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『オセロメー』の兵隊

……………………


 ──『オセロメー』の兵隊



 ヴォルフ・カルテルとシュヴァルツ・カルテルの衝突は『オセロメー』にも波及した。『オセロメー』は現在事実上のヴォルフ・カルテルの下部組織であるため、ヴォルフ・カルテル側に立って抗争に参加した。


 もともと『ジョーカー』の下部組織として発足した『オセロメー』は今では『ジョーカー』並みの大きさになっていた。独自のドラッグ収入と共産ゲリラ狩りが進んだことによる豹人族の難民化によって、『オセロメー』は肥大したのだ。


 刑務所にも『オセロメー』がギャングを作って支配しており、それに加えてヴォルフ・カルテルからの武器供与で一時期の『ジョーカー』並みの戦力を有する状態になっていた。そのおかげで豹人族と見れば、誰もがギャングだと思うようになっているが。


 ニコたちもそういう状況だった。


 ニコはあれから教会に戻っていない。無事に配達を終えて、『オセロメー』の男のところに戻ってきていた。『オセロメー』の男は確かに1万ドゥカートをくれようとした。だが、手術代を差し引くといい、ニコに渡されたのは3000ドゥカートぽっちだった。


「ニコ。お前、これからも配達を続けるのと兵隊として戦うのどっちがいい?」


「どっちも嫌だよ」


「うるせえ! どっちか選ばせてやるだけありがたいと思え!」


 男がニコの頬を殴る。


「さあ、どっちがいい、ニコ? 運び屋か兵隊かだ。すぐに選べ」


「兵隊……」


「よし。いいぞ。勇敢なニコが戻ってきた。この度はキュステ・カルテルの残党やレーヴェ・カルテルの残党、そしてシュヴァルツ・カルテルが相手だ。俺たちは東部でキュステ・カルテルの残党をワイス・カルテルと一緒に叩けばいい」


「『オセロメー』のボスって誰なの?」


「なんだ。ボスのことが知りたいのか?」


「凄いお金持ちなんでしょう?」


「そうだぞ。ボスは大金持ちだ」


 そうだ。麻薬取締局だ。


 おっかない人たちだったけど、あの人たちに『オセロメー』を逮捕してもらえばいいんだ。そうすればこの状況からも逃げられる。


「一度会ってみたい」


「お前が立派に戦ったら会わせてやるよ。立派に戦ったらな。さあ、戦争に行くぞ、ニコ。キュステ・カルテルのクソ野郎どもに鉛玉を叩き込んでやって、この戦争に勝利するんだ。そうすれば、ヴォルフ・カルテルからもっといい扱いが受けられる」


「分かった」


「そうだ。物分かりのいい奴は良い奴だ。キュステ・カルテルの連中をぶち殺すぞ!」


 ニコは魔導式自動小銃を渡される。


 そして、ピックアップトラックに乗り込み、一気に街の中心地に向かう。


 街の中心地では既に銃撃戦が起きていた。キュステ・カルテルの残党と『オセロメー』が撃ち合っている。周りには市民が逃げ惑っているが、両陣営ともにお構いなしだ。魔導式重機関銃が重々しい銃声と放って建物の壁を削り、それにキュステ・カルテルの残党が対戦車ロケットを叩き込む。


「援軍だぞ!」


「キュステ・カルテルの残党どもが、あの酒場に陣取ってる! 叩くぞ!」


「おう!」


 ニコたちはすぐに戦場に放り込まれた。


 敵は酒場を中心に自動車などをバリケードにして銃撃戦を繰り広げている。対する『オセロメー』は酒場を半包囲し、テクニカルが走りながら銃撃し、同じように車や家から持ち出してきた家具をバリケードにして銃撃戦を繰り広げている。


 ニコは車の影から身を出して、キュステ・カルテルに向けて腰だめで銃弾をばら撒く。当然ながらほとんどの弾丸は命中することなく、キュステ・カルテルの残党を牽制する程度で終わった。


「おい、ニコ。こっちだ」


 銃撃戦の中で、『オセロメー』の男がニコを呼ぶ。


「これを連中の陣地に投げ込んで来い。敵が燃えあがるぞ」


「これを?」


 ニコが見る『オセロメー』の男が示すものは火炎瓶だった。


「そうだ。こいつでやっちまえ。纏めてやっつけるんだ。ほら、火をつけるぞ」


「ま、待って!」


「ほらいけ! 走って投げてこい!」


 ニコは遮蔽物から外に追い出される。


 こうなっては前に進んで火炎瓶を投げてくるしかない。


 ニコはひたすらに走り、銃弾が自分を掠めていくのを感じながら、火炎瓶を無我夢中で投げた。


 炎が広がる。


 キュステ・カルテルの兵士たちが悲鳴を上げ、『オセロメー』の兵士たちが歓声を上げる。そして、再び銃撃戦が始まり、ニコは一生懸命走って、また遮蔽物に戻る。


「ニコ。もう一度やってこい。連中に大打撃を与えたぞ」


「また行くの?」


「文句があるのか? ボスに会いたいんじゃなかったのか?」


「わ、分かったよ」


 ニコはまた火炎瓶を投げに銃弾の嵐の中を走らされる。


 辛うじて銃弾は当たらず、火炎瓶は投げられた。


 だが、戻る途中で腕を撃たれた。血が出てくる。


「う、撃たれたよ!」


「知るか。ほら、もう1回だ。連中を丸焼きにしてこい」


 ニコはもう必死だった。


 走る。投げる。走る。投げる。


「よっしゃあ! 勝ったぞ!」


「生き残りを殺せ!」


 キュステ・カルテル側からの銃撃がなくなると『オセロメー』の兵士たちが歓声を上げる。そして、負傷して生き残ったキュステ・カルテルの生き残りをひとりずつ撃ち殺していく。


 死体の首は斬り落とされ、車の上に並べられた。


「俺たちは最高にイケてるぜ! なあ、ニコ?」


「腕が痛いよ」


「ほら、ホワイトグラスをやるからこれでも吸ってろ。そのうちよくなる」


 ニコは言わるがままにホワイトグラスを吸ったが、銃弾が抜けていった後の腕は痛む。


 ニコは我慢した。ボスに会って、その名前と顔を覚えれば、麻薬取締局に連絡して、『オセロメー』の連中を全員逮捕してもらうのだと。


 ニコは耐え続け、次の戦場に向かった。


 次の戦場でも火炎瓶投げをやらされる。敵に銃火に突撃していって、火炎瓶を投げる。ひたすら火炎瓶を投げ続けた。


「ニコ! 最高の働きだぞ! この調子でキュステ・カルテルの連中を追い出してやろうぜ!」


「うん……」


 ニコの腕は今も痛む。


 どうしてこんなことになったんだろうと思う。いきなり村が焼かれて、ジャングルを追い出されて、街でゴミを漁って暮らし……。そして、こうなった。マインラート司教の教会に入った時は助かったように思えたのに、『オセロメー』はニコを忘れてなどいなかった。


 どこまで逃げても『オセロメー』は追いかけてくる。


 やはり麻薬取締局に『オセロメー』を取り締まってもらうしかないのだ。


 それしか自分たちが助かる道はないのだ。


 ニコの腕は今も痛む。ずきずきと痛む。最近では異様な臭いもする。


 でも、それよりニコは心が痛かった。


 きっとこんなことをしていると知ったらマインラート司教は自分のことを軽蔑するに違いないと思うと心が痛かった。もう一度妹に会いたいとも思った。


 ニコは腕も心も痛かった。


……………………

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新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] 麻薬取締局に知らせても握り潰される可能性が高いことをニコは知らない 哀れ
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