傭兵問題
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──傭兵問題
アロイスにとってシュヴァルツ・カルテルとの抗争は終わった話になるはずだった。
そうならなければならないのだ。
ジークベルトはムショの病棟で火傷と骨折、その他もろもろの負傷で手当てを受けていて、意識不明。いつ目を覚ますか分からない。
そして、ジークベルトの保険も消えた。マーヴェリックたちが弁護士ごと焼き払ってきた。これですべて解決しました、となるはずだったのだ。
「傭兵がシュヴァルツ・カルテルのボスの座に就いてる?」
アロイスの耳にとてつもなく不愉快なニュースが届いた。
「そうだ。例のダニエルって傭兵がシュヴァルツ・カルテルのボスになったとシュヴァルツ・カルテルの捕虜が言っている。連中はあたしたちと講和したがっているらしい。戦争を止めて仲良くドラッグビジネスをしましょうだとさ」
「クソ傭兵。だが、向こうに戦う意志がないのはいい点なのかもしれない。少なくともこれ以上、“連邦”政府に借りを作ることはなくなる。連中を買収しておくのにも、相当な金がかかっていったんだ」
アロイスはあっさりとそう告げた。
「じゃあ、講和を受けるのか?」
「受ける。シュヴァルツ・カルテルが滅んだら、残るのは『オセロメー』と俺たちだけなんだぞ。少しでもドラッグカルテルが生き残っている方がいい。俺たちが全てのドラッグ犯罪の十字架を背負う必要はないんだ」
マーヴェリックが不満そうなのに、アロイスがそう言う。
「はいはい。そうだな。で、講和の方法は?」
「ダニエルにじかに会って話したい。まだ奴の顔も拝んでないんだ。そんな相手と仲良くなんてできるはずがない」
「どこで会談をセッティングする?」
「今の戦線の中間地帯。警察と軍は一時的に引き上げさせて、俺たちだけで守りを固める。向こうにも兵隊は連れてきていいと言っておく」
「了解。連中の捕虜にそう言って放しておく」
マーヴェリックはそう言ってシュヴァルツ・カルテルの捕虜にメッセージを持たせて、中間地帯で解放した。向こうからの連絡がきたのはそれから半日後だった。
『アロイス・フォン・ネテスハイムだな? ダニエル・ディナールだ。俺もあんたと直接会って話しておきたいと思っていた。これまでいろいろと揉めたからな。お互いに損害を出した。それを顔も会わせずになかったことにはできない』
「全くだ。会談の場所と条件については納得してもらえたか?」
『ああ。お互い、戦争が再勃発しないように用心しておこうじゃないか』
お前のせいでクソみたいに長引いた戦争がなとアロイスは思う。
「会える日を楽しみにしている」
『こっちもだ。では』
ダニエルはそう言って電話を切った。
「追跡は?」
「妖精通信からの電話だった。逆探知は無理」
「向こうも用心はするよな、当然のことながら」
現状、妖精通信からかけられた電話で位置を特定する技術はない。
「それで、応じるわけか?」
「他に選択肢はないだろう? 向こうも会合の場が死刑執行の場になることには警戒しているはずだ。迂闊な選択はできない。もしこれが上手くいけば、ヴォルフ・カルテルによる平和が実現できるんだしな」
そう、ヴォルフ・カルテルによる平和だ。
それが呆気なく崩壊すると証明されても、未だに神話染みて語られるのが、ヴォルフ・カルテルによる平和だ。だが、シュヴァルツ・カルテルという勢力が大幅に減退し、東部に残るは『オセロメー』のみとなった今、ヴォルフ・カルテルによる平和は実現可能な代物になった。
シュヴァルツ・カルテルはヴォルフ・カルテルによる平和を受け入れるだろう。彼らもこれ以上、警察や軍に追い回されるのはごめんのはずだ。
そして、『オセロメー』については、ゆっくりと解体していくしかない。
連中は所詮はギャングだ。麻薬取締局が認定しようが、しまいが、ドラッグカルテルと呼ぶには貧相だ。扱っているドラッグの量も、あまりにも少ない。所詮はギャングの小遣い稼ぎ程度のものである。
そろそろあの狂犬も殺処分されるべきだ。あれは飼い主の手を噛みすぎている。
「何はともあれ、全て終わらせたいものだ。このクソッタレな抗争も終了。また新しい日々がやってくる。ドラッグビジネスに専念する毎日が。これで分かったが、俺はまだ引退できそうにない」
「当り前だ。この年齢で引退なんてあるものか」
「だがね。俺はもう疲れたんだよ」
こうして傭兵とやり合ったり、裏切られたり、裏切ったり。
ドラッグカルテルのボスなんて地位はクソくらえだ。いくら苦労したところでそれが褒め讃えられることはない。勲章の代わりに送られるのは、手錠だけである。そんなクソッタレな仕事の求人はいつもいっぱい。みんなそろってクソになりたがっている。アロイスはそう思っている。
アロイスは自分の身の安全を保障してくれる奴にならば、喜んで自分の地位を譲るだろうが、大抵の人間は前のボスが邪魔になるものだし、後任が必ず優秀というわけでもない。結局、自分の身は自分で守るしかないのだ。
傭兵どもがどこまで信頼できるかを確かめて、傭兵どもと交渉する。シュヴァルツ・カルテルの縄張りは警察と軍の攻撃を受けて半分ほどになっている。それでも国境線沿いの幹線道路を確保しているので、“国民連合”にドラッグを売れる。それが資金源となって続けようと思えば、大勢を道ずれにして戦争を続けられる。
だからこそ、講和しなければならない。連中が死ぬ気になって最後の最後まで抵抗するようならば最悪だ。抗争は長引き、ヴォルフ・カルテルによる平和の意味が薄れる。“連邦”政府にさらに借りを作ることになる。
「まずは講和だ。戦争を終わらせよう。それからのことは、それから考える。俺はこのクソッタレなドラッグビジネスという奴が嫌いだ。誰もが信頼を大事にしながら誰もが簡単に裏切る。クソッタレだ」
アロイスは心底うんざりした様子でそう語った。
「で、講和の条件は?」
「連中にはまたブルーピルを扱わせてやるし、これまでの反乱のことは不問に付す。その代わり即時停戦とヴォルフ・カルテルへの忠誠を誓ってもらう。こちらからの監視役の受け入れにも同意してもらう」
「完全に下部組織化するわけだ」
「そうだ。もう反乱なんてことはごめんだからな」
シュヴァルツ・カルテルを独立したカルテルとして認めない。それがアロイスの考える講和だった。ヴォルフ・カルテルの下部組織としてシュヴァルツ・カルテル。それならば認めるし、これまで通りの待遇にする。戦争の責任も問わない。
「『オセロメー』との戦争も残ってる。シュヴァルツ・カルテルといつまでも対峙しているわけにはいかない。全ての戦争のケリをつけて、それで無事解放と行きたい。まあ、どうせまた誰かが裏切るんだろうが」
アロイスは昔を懐かしんだ。
1度目の人生の知識が使えた時期のこと。あの時は全てが予定通りだった。今では全てが変わってしまい、1度目の人生の経験なんてクソほどの役にも立たない。昔に戻りたいものだとアロイスは思った。
傭兵との講和が行われたのは3日後だった。
ダニエルは条件を全て飲み、シュヴァルツ・カルテルはヴォルフ・カルテルの下部組織として成立することになった。
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