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追い込まれる『オセロメ―』

……………………


 ──追い込まれる『オセロメ―』



 ヴォルフ・カルテルとシュヴァルツ・カルテルが講和した。


 ジークベルトの生き残りのための戦いは終わり、事態はシュヴァルツ・カルテルの反乱に乗じて反乱を起こした『オセロメー』の鎮圧へとシフトしていた。


 これまで『オセロメー』は何度も自分たちがヴォルフ・カルテルの傘下に戻るということを訴え、講和することを求めてきた。だが、返ってきたのは、講和に行った幹部の生首だけだった。


 もはや、ヴォルフ・カルテルに『オセロメー』を許す気がないのは明白だった。


 ならば、戦い続けるのか?


 ヴォルフ・カルテルはもはや正真正銘の世界最大のドラッグカルテルだ。それと戦争を継続する? 未だにまともなドラッグの密輸手段も生み出せていないような『オセロメー』が? 勝ち目があるのか?


 勝ち目などないに決まっている。これで勝てれば奇跡を通り越して、詐欺だ。


 この勝ち目のない状態から、どうやって勝利するかではなく、どうやって生き延びるかが、『オセロメー』の幹部たちの主な問題だった。むしろ、問題になるのはこれ以外に何があるのかという具合である。


 これまでずっと『オセロメー』は誰かの下で働いてきていた。ずっとだ。ようやく主導権を握ったのは、この抗争でワイス・カルテルが崩壊してからだった。


 主導権を握ったというよりも敗戦処理を押し付けられたというべきか。


 いずれにせよこの主導権はありがたいものではない。むしろ、害悪でしかない。こんなものをもらって喜ぶ人間はいない。これを持っている以上、ヴォルフ・カルテルと何らかの形で決着を付けなければならないのだ。


 恐らくはヴォルフ・カルテルは『オセロメー』を壊滅させるつもりだろう。自分たちの価値を証明できない限りそうなる。


 仮に自分たちの有能さを証明できたとしても、ヴォルフ・カルテルを裏切ったことに対する落とし前をつけさせられる。生き残りたい幹部たちは処刑され、後任者が任じられるだろう。


 既にボスたちを売って生き残ろうとする動きは有った。


 自分たちは反乱には関与していない。裏切ったボスたちの身柄を引き渡すので、後のことは自分たちに任せてほしい。そういう動きがあったのだ。


 幹部たちは部下を信頼できなくなってやみくもに粛清を行い、部下たちも粛清に怯えて、幹部たちを信頼できなくなる。


 負の相互作用が的確に作用し、『オセロメー』は不信に包まれていた。


 誰もが疑っている。誰かが自分たちを売ろうとしているのではないかと。


 そんな中にニコはいた。


 ニコも幹部を売るつもりだった。ヴォルフ・カルテルではなく、麻薬取締局に。


「ボスに会えないの?」


「会えねえよ、ボケ。今の状況、分かってんのか?」


「分からない」


「お前は馬鹿だ」


 そう言って『オセロメー』の男はニコのことを殴った。


 状況が悪い方向に向かいつつあることは分かった。ここ最近、『オセロメー』の男たちは誰もを疑うかのようにして過ごしている。ニコですら疑われているのだ。


 これはニコにとっていい方向なのか、悪い方向なのか分からない。


 この猜疑心によって『オセロメー』が滅びるなら何よりだ。だが、報いを受けるべき人間が報いを受けているかが気になる。


 報いを受けるべき人間。『オセロメー』のボス。そして、教会を襲うことを決めた『オセロメー』の幹部。連中は報いを受けるべきだ。


「おい! ついに状況が動いたぞ!」


「どうなった!?」


 男が入ってきて叫ぶのに『オセロメー』の男たちが動く。


「ボスは処刑されることになった。それからナンバーツーも。だが、他は無罪放免だそうだ。再び、ヴォルフ・カルテルの下につくならばという条件付きだが」


「よし! 俺は生き残るためならヴォルフ・カルテルのボスの靴だって舐めてやるよ」


「とりあえず、これで生き延びられそうだ」


 そう言って『オセロメー』の男たちは胸を撫でおろす。


「誰が新しいボスになるの?」


 ニコがそう尋ねる。そいつを麻薬取締局に売らなければならないのだ。


「そうだ。次のボスは誰だ?」


「ヴォルフ・カルテルは指名していない」


「畜生。揉めるぞ、これは」


 案の定、ボスの座を巡る争いが勃発した。


 戦争に次ぐ戦争。それも今回はボスが不在だ。


 野良犬どもの食らい合いが続く。それも壮絶に。


「ニコ、行ってこい!」


 ニコは火炎瓶を持って走る。


 もう慣れたものだった。キュステ・カルテルと揉めていたときから、ニコはこの役割を果たしているのだ。


 心のどこかではニコは死にたかったのかもしれない。


 だが、ニコは自分が復讐を果たしていないことを思い出す。


 今、死ぬわけにはいかない。復讐を果たしてから死ななければならない。そうでなければ、マインラート司教の死はどうなる。


 ニコは自分にそう言い聞かせて、火炎瓶を投げて大急ぎで逃げる。


 これの繰り返し、繰り返し、繰り返し。


 自分たちの派閥に反対する勢力との抗争に『オセロメー』は突入した。


 この時既にアロイスは計画を立て終えていた。


 このまま『オセロメー』のナンバーワンとナンバーツーだけを処刑して、『オセロメー』を無罪放免にするには連中は力をつけすぎている。一度飼い主の手を噛んだ犬が、もう一度噛まないという保証はない。


 だから、彼は『オセロメー』の中に火種を作った。


 ボスの座を巡る争いという火種。


 それは燃え上がり、野良犬どもの食らい合いを生み出している。


 これで『オセロメー』は弱体化するだろう。ヴォルフ・カルテルはもう『オセロメー』のような下部組織を必要としていない。理性ある話し合いの出来ない獣に、もう用はないのである。


 ヴォルフ・カルテルは内戦に介入せず、互いが互いを潰し合うさまを眺めた。


 オセロメーが6個以上に別れた派閥は殺し合い、殺し合い、殺し合う。


 ただひたすらな獣の食らい合いが続いたあとに残ったのは、ちっぽけな組織だった。それでも王になりたがる人間がいる。


 王の座に腰を据えたのはニコも知っている『オセロメー』の幹部だった。ナンバーツーは教会を燃やす決断を下した『オセロメー』の幹部だ。


 ニコはついに復讐のときが来たことを悟った。


 オセロメーは大勢の人から多くのものを奪ってきた。


 その報いは受けるべきだ。


 これだけのことをしてきて、何の罰も受けないなんて間違っている。


「畜生。全盛期から比べるとかなり小さくなっちまった」


「仕方ない。組織が残っただけでも今は感謝するべきだ。『オセロメー』は危うく、ただのムショのギャングに成り果てるところだったんだからな」


 全員に報いを受けさせてやる。マインラート司教はそんなことを望まないかもしれないけれど、ニコは望んでいる。


 今のニコは小さな少年ではない。


 確かな意志を持った復讐者だ。


 ニコは電話を掛ける。麻薬取締局に。


……………………

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新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] オセロメーも終わりかなあ
[一言] ここからニコのサクセスストーリーが始まる(嘘です)
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