南部での襲撃
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──南部での襲撃
「つまり、戦略諜報省のような諜報機関と連携していると取っていいんだな?」
「お答えできません。社内機密です」
「分かった。そういう態度ならばこっちにも考えがある。どういう風に国家機密に関わっているのか。捜査ではっきりさせよう。令状を取って戻ってくる。それまで待っていてもらおうか」
「お好きにどうぞ」
ブレンダンは肩をすくめてそう言った。
麻薬取締局など恐れるに値しないというわけか。だが、俺は麻薬取締局だけで捜査するとは一言も言ってないんだぞとフェリクスは思った。
フェリクスは裁判所に向かう前に、連邦捜査局に電話をかける。
『もしもし?』
「フレドリック・フェルト捜査官? フェリクス・ファウストだ。レニの手入れ以来だな。元気にしているか?」
『ああ。フェリクス。元気だ。何かあったのか?』
「調べたいことがある。イージスライン・インターナショナルという会社で、不正が行われていないか調査したい。ドラッグカルテルと関わり合いがある可能性が極めて高いんだ。協力してくれないか?」
『……確かなのか?』
「ああ。向こうの社員と戦場で鉢合わせた。それから監視カメラの映像にヴォルフ・カルテルのボスであるアロイス・フォン・ネテスハイムと一緒に映っているのが確認されている。写真だが、そっちに送ってもいい」
『分かった。できる限りの協力をしよう』
よし。これで連邦捜査局も引きずり込んだ。
後はイージスライン・インターナショナルについての捜査令状を取っておくだけだ。物証はある。令状は降りるだろう。
イージスライン・インターナショナルからヴォルフ・カルテルと戦略諜報省の関係を暴ければ、アロイスの保険のひとつを潰せると、そうフェリクスは考えていた。
そして、裁判所から令状が降り、加えて連邦捜査局のチームが合流する。
「そっちはひとりか?」
「ああ。その分、そっちに期待している」
「分かった。始めよう」
フェリクスとフレドリックの捜査チームは令状を持って、イージスライン・インターナショナルに捜査に入る。この時点でマーヴェリックたちに関する情報を破棄していれば、それだけで有罪に問える。
「マーヴェリック、マリー、ジャン、ミカエルの情報を渡してもらおう」
「残念だがここにはない。国家機密だ。その令状では明かせないよ」
ブレンダンは肩をすくめてそう言った。
「どこの政府機関に保管されている? それについて答える義務がお前にはあるぞ」
「いいや。ないね。残念だが全て国家機密だ。何ひとつとして明かすことはできない。そうしないと我々が国家機密の漏洩という本当の罪に問われてしまう」
フェリクスがはらわたが煮えくり返る思いで、ブレンダンを尋問しているとフレドリックがやってきた。
「では、ドラッグカルテルに派遣している人間と政府機関の癒着を認めるんだな?」
「そうはいっていない。ただ、国家機密なだけだ」
「分かった。明日の朝刊の見出しは決まりだ。『“国民連合”政府、ドラッグカルテルに傭兵を派遣』と」
「待て。憶測でマスコミに情報を漏らすつもりか!?」
ブレンダンが見るからに狼狽える。
「あんたがはっきり喋ってくれれば、正しい情報が市民に伝わる。それだけだ」
「だが、これは国家機密で……」
「エリーヒル・タイムスとフリーダム・シティ・ポストのどっちがいい?」
「分かった! 分かった! これが資料の一部だ!」
ブレンダンはそう言って、封筒を隠し金庫から取り出して差し出す。
「ご苦労様。捜査に協力いただき感謝する」
「待て。なんだ、この黒塗りだらけの書類は」
ブレンダンから渡された書類は黒塗りだらけで、読める部分が少なすぎた。
「それしかない。それしかないんだ。私はドラゴンの尻尾を踏むのはごめんだ」
またドラゴンの尻尾を踏む、だ。
やはり、戦略諜報省が関わっているのか? オーガスト・アントネスクはどこまで関わっているというのだ?
「もう少し、締め上げるか?」
「そっちでお願いしたい。搾り取れるだけ搾り取ってくれ。依頼主が分からない、“国民連合”にとって敵性組織である可能性がありながら、国務省の許可なく、海外に傭兵を派遣したとすれば、それだけで罪に問える」
「ああ。搾り上げてやろう」
フレデリックが罪状と権利を読み上げて、ブレンダンに手錠を掛ける。
ブレンダンの身柄はそのまま南部の州にある連邦捜査局の支局にまで輸送される。
フェリクスも手入れが終わったイージスライン・インターナショナルを去る。
連邦捜査局から貸し出されたSUVで連邦捜査局の支局を目指す。
車を運転中にフェリクスは考えていた。戦略諜報省は何故、ドラッグカルテルと組むような道を選んだのだろうかと。ドラッグマネーで武器が購入され、反共民兵組織に渡されているらしいことは分かっている。そのためだけに戦略諜報省はドラッグカルテルと手を組んだのか?
確かに全くあり得ない話じゃない。戦略諜報省の秘密作戦は謎が多い。そして、事実が公開されることはほとんどない。
ドラゴンの尻尾を踏む。もし、踏んだとしたら何が起きる?
そのとき、突如として連邦捜査局の先頭車両が爆発した。
「なっ……」
フェリクスが狼狽えるのも束の間、銃声が響く。重々しき魔導式重機関銃の射撃だ。待ち伏せされていた。四方八方から銃弾が飛んでくる。
フェリクスは魔導式拳銃を構えて、車を出る。
「フレデリック! 無事か!?」
「大丈夫だ! 下がってろ、フェリクス! こいつら、相当訓練されている!」
魔導式自動小銃を手に、襲撃者たちが射撃を行いながら、着実に近づいてくる。
フェリクスも射撃するがボディアーマーを装備しているらしく相手は倒れない。そうしている間にもフェリクスの方に銃弾が飛んできて、フェリクスは自動車の陰に隠れる。
銃声が響き続け、そしてフレデリックの叫ぶ声がする。
「畜生! 護送対象がやられた! 捜査官もやられている!」
フレデリックが無線に向けて叫んでいる。
次第に銃声は小さくなっていき、やがてピックアップトラックと思しき車のエンジン音がすると、銃声は完全に消えた。
「フレデリック!」
「畜生。やられた」
フレデリックは血の海に沈むブレンダンの姿を見ていた。
「クソ。あの連中、何者だ?」
「分からん。だが、落とし前は必ずつけさせてやる。あいつらは捜査官を殺しやがった。俺たちの仲間を殺しやがったんだ」
血の海の中には捜査官も沈んでいた。
「ああ。仲間を殺した野郎には思い知らせてやるべきだ」
「しかし、俺には偶然とは思えない。ドラッグカルテル、民間軍事企業、そして“国民連合”政府の3つが揃った途端にこの男は消された。何かデカい陰謀が動いているのか?」
「それを確かめて、証拠を掴むはずだったんだ」
「そうだな。畜生め」
捜査官2名が死亡、4名が負傷。容疑者ブレンダン・バーロウは死亡。その後、ショーン・スペンサーも拳銃自殺しているところを発見される。
こうして、全てが闇の中に葬られた。
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