報復計画
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──報復計画
ライナーたちは約束を反故にしたフェリクスへの報復を考える。
拉致して拷問して、そして殺すのが一番望ましい、
だが、そうはできない。フェリクスには今、“国民連合”政府の注目が集まっており、警護も付いている。それを無視して攻撃を仕掛けるというのはかなり無理がある。そして、組織が壊滅的なレーヴェ・カルテルは大規模な軍事作戦を行えない。
「だが、方法はあるはずだ」
ライナーが押し切る。
「しかし、ボス。相手には麻薬取締局の特殊作戦部隊が警護についているんですよ。どうやって拉致しようっていうんですか?」
「畜生。しかし、奴は俺たちを裏切り、ヴォルフ・カルテルに味方した。それを何もせず許してやるのか? それで気は収まるのか?」
「そんなことはないですが……」
ライナーが無茶苦茶を言っているのはレーヴェ・カルテルの幹部たちにも分かっていた。だが、彼らとてフェリクスに裏切られて、今や追い回される身だ。自分たちはヴォルフ・カルテルの戦力を削るために叩きつけられた捨て駒だということを認識している。
フェリクスにその気がなかったとしても結果としてはそうなのだ。許すことはできない。報いを受けさせてやりたい。
だが、今のフェリクスは麻薬取締局の特殊作戦部隊と行動を共にしており、今もレーヴェ・カルテルの幹部を狙っている。それに対して攻撃を仕掛けるというのは、機関銃陣地にサーベルで突撃するように無謀だ。
それでもボスであるライナーはやるつもりだ。
「レーヴェ・カルテルの意地を見せてやるんだ。俺たちがそう簡単には屈しないということを示してやるんだ。何か案はないのか?」
フェリクスをただ殺すだけならまだ方法はあるかもしれない。狙撃なりなんなりで敵を殺すという方法は取れる。だが、拉致して拷問するとなると、相当難しい。いや、相当難しいなどという単語で片付けていい問題ではない。
「ボス。ひとつアイディアがあります。成功するかもしれないし、失敗するかもしれません。ですが、現状俺たちが取れる案としては、これぐらいしかないと思われます」
「どういうアイディアだ? 言ってみろ」
「分かりました」
幹部のひとりが作戦を説明する。
「なるほど。確かにリスクのある作戦だ。だが、いい作戦だ。こいつで行くぞ。準備を進めろ。奴が任務を終えて“連邦”を出る前に捕まえるんだ。絶対に逃がしてなるものか。奴はこの手で捕まえなければならない。そして、この手で殺してやる」
ライナーの指示の下、作戦が開始された。
そのころ、フェリクスは滞在先のホテルに戻ってきていた。
「レーヴェ・カルテルはもう終わりだ。ヴォルフ・カルテルが完全な主導権を握るだろう。そして、それに対して俺たちのできることはない」
「クソッタレだな」
「ああ。クソッタレな現実だ」
レーヴェ・カルテルの幹部たちは次々に拘束され、組織としての形を維持できなくなりつつある。普通ならば後任が速やかに決定するものなのだが、麻薬取締局がどこまで情報を持っているか分からない中、迂闊に幹部の地位に就けば、就任当日に麻薬取締局の特殊作戦部隊に強襲される可能性すらあった。
ドラッグビジネスは儲かるビジネスだ。だが、常に大きなリスクがある。やりたがる参加希望者の列は長くとも、その中にはリスクの何たるかを理解していないものたちもいた。そういう人間が幹部になり、そして拘束される。
そのように幹部がころころと変わってはドラッグカルテルとしても成り立たない。結局代わりはいても、衰退の道を辿り、分裂し、また内戦を起こしつつ、中小のドラッグカルテルがドラッグビジネスを続けるのだ。
キュステ・カルテルが分裂した時点でそのことは示されていた。ドラッグビジネスは需要がある限りなくならない。ドラッグカルテルはドラッグビジネスがある限りなくならない。需要と供給の法則は常に生き続ける。
「しかし、ヴォルフ・カルテルが最大勢力になるわけだが、ヴォルフ・カルテルへの捜査は相変わらず行えないのか?」
「行おうにも奴らは尻尾を出さなかった。捜査のきっかけがない。これでは捜査をしようにも、どこから手を付けていいのか分からない。そうだろう?」
「それは確かにそうだが……。畜生。本当に危険な奴が野放しかよ」
「どうしようもない」
この抗争で徹底的にヴォルフ・カルテルは尻尾を出さなかった。もしかすると尻尾を出していたのかもしれないが、戦略諜報省が連中とつるんでいる以上、揉み消すのは容易だっただろう。
そもそもレーヴェ・カルテルの幹部の情報を最初に持ってきたのは誰だ?
戦略諜報省か? それともヴォルフ・カルテルか?
このレーヴェ・カルテルの壊滅で得をするのはヴォルフ・カルテルだ。そして、連中にはレーヴェ・カルテルを追い詰めるだけの戦力と技術があった。
だが、怪しさで言えば、シュヴァルツ・カルテルも相当なものだ。あの裏切者のジークベルトがフェリクスに情報を売った後で、戦略諜報省と取引していたとしてもなんらおかしくはない。裏切者は何度でも裏切るのだ。
容疑者が多すぎてどうしようもない。
いずれにせよ、レーヴェ・カルテルはもうお終いだ。レーヴェ・カルテルは分裂するだろう。そして、殺し合いが始まる。また内戦が起きる。市民が犠牲になる。ドラッグが大量に“国民連合”に流入する。
キュステ・カルテルの分裂から始まった内戦の終わりは遠く、そしてフェリクスたちはまたしても目的を果たせそうにない。
「で、次の幹部は?」
「次で最後だ。少なくとも、今は。そろそろ麻薬取締局の方から呼び出しがあるだろう。作戦開始時刻1時間前になったら、大使館に向かう。呼び出しがあるからな。それから最後の幹部を拘束して、国民連合に送る」
「了解。まあ。ここで大物を叩いておけば、後から湧いてくる連中は小物だと思おう」
「そうだな」
レーヴェ・カルテルのライナーだって誰もマークしてなかった小物なんだぜ。それがヴォルフ・カルテルとやり合うほどにでかくなったんだ。これから先どうなるかなんてことがわかるはずもない。
フェリクスは作戦開始までに報告書を纏め、エッカルトはヴィルヘルムに連絡を取る。ヴィルヘルムは今回の戦果は大きかったなと言っていた。だが、あまり喜んでいる様子はなかった。
それもそうだろう。彼も現実を知っている。現実的にもっとも脅威なのはヴォルフ・カルテルであるということを。そのヴォルフ・カルテルは野放しで、それに対立していたレーヴェ・カルテルだけが狙い撃ちにされたということを。
背後にヴォルフ・カルテルがいるのは確実だ。
だが、フェリクスたちは受け入れなくてはならない。
自分たちがヴォルフ・カルテルには手出しできず、レーヴェ・カルテルしか取り締まれないことを。ヴォルフ・カルテルが“国民連合”の手によって保護されているということを。ヴォルフ・カルテルを敵に回すということは“国民連合”を敵に回すということを。それらを認めなければならない。
「麻薬取締局からの呼び出しだ」
「行こう」
少なくとも一時的に内戦は終わる。本当に一時的に。
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