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傭兵対傭兵

……………………


 ──傭兵対傭兵



 アロイスはシュヴァルツ・カルテルとの抗争の最中にあった。


 問題は山積みだったが、不味いことは“国民連合”政府が西南大陸のドラッグ取引を取り上げたことだ。


 共産ゲリラとの取引を非難している間は結構。だが、軍事政権も同じようにドラッグ取引を行って、共産主義者を弾圧するための資金を稼いでいるということが知られるのは不味い。間違っても麻薬取締局の目がそちらに向かわないようにしなければならない。


 ブラッドフォードには共産主義者だけを摘発してくれと頼んでいる。他のことについては見逃してくれと。そこでブラッドフォードは軍事政権までドラッグ取引をしていることを知ったのだ。


『本気で彼らの要望に応じたのか、ミスター・アロイス? 軍事政権がドラッグ取引をしたいというのに、あなたは応じたのか?』


「ブラッドフォード。反共主義者は味方だろう? それにヤク中はバリスタでもソムリエでもない。ドラッグをやっても、どこで作られたドラッグかなんてことは当てられない。問題にはならない」


『そうであることを祈るよ、ミスター・アロイス。軍事政権は今でも国際的な非難を受けて、我々は擁護するのに精一杯なんだ。これ以上問題が増えて、擁護しきれなくなって、また共産主義者が政権を握るようなことがあっては困る』


 ああ。まったくだよ、ブラッドフォード。俺たちだって生き残るのに必死なんだ。それが軍事政権を相手にした取引だろうとやっておかないと今は戦争をしていて、少しでも金が必要なんだ。


「マーヴェリック。敵の傭兵どもについては?」


 アロイスは電話を切るとそう尋ねた。


「連中の拠点を見つけた。襲撃する準備を進めている。だが、必ずしも拠点で傭兵を叩けるかどうかは分からない」


「頼むよ、マーヴェリック。君たちだけが頼りだ。上手くやってくれ。シュヴァルツ・カルテルがクソみたいに粘っているのは例の傭兵どものせいなんだ」


「あたしだって分かっている。できることはやるさ」


 あのクソッタレなシュヴァルツ・カルテルは本来ならばもっと早く、ジークベルトの首が吊るせるはずだった。それなのに、ジークベルトは逃げ回り、傭兵たちが追跡を困難にしている。終わるはずの抗争は終わらない。


 だが、いつまでも戦争をしているような余裕はアロイスたちにはない。この抗争のせいで保険のひとつであるヴォルフ・カルテルによる平和は崩壊した。


 これを機に麻薬取締局が乗り込んでくる可能性もある。それはダメだ。


「じゃあ、あたしたちは傭兵どもを襲撃する準備を進める。傭兵どもが殺せなくとも、武器弾薬庫のひとつでも潰せれば万々歳だと思ってくれ」


「そうするよ」


 もちろん、それだけで満足できるはずがない。


 武器弾薬庫を破壊されても、シュヴァルツ・カルテルはすぐに次の武器を仕入れるだろう。そして、その武器は傭兵たちに渡される。傭兵たちが戦闘可能である限り、この抗争に終わりは見えない。


 クソッタレだなとアロイスは思う。傭兵どもは幽霊のように行動している。幽霊のように静かに、幽霊のように衝撃を持って行動している。


 この抗争が終わるまで連中にどれほどの損害がもたらされるかと思うと、アロイスの脳は考えることを拒否しようとする。


 だが、考えなければならない。


 未だにアロイスはヴォルフ・カルテルのボスなのだ。譲位する作戦は失敗した。シュヴァルツ・カルテルが抗争を始めたことでおじゃんになった。


 だから、考えなければならない。この抗争でヴォルフ・カルテルの被る損害と、それをリカバリーする方法について。


 ドラッグカルテルのボスなんて碌な仕事じゃない。クソッタレだ。アロイスはつくづくそう思うのであった。


 アロイスがそんな考えを抱いている間にも敵の傭兵集団を叩く準備は進んでいった。


 マーヴェリックは過去最高の装備を準備する。


 航空戦力はガンシップを4機、COIN機を2機。参加する『ツェット』の隊員は選りすぐりの中の選りすぐり。装甲車から対戦車ミサイルまで持ち出し、魔導式対物狙撃銃まで準備する。完璧な布陣で臨んだ。


「作戦はヘリボーンはなしだ。敵は対空ミサイルを持っていると思われる。よって地上部隊が先行して突入する。地上部隊は西側の山林部から徒歩で侵入する部隊と東側の道路から装甲車で突入する部隊の二手に分かれる」


 マーヴェリックがブリーフィングを行う。


「突入は同時。装甲車部隊は先に敵に捕捉されることが確実なので、ある意味では陽動になる。その隙に西側の山林部から突入する部隊が山林部からの狙撃と魔導式重機関銃及び対戦車ミサイルの援護で敵基地内に突入。その後、対空火器を制圧したら、航空支援が可能なのでありったけの弾薬をぶちかます」


 マーヴェリックは作戦をそう説明した。


「傭兵たちがいるかどうかの保証はない。だが、確実に武器弾薬は貯えられているはず。それを破壊することを副次目標として作戦を展開する。以上だ。何か質問は? ないな。では、戦闘準備に入れ!」


「了解!」


 それぞれが武器を握り、戦闘準備に入る。


 装甲車に向かう部隊。トラックに向かう部隊。マーヴェリックたちはトラックに乗り込んだ。彼女たちは西側の山林から攻撃を仕掛ける部隊だ。


 ヘリとCOIN機が滑走路で待機する中、トラック装甲車が出撃していく。


 トラックは基地の反対の斜面で停車し、そこから徒歩でマーヴェリックたちは山林を登り、基地を視界に収められる地点まで前進していく。


 敵の地雷などに用心しながら慎重にマーヴェリックたちは移動する。警備を考えるならば、山林に地雷が埋められていてもおかしくない。


 だが、敵は山林に地雷を埋めておらず、マーヴェリックたちは基地に面する側の斜面に陣取った。


「ツェット・ゼロ・ワンよりツェット・ツー・ワン。状況を知らせよ」


『まもなく敵基地。抵抗はなし』


「用心しろ。敵は間違いなく歓迎の準備をしているぞ」


『了解』


 装甲車部隊は順調に道路を進み、敵基地間近にやってきた。


 そこで突如として噴煙が立ち上り、対戦車ロケット弾が装甲車に飛んでくる。幸いにして装甲車の鉄籠のおかげで対戦車ロケット弾は不発に終わったが、すぐに次の対戦車ロケット弾が飛来する。


 そこで『ツェット』の兵士たちは装甲車から飛び降り、地面に伏せて戦闘準備に入る。装甲車は機関銃や機関砲を乱射しながらゆっくりと後退していった。


 そして、戦闘が始まった。


 基地正門を巡ってシュヴァルツ・カルテルの兵士と『ツェット』の兵士が銃撃戦を繰り広げる。シュヴァルツ・カルテルの兵士は訓練されており、容赦なく撃ち返してくる。戦闘は激化し、双方に負傷者が発生する。


 そして、そのタイミングでマーヴェリックたちが攻撃を始めた。


 斜面に陣取ったマーヴェリックたちが対戦車ミサイルや魔導式対物狙撃銃で正門に陣取るシュヴァルツ・カルテルの兵士を狙い撃ちにする。


「残りは斜面を下って基地に突入! 迫撃砲も使え!」


 マーヴェリックは素早く指示を出し、基地に突入していく。


……………………

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