている人物がブラッドフォード・ブレアム上院議員。左に写っているのがアロイス・フォン・ネテスハイム容疑者です。彼らはこのプライベートジェットの中でさきほどの陰謀の議論をしていたようです』
アナウンサーが深刻そうにそう語る。
「どういうことだ。どういうことだ!?」
誰が盗聴を行った? 誰の仕業だ?
ああ。ひとりしかいないじゃないか。
クソッタレなフェリクス・ファウスト特別捜査官だ!
『今回のこの暴露ですが、大統領がどこまで関わっていたのかが焦点がなるかと思われます。既に野党が弾劾裁判の準備をするべきだという主張をしており、与党内からもこのようなことがあってはならないとの声が上がっています』
そして、大統領官邸の映像が映し出される。
『大統領官邸よりお伝えしています。大統領はこの疑惑への関与を否定しますが、既に“ヴォルフゲート事件”の捜査は連邦捜査局によって始まっており、大統領選を前にして大きな波紋を呼ぶだろうということが確実です』
アロイスは世界がガラガラと音を立てて崩壊していくのを感じた。
「クソッタレのフェリクス・ファウスト特別捜査官め。あの豚の臓物め。お前を切り刻んで、焼いて、豚の餌にしてやるぞ……」
アロイスははっきりとそう言い、すべきことを始めた。
すなわち、逃亡だ。
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