乱射事件
本日2回目の更新です。
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──乱射事件
ギルバートはギャングの資料をじっくりと閲覧した。
本当ならば資料を直接フェリクスに見せる方がいいのだろうが、資料は部外秘であるし、フェリクスは──というより麻薬取締局は正式にはこの調査に参加していない。ギルバートも、フェリクスも単独で動いている。
表向きはフェリクスは売人の方から捜査を進めることになっており、ギルバートも売人の検挙を進めるという方針を取っていた。
ギャングから調べるという捜査方針は共有されていない。
だから、ギルバートがギャングの情報を調べているのはかなり危険なことだった。自分の捜査権限のない範囲のことに首を突っ込むのは職務規定違反だ。
それでもギルバートは調べる。
大規模な取引が行える体力があり、レニに関わっており、そしてドラッグを取り扱うことに疑問を持たないギャングについて調べる。
候補はいくつか上がった。ギルバートはそれをメモして、資料室を出る。
部下たちに売人を何人捕まえたか聞き取り、表向きの捜査も行っているように振る舞う。内通者がこの中にいるのだろうかとギルバートは思うが、捜査情報が漏れているのは間違いなかった。
だが、内部監査は要求できない。内部監査のせいで捜査が止まれば、もう二度とこの西部で大規模なドラッグ取引をしている連中を捕まえられないかもしれないのだ。
それに下手に内部監査を要求して、部下からの信頼を失うことも打撃となる。
今はギルバートとフェリクスで動くが、倒すべき目標が見つかれば、麻薬取締課が総力を上げて、クソギャングを潰してやるとギルバートは決意した。
今日の成果を聞く。
売人を4人逮捕。全員が司法取引に応じず。スノーパールは合計で800グラム押収。
売人は逮捕しても逮捕しても湧いてくる。いくら逮捕しても無駄だ。ひとりの売人がいなくなれば、別の売人がすぐにその穴を埋める。末端の売人をいくら捕まえても無駄なのだ。売人は報復を恐れて司法取引にも応じず、刑務所はそのうちキャパシティーオーバーになってしまうだろう。
それでもこの捜査方針で行くとギルバートは宣言しており、部下たちはおとり捜査などで売人を捕まえ続けては、上に繋がるルートを探そうとしている。
部下たちには申し訳なく思いながらも、ギルバートは独自の捜査を進める。
条件に該当するギャングのリストを持って、警察署の外に出て、事前に待ち合わせをしてた場所に向かう。市街地にある喫茶店。そこでフェリクスと落ち合う手はずになっていた。ギルバートは歩いてそこに向かう。
「ファウスト特別捜査官」
「ゴールウェイ警視。情報はどうでしたか?」
フェリクスはフェリクスで捜査を進めていた。
彼は売人が殺された事件について調べていた。主に売人たちに聞き込みをしながら、その客であるヤク中からも話を聞く。売人と違って、ヤク中の口は軽い。スノーパールを一発キメるために300ドゥカート渡せば、いろいろと喋ってくれる。
当日のゴミ捨て場付近に停まっていた車。車から出てきた男たちの特徴。売人の名前と住所、縄張りにしていた場所。その縄張りで今商売してる売人の名前。
フェリクスはピースをひとつずつ拾っていき、パズルを完成させようとしていた。
「ギャングのリストだ」
ギルバートはそう言って、リストをフェリクスに差し出す。
「9チームですが。意外と多いですね」
「ああ。多い。だが、このリストはあくまで君の言った条件に当てはまるものだ。もっと絞り込めるとは思う」
ギャングのリストは古くから残っていて、それなりの資金力がある、レニに拠点を置いているものがリストアップされている。
「例えば、このバイカー集団は古くからのギャングだが、やっていることは交通違反ぐらいで、ドラッグに手を出してはいない。一度、違法武器の所持で引っ張ったこともあるが、今は大人しくしている」
「であれば、リストからは除外できますね。ドラッグを扱うには相当な覚悟が必要です。下手をすれば終身刑ですから」
「ああ。だが、一応該当するものはリストアップしてある。君の方のデータベースと照合して調べてみてくれ」
「分かりました。麻薬取締局にもこの手のギャングのリストがあります。もっとも、ドラッグ犯罪の前科があるものだけに限られますが。しかし、ドラッグカルテルがビジネスポートナーに選ぶなら、前科のあるものをわざわざ選ばないでしょう」
「前科がなく、それでいてドラッグビジネスに応じる連中か。レニ都市警察の資料が使えればいいんだが、俺のコネではまだ無理だ」
「引き続き、どうにかしてレニ都市警察との連携をお願いします。我々が組織を超えて連携しなければ、相手は国境を越えて連携しているのですから」
「まさしくその通りだ」
フェリクスとの会合を終えて、ギルバートは署に戻る。
その日の捜査の最終的な報告を受けてから、もう一度資料室でギャングについてリストから漏れているものがいないが調査し、自動車で帰宅する。
車庫に車を入れ、玄関のドアに進む。
「お帰りなさい、あなた。帰りが遅いから何かあったかと思ったわ」
「いいや。今、捜査が重要な局面にあってね。それで忙しいんだ」
玄関に迎えに来てくれた妻にキスをする。
銃声が響いたのは次の瞬間だった。
魔導式短機関銃のけたたましい銃声が響き、ギルバートが10発近い銃弾を受ける。彼の妻も5発の銃弾が命中した。
閑静な住宅街で響き渡った銃声は悲鳴を呼び、大騒ぎになった。
「こ、これでいいんだな?」
「ああ。俺たちは間違えなかった。目標は確実に死んだ。これで大金持ちだ!」
魔導式短機関銃を助手席から乱射した男が言うのに、運転席の男はアクセルを思いっきり踏んで車を発進させた。
この後、警察と救急隊員が来て、ギルバートと彼の妻を病院に運んだが、病院到着時に両名とも死亡しているのが確認された。
住宅街だったこともあって目撃者は多く、車のナンバーはすぐに特定され、警察は犯行に使われた車をただちに捜索し始めた。
車は事件発生から5時間後に発見された。中にスノーパールのオーバードーズで死んでいるふたりのドラッグ常習者の死体と事件に使われた魔導式短機関銃を残したままに。
ギルバートの死は翌日に知らされ、州警察は衝撃を受けることになるが、その報告を受ける前にフェリクスの方にも暗殺者の魔の手は伸びていた。
フェリクスの宿泊しているホテルの傍で暗殺者たちは待ち構えていた。ホテルの前は警備員がいて、あまり長い間駐車していると不審がられて、調べられるか、通報される。だから、彼らは別動隊がギルバートを殺害したような待ち伏せはできなかった。
暗殺者たちは待ち続ける。約束された報酬のために。その金で買うドラッグのために。フェリクスを殺すために。
そして、フェリクスを乗せたタクシーがホテルの前に停まった。
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本日の更新はこれで終了です。
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