西南大陸における軍事作戦
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──西南大陸における軍事作戦
襲撃は陸路と空路の両方から行われることとなった。
航空偵察の結果、精製施設には高射機関砲があることが確認されており、まずはそれを制圧しなければヘリは送り込めない。
地上部隊が対空火器を制圧し、敵の注意を引いている隙にヘリボーンを行い、精製施設を一挙に制圧。それから製造担当者を捕まえ、“連邦”に連行し、尋問する。他にも幹部クラスの人間がいることに備えて、射撃は慎重に行うこととなった。
製造担当の幹部の顔写真は入手できている。
西南大陸に入国したときに、この国の秘密警察が撮影した写真で、名前はクルト・カムラー。この男を捕えることが第一目標であった。
「作戦開始だ、諸君。共産主義者と手を結んだクソ野郎どもに目にもの見せてやろう」
マーヴェリックはそう宣言する。
作戦には『ツェット』の他に現地政府軍の航空機などが参加している。現地政府軍の航空機は近接航空支援を実施する予定だった。
マーヴェリックとマリーはヘリで精製施設に向かう。
まずは地上部隊の侵攻が開始される。
荒れた道を軍用装甲車が進み、精製所を目指す。精製所の付近には狙撃手が待機しており、幹部が逃げようとした場合、それを阻止する役割が与えられていた。
軍用装甲車は着々と精製所に迫り、そして精製所の正面ゲートを突き破る。
そして、戦闘が始まった。
先手を打ったのは『ツェット』で、魔導式重機関銃を乱射し、周辺を制圧する。それに負けずに敵も応じてきた。
「対戦車ロケット弾!」
「警戒しろ! 敵は対戦車火器を所有!」
そこで分隊選抜射手が出て魔導式狙撃銃で対戦車ロケットを構える敵を撃ち抜く。
対戦車ロケット弾が明後日の方向に飛んでいき、次の射手が現れては装甲車を狙う。
装甲車は魔導式重機関銃で常に敵の頭を押さえ続け、その隙に歩兵部隊が高射機関砲に向かう。高射機関砲に爆薬を設置するとそれを起爆して高射機関砲を完全に破壊する。
「こちらツェット・ワン・ツー! 敵対空火器の破壊完了!」
『こちらツェット・ゼロ・ワン。これより空域に進入する』
高射機関砲の脅威がなくなったところで、マーヴェリックたちを乗せたヘリが作戦空域に進入する。先陣を切るのはガンシップ化した汎用ヘリで、それから中型・大型の輸送ヘリが続いて進行していく。
高射機関砲の排除された空をガンシップが飛行し、敵に向けてガトリングガンとロケットポッドの掃射を浴びせる。敵は瞬く間になぎ倒され、防衛線に隙が生じる。
その隙を地上部隊が制圧して確保しつつ、ヘリボーン部隊が降下してくる。
「よっと。さて、始めるか」
マーヴェリックたちはヘリから地上に降り立つと、早速行動を始める。
施設の入り口のブリーチングチャージを仕掛け、扉を爆破し、突入を開始する。
施設内はまだ多くの敵が残っており、外からの攻撃に応じつつ、侵入してきたマーヴェリックたちに応じる。バリケードが築かれ、魔導式機関銃が牽制射撃を行う。
マーヴェリックたちは遮蔽物に隠れ、敵の様子を窺う。
「どうする? 焼く? 吹っ飛ばす?」
「好きにして」
「なら、焼いてやろう」
マーヴェリックは敵に炎を浴びせかける。バリケードにいた兵士が一瞬で火達磨になり、じたばたと地面を転がり回る。マーヴェリックたちはその隙に前進し、残った敵を制圧し、火達磨になった兵士の頭に一発ずつ銃弾を叩き込んでいく。
「この調子で順調に制圧していこう。殺せ、殺せー」
施設内の制圧が進み、施設外からの攻撃に敵が応じられなくなり始める。
そうなると次々に『ツェット』が施設内に突入してくる。
防衛線はギリギリで保たれ、手榴弾の投げ合いが行われる。『ツェット』側にも負傷者が出るほどに激しい戦闘が繰り広げられた。銃弾が飛び交い、手榴弾が投げられ、敵はバリケードを作って立て籠もり、銃弾を浴びせる。
このような閉所での戦闘で通常の魔導式自動小銃は取り回しにくい。そのため『ツェット』では銃弾の威力はほぼそのままに銃身を短くしたカービンモデルの魔導式自動小銃を使用している。
もっとコンパクトな魔導式短機関銃はほとんどの場合、拳銃弾を使うので威力が下がるのだ。それは敵がバリケードを作っている時などにはあまり嬉しいことではない。
魔導式機関銃も空挺部隊向けの短銃身と伸縮式銃床を有する軽量のものが使用され、物陰から敵のバリケードに制圧射撃を行い、友軍の突撃を助ける。
確実にワンフロアずつ制圧が進み、ひと部屋ひと部屋、ターゲットがいないか確認が行われる。ターゲットは殺すなとの命令なので、『ツェット』の兵士たちは射撃に慎重になっていた。
だが、相手はお構いなしにぶっぱなってくる。暗い室内で暗視装置はあるものの、性能はそこまで高くないそれでは、ターゲットと雑魚の区別はつけにくい。
「よく確認して撃て。ターゲットを殺したら、ここまで来た意味がないからな」
マーヴェリックは敵を確認してから炎を放ち、死体に手榴弾を抜かせて、バリケードを突破していく。中でも派手だったのは対戦車ロケット弾を放とうとしていた兵士を撃ち殺し、その死体にバリケードに向けて対戦車ロケット弾を放たせたときだ。
バックブラストで他の兵士たちが大火傷を負い、バリケードは吹き飛ばされる。
「これぞ戦争」
マーヴェリックは満足げに頷いた。
「敵の抵抗が弱まってきている。ターゲットはまだ見つからない?」
「まだだな。焼死体にした連中の顔は全て確認しているし、ターゲットは製造担当の幹部だ。そいつが銃を持って前線に加わると思うか?」
「あらゆる可能性を想定しておくべき」
「はいはい。マリーお姉さんの言う通りに」
マーヴェリックはそう軽く述べると、前進を再開した。
ひと部屋ずつ制圧が進み、その部屋ごとに2、3名のレーヴェ・カルテルの兵士を殺す。レーヴェ・カルテルはこの精製施設の重要性を理解しているようであり、相当な数の兵力を張り付けている。
中には取引相手である共産ゲリラの兵士も混ざっており、それらは閉所での戦闘に慣れていた。だが、それだけでは戦況をひっくり返すのは難しい。
「航空支援要請!」
「ツェット・ワン・ツーよりフェアリー・ゼロ・ワン。近接航空支援を要請する!」
窓際で撃ち合いになっているヴォルフ・カルテルとレーヴェ・カルテルの間にガンシップが割り込む。
『フェアリー・ゼロ・ワンよりツェット・ワン・ツー。目標にストロボを投擲せよ』
「了解!」
赤外線ストロボマーカーをバリケードに立て籠もる敵に向けて投げつける。
『フェアリー・ゼロ・ワン、確認した。掃射する』
ガトリングガンから無数の銃弾がバリケードに立て籠もるレーヴェ・カルテルの兵士に向けて叩き込まれ、“人間だったもの”が周囲に散らばる。
「ツェット・ワン・ツーよりフェアリー・ゼロ・ワン。支援に感謝する」
そして、『ツェット』の部隊がフロアを制圧していく。
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