カセットテープ
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──カセットテープ
ヴォルフ・カルテルによる新世代キュステ・カルテルに対する全面攻撃が始まった。
以前の弾薬庫の爆破は不完全燃焼に終わった。ならば、次こそ始末をつける。
目標は弾薬庫から新世代キュステ・カルテルの幹部に変更。位置の掴めた目標から次々に消していく。ただし、ザシャを仕留めるのは最後。新世代キュステ・カルテルには途中で分裂してもらって、始末しにくくなるのを防がなければならない。
そうしないとキュステ・カルテル暫定軍に対して麻薬取締局が犯した過ちと同じ過ちを犯すことになってしまう。
連中と同じ間違いを犯す必要性はない。ドラッグカルテルはもっとスマートかつ陰惨にことを終える。
動員された『ツェット』の2個小隊が陸空の二手に分かれたルートで目標に迫る。
テクニカルと装輪式装甲車という快速部隊で進む地上部隊と2機のガンシップに改良した汎用ヘリを伴ったヘリボーン部隊で、『ツェット』は新世代キュステ・カルテルの幹部の居場所であるホテルに迫る。
廃墟になった高級ホテルに新世代キュステ・カルテルの幹部は陣取っていた。
そこに『ツェット』が襲い掛かる。
まずは奇襲のヘリボーン。ガンシップが敵のテクニカルや対戦車ロケットを無力化するガトリングガン、ロケットポッドによる掃射を行い、新世代キュステ・カルテルの戦力を押さえつける。
その隙にホテルの屋上にファストロープ降下でマーヴェリックたちヘリボーン部隊が降下する。素早く、迅速な展開で、敵に立て直す暇を与えない。
ホテル内突入後は火力は情け容赦なく叩き込み、敵を制圧する。
「燃えろ、燃えろ!」
マーヴェリックは最高にホットな炎で敵を焼き、火達磨になった敵が床に転がって叫び声をあげる。まさに地獄から響いてくる叫びのようであった。煉獄で焼かれるものたちはこのような叫び声を上げているのかもしれない。
マリーは死体の持っている手榴弾のピンを抜かせ、突如として倒れた仲間が自爆するという事態に新世代キュステ・カルテルの兵士たちを巻き込んだ。不意を打たれた新世代キュステ・カルテルの兵士たちは混乱し、遮蔽物から出たところを射殺される。
落ち着いて戦えば、数の上では新世代キュステ・カルテルの方が勝っていた。だが、彼らはガンシップによる攻撃と、ヘリボーン部隊の奇襲によって混乱しており、まともな抵抗が行えていなかった。
そこにさらに地上部隊の攻撃が加わる。
地上を進んできたテクニカルと装甲車は地上から高級ホテルを制圧し始め、幹部に逃げる道を失わせた。加えて、増援を阻止するために装甲車──対戦車ロケット弾を阻止するための金網付き装甲車で道路を塞ぎ、敵の増援を阻止する。
完全に包囲された状況で新世代キュステ・カルテルの幹部が追い詰められる。
上と下からの攻撃に晒された新世代キュステ・カルテルの兵士たちは完全に混乱していた。文字通りサンドイッチにされつつあり、相手は逃げ出すこともできずに無謀な抵抗を続ける。だが、それも長くは続かなかった。
地上部隊とヘリボーン部隊が合流したとき、幹部はひとつの部屋に立て籠もっていた。そのバリケードが作られた部屋の扉をマーヴェリックたちがブリーチングチャージで吹き飛ばし、一斉に突入する。
「撃つな! 撃つな! 降伏する!」
新世代キュステ・カルテルの幹部は両手を挙げて降伏の意志を示した。
「へえ。この抗争で捕虜として扱ってもらえると思っているわけだ」
マーヴェリックはサディスティックな笑みを浮かべると、新世代キュステ・カルテルの幹部から銃を取り上げ、後ろ手に手錠で拘束する。
「まあ、今は捕虜として扱ってやるよ。今は、ね」
マーヴェリックたちは地上に出て、迎えのヘリに乗り込むと脱出していった。地上部隊も素早く離脱していく。
そして、西部の『ツェット』の基地に連れて来られた幹部は尋問という名の拷問を受けたのだった。
電動ドリル、ペンチ、強酸、炎、水。あらゆるものを使った拷問の末に幹部は数名の別の幹部たちの名前を上げた。そして、その居場所も。
その後、幹部は射殺され、死体はバラバラにされて街路樹に吊るされた。
それからも襲撃は続く。
名前と居場所の分かった幹部たちを『ツェット』が次々に襲撃する。
この時、『ツェット』を中核とした武装部隊は東部に前進基地を確保していた。古く、廃棄された飛行場で、そこに弾薬と装甲車、テクニカルという車両、ガンシップ、輸送ヘリ、COIN機を始めとする航空機が収容されたのだった。
作戦はその基地を中心に行われ、昼夜を問わず、ヘリが爆音を上げて離着陸する。
アロイスの命令で次々に新世代キュステ・カルテルの幹部たちが狩り殺される。自分たちの居場所がバレていると察した幹部たちは居場所を変えるも、ドラッグカルテルとして機能するためには他の幹部と連絡を取り合わなければいけない。その時に盗聴が行われ、電話番号などから居場所が割り出される。
新世代キュステ・カルテルは急速に崩壊を始め、見切りをつけた下っ端たちは幹部の情報をヴォルフ・カルテルに売る。
「そろそろ、ザシャを始末しよう」
そして、幹部たちが倒れていく中、アロイスはとうとうボスであるザシャの排除を『ツェット』に命令した。
ザシャの居場所は分かっていた。彼はアロイスが与えた拠点からは移動していたが、新しい拠点の位置はヴォルフ・カルテルに寝返った下っ端からの密告で明らかになっていたのだ。
ザシャの拠点は廃工場。そこにザシャがいる。
陸空で『ツェット』が廃工場に侵攻し、ザシャの抹殺を目指す。
作戦は完全な奇襲で、成功するはずであった。
だが、『ツェット』は目的を果たすことはできなかった。
廃工場にザシャはいなかったのである。
「いねえぞ」
「死体だけ」
「密告者の死体だ」
マーヴェリックとマリーが周囲を確認した末にそう言葉を交わす。
「爆発物はなし。けど、カセットテープが置いてある」
「“親愛なるアロイス・フォン・ネテスハイムへ”と」
「持って帰るか」
結局のところ、『ツェット』はザシャを排除できずに、カセットテープだけを持って帰還したのであった。
「カセットテープか。再生は?」
「まだ。先に聞いておいた方がよかった?」
「どっちでもいい。どの道、ザシャは終わりだ」
アロイスはそう言って、テープを再生機にセットする。
『親愛なるアロイス・フォン・ネテスハイム。俺はライナー・ナウヨックス。あんたの部下だった男だ。俺は事実を知った。父とエーディットの死について。あんたの部下が殺したんだ。あんたもそのことを知っているが、部下を罰さなかった』
アロイスの表情が強張る。
『これより俺たちはレーヴェ・カルテルの樹立を宣言する。目標はあんたを殺すことだ、アロイス。東部の半分は既に支配している。あんたに地獄を見せてやるから覚悟しておけ。それからザシャもこっちについた。新世代キュステ・カルテルは俺たちの仲間だ』
テープのライナーは語り続ける。
『レーヴェ・カルテルはヴォルフ・カルテルに対して宣戦布告する。あんたたたちが『ジョーカー』との抗争で被った以上の損害を負わせてやる。そして、あんたの脳天に鉛玉を叩き込んでやる。以上だ』
テープはそこで切れた。
「やられたね」
「ああ。やられた。誰があのクソ息子にクソ事実を教えやがった。畜生め」
アロイスは毒づく。
「だが、いい。ライナーがやろうというならばやってやる。あの野郎に俺たちヴォルフ・カルテルの恐ろしさを教育してやろうじゃないか」
アロイスは苛立ちながらそう宣言した。
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