ふたりの担当者
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──ふたりの担当者
アロイスたちは内通者の情報で密輸担当は2名いることを知った。
ハンス・ホフマンとヘルゲ・ヒルデブラントの2名。
それぞれ元キュステ・カルテル暫定軍の密輸担当と元新世代キュステ・カルテルの密輸担当である。ふたりは別々の密輸ネットワークで“国民連合”にドラッグを密輸しており、このふたりを拉致し、尋問し、密輸ネットワークを明らかにしなければライナーの権力に亀裂は生じさせられなかった。
だがしかし、ふたりのうちどちらか一方を先に仕留めれば、もうひとりが警戒する。拉致も暗殺も難しいオプションになる可能性があった。
「ふたり同時に襲うか、あるいは一方を叩いただけで良しとするか」
アロイスがマーヴェリックたちの前でそう述べる。
「何とかしてふたりとも叩けないか?」
「君たちに戦力的な余裕があれば。1個分隊は俺の身辺警護だ。残りの戦力でふたりを一気に片付けられるなら文句はない」
「ふうむ。不可能ではないと思うが……」
マーヴェリックがマリーの方に視線を向ける。
「今のレーヴェ・カルテルは重武装。対空ミサイルも保有している可能性がある。我々がキュステ・カルテルに供与し、使い方を教えた対空ミサイルが。全力で潰しに行かないと、二兎を追う者は一兎をも得ずになる」
「厳しいね」
マーヴェリックがお手上げだというように肩をすくめた。
「ふたりが同じ場所にいれば仕留められると思うかい?」
「そりゃな。だが、そうそうふたりが一緒に会うことはないだろう」
「なあに、誘い出すのさ」
アロイスにはひとつのアイディアがあった。
まず説明しなければならないのは、レーヴェ・カルテルにおける密輸担当ふたりの立場である。彼らは仲良しこよしで両手を繋いで商売をしているわけではない。密輸担当は一本化すべきとして、どちらが主導権を握るかで争ってる関係なのだ。
実績を上げた方がカルテル内で優位な立場に立てるのは言うまでもなく、ふたりは実績を上げようと、新規密輸ネットワークの開拓にいそしんでいる。
ふたりの競争のおかげで、レーヴェ・カルテルは新参のカルテルとしてはそれなり以上の規模の密輸ネットワークを手にしていた。
それでもふたりはまだ争っている。ライナーもふたりを争わせていることのメリットを理解しているのだろう。止める様子はない。
だが、この同じ獣同士の食らい合いがリスクを有していることをアロイスは分かっている。ライナーのような子供には分からないだろうが、10年間をもう一度繰り返しているアロイスには分かっている。
危険性。リスク。すなわち、争いが激化すること。
激化した主導権争いの中で、危険な取引にふたりが手を出す可能性。アロイスはそれを考えていた。そして、アロイスはふたりにその危険な取引を持ちかけるつもりだった。
そうすることでふたりを同時に仕留めるチャンスが生まれるのだ。
「ヴィクトルに電話しよう。彼に協力してもらう」
アロイスはそう言って、ヴィクトルに電話した。
それから3時間後、レーヴェ・カルテルのふたりの密輸担当の幹部に電話がかかってくる。電話はヴィクトルの部下を名乗る人間からだ。
「ここ最近、抗争の影響か、扱える商品が少なくなって困っている。ヴォルフ・カルテルとの取引を続けたまま、そちらとも取引したい」
電話の内容は概ねそのようなものであった。
ふたりの密輸担当はこれに飛びつく。
ふたりはブロークンスカルと念入りな調整を進め、どのように密輸ネットワークを利用するのかを話し合う。密輸・密売の規模はこれまでで最大級のものであり、密輸担当の幹部たちは思わず歓喜の声を上げそうになった。
レーヴェ・カルテルはアロイス=ヴィクトル・ネットワークやアロイス=チェーリオ・ネットワークのような密輸・密売ネットワークを有さない。そのためどうしても取引の額は少額で、その少額の積み重ねで利益を得るという方法になっていた。
だが、どうだろうか。ブロークンスカルと取引すれば数兆ドゥカート規模の取引が可能なのだ。それも一度の取引で。
ふたりの密輸担当はこの好機をお互いに悟られぬように進めた。そのため互いに同じ取引が持ち掛けられているということを知ることはなかったのである。
危険な取引だと分かっていても、実績を上げるために止まれないふたり。ブロークンスカルとの取引は念入りに進み、彼らはそこから計上される利益を、自分たちの実績を夢見て、ブロークンスカルとの取引を進める。
そして、ついにブロークンスカルと対面して、取引を稼働させる日がやってきた。
最初、ふたりの幹部は別々の場所に招待される。
そして、ボスであるヴィクターに会うために移動する。
そこでようやく彼らはペテンにかけられたことを知ることになる。
「なっ……! ヘルゲ!?」
「ホフマン!? これは一体どういうことだ!?」
ふたりが対面して混乱する。
「悪いな」
ヴィクトルが煙草を吹かせながら言う。
「アロイスとは約束しているんだ。ヘマはしない。裏切らないってな」
「つまり、我々を罠に……!」
「そういうことだ」
ブロークンスカルのメンバーが一斉に銃口を輸送担当の幹部とふたりの護衛に向ける。護衛は武器を取り上げられ、何もできない。
「あんたらをヴォルフ・カルテルに引き渡す。そうすることで、俺たちは暫くの間、格安でブルーピルを取り扱うことができる。悪く思うなよ。こっちも商売なんだ。恨むんだったらお互いを恨むことだな」
ヘルゲとホフマンは拘束され、その身柄はヴォルフ・カルテルに引き渡された。
「ようこそヴォルフ・カルテルへ。あんたたちからは聞きたい話がいろいろとある。あんたたちの取り扱っている密輸ネットワークとかな。素直に喋れば、痛い目を見ずに済むぞ。抵抗すれば、まあその時は覚悟してもらおう」
それからアロイスたちはふたりを拷問した。
ふたりの関係性も巧みに利用した。お互いに張り合っている関係なのはアロイスも知っている。ふたりを別々の部屋で尋問し、片方が喋ったと嘘をつけば、自分も喋っても大丈夫かと思わせることができる。
ともあれ、拷問は苛烈を極め、全ての拷問が終わった時、ヘルゲとホフマンはほぼ死んでいた。死ぬにも死ねない状況の中、最後はマーヴェリックの手で生きたまま焼き殺されたのであった。
「さて、麻薬取締局に花を持たせてやろう。情報を麻薬取締局に売るぞ」
ふたりの密輸ネットワークの情報は戦略諜報省経由で麻薬取締局に渡され、一斉に検挙された。これによってライナーのレーヴェ・カルテルが被った資金的打撃は凄まじいものとなる。
それでもレーヴェ・カルテルは抗争を続けていた。
どのような手段を使ってでも自分たちに勝利が訪れることを望みながら。
だが、誰がライナーに情報を流したのかは不明なままだった。
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