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緊急脱出

……………………


 ──緊急脱出



 フェリクスたちを見て何か思い出したオスカー。


「ああ。お前たちか。性懲りもなく、また“連邦”に戻ってきたのか? これは“連邦”の問題だ。“国民連合”のクソ野郎どもが関わるべき問題じゃない。分かったらさっさと家族を返して、失せろ」


「あいにくだが、そうはいかない。オスカー・オーレンドルフ。お前を逮捕する」


「ふざけんな、クソ野郎。そっちがその気ならこっちにも考えがある」


 後列の2台の車両から武装した男たちが降りてくる。


「麻薬取締局の捜査官を人質にして、俺の家族と交換だ。それぐらいの覚悟はしてきたんだろう? ええ?」


 オスカーがそう言うと武装した8名の男たちが魔導式自動小銃の銃口をフェリクスたちに向ける。


 その男たちの頭が爆ぜたのは次の瞬間だった。


「クソ! 狙撃手か!?」


「オスカー・オーレンドルフ! 逮捕だ! 手を頭の上に乗せて、跪け!」


「畜生!」


 オスカーも魔導式拳銃を抜いて構えようとする。


 だが、その前にフェリクスがオスカーの肩を銃撃した。その衝撃でオスカーが銃を取り落とす。そして、フェリクスたちがオスカーを取り押さえ、その手に手錠を掛ける。


 だが、そのまま連行とはいかなかった。


 さらに3台の車両が公園に突入してくる。


「離脱だ! 離脱しろ!」


「ターゲットを確保! ターゲットを確保! 脱出ヘリを要請する!」


 乱入してきた車両のうち1台はテクニカルで魔導式重機関銃が火を噴きながら、フェリクスたちの乗った車両を追い回す。


「クソ野郎! 貴様ら全員地獄に落ちろ!」


「黙ってろ!」


 フェリクスは魔導式拳銃で応戦し、エッカルトが車を飛ばして離脱地点に向かう。


 後方からテクニカルが迫り、第800海兵コマンドの兵士が魔導式自動小銃で射手を撃ち抜こうとする。事態は完全な混乱の最中にあって、フェリクスたちは脱出地点を目指す。だが、そう簡単には行かない。


「前方にテクニカル!」


「わき道に入れ! 蜂の巣にされるぞ!」


 主要道路にはキュステ・カルテル暫定軍のテクニカルが陣取っており、脱出を阻止する。魔導式重機関銃があちこちで火を噴き、周囲は大混乱に陥った。


 それでもエッカルトは車を飛ばし続け、離脱地点を目指す。


『こちらツヴァイヘンダー。脱出ヘリ、ヒポグリフ・ゼロ・ワンはそちらに急行中、位置を知らされたし』


「こちらメタル・ゼロ・ワン! 敵の妨害を受けていて脱出地点に近づけない! 脱出地点の変更は可能ですか!?」


 フェリクスは魔導式拳銃のカートリッジを換えながら叫ぶ。


『位置の変更は可能。どこにする?』


「オストブリュッケ公園で! そこまで何とか辿り着きます!」


『了解した。脱出地点を変更する』


 この間にも後方からテクニカルが殺到する。


 ボスを奪還しようと、キュステ・カルテル暫定軍は戦力を投じてくる。そして、ここでさらなる脅威が出現した。


「前方に装甲車だ! 畜生! 公園までもう少しだってのに!」


 装輪式装甲車がフェリクスたちの進路を塞ぐように現れ、口径20ミリの機関砲でフェリクスたちの車両を狙う。


「躱せ、躱せ! わき道に入って、迂回してでも公園を目指せ!」


「やってる!」


 フェリクスが叫ぶのにエッカルトが間一髪でわき道に入る。


 ほとんど車両が通ることを想定しないようなわき道を走り抜け、フェリクスたちは何とかこの場からの離脱を目指す。


「このまま公園に辿り着いたとして、ヘリは無事に俺たちを回収できるのか?」


「今は辿り着くことだけを考えろ!」


 そして、ようやく公園が見え始めた。


 上空にはヴィルヘルムの派遣した脱出ヘリが着陸態勢を取って近づきつつあった。


「畜生。後方にはまだテクニカルだ」


「ヘリが蜂の巣にされるぞ」


 だが、フェリクスとエッカルトの懸念は杞憂に終わった。


 上空から現れたのは脱出ヘリだけではなく、小型のガンシップもだった。


 ガンシップはロケット弾でテクニカルを吹き飛ばし、ガトリングガンで掃射する。


 テクニカルは瞬く間に壊滅し、輸送ヘリは後部ランプを開いて着陸した。


「装甲車が生きてる」


「ガンシップがどうにかするはずだ。脱出ヘリに突っ込め!」


 フェリクスたちは車両を走行させたまま脱出ヘリに突っ込む。大型輸送ヘリは車両ごとフェリクスたちを回収し、上空に飛び上がっていく。


 キュステ・カルテル暫定軍の装甲車はガンシップからロケット弾の集中砲火を浴びて撃破された。もう地上からの攻撃は気にしなくていい。


「ギリギリだったな……」


「ああ。全くだ」


 フェリクスとエッカルトはため息を吐くと、オメガ作戦基地に帰投した。


「無事にオスカー・オーレンドルフは確保できたようだな」


「ええ、提督。そちらの支援のおかげです。これでキュステ・カルテル暫定軍は無力化されるでしょう」


 ヴィルヘルムが迎えに来てそう言い、フェリクスがそう返す。


 キュステ・カルテル暫定軍のオスカー・オーレンドルフが逮捕されたことはすぐにニュースになった。彼はもっとも警備の厳重な刑務所に収容され、“連邦”と“国民連合”の同意が取れ次第、“国民連合”に護送される手はずになっていた。


 フェリクスたちは勝利を祝う。ようやくこの内戦が終わるかもしれないのだ。


 だが、そうはならなかった。


 キュステ・カルテル暫定軍は分裂しながらも、戦力を維持し、三つ巴の内戦は、“いくつあるのか分からん巴の内戦”に変わった。


 フェリクスたちはこの件で学んだ。


 ドラッグカルテルのボスの首を切り落としても、カルテルは崩壊しないということを。だが、それを学ぶのは遅すぎた。


 キュステ・カルテル暫定軍の残党とワイス・カルテル、新世代キュステ・カルテルの内戦は激しさを増し、ワイス・カルテルに合流するものや、新世代キュステ・カルテルに合流するもの、あるいはあくまでキュステ・カルテル暫定軍の残党として活動するものに分かれ、内戦は続いた。


 この件でドラッグカルテルのボスたちの警備はより厳重になり、オスカーのときのように簡単には仕留められなくなる。


 内戦の炎は燃え続け、フェリクスたちをあざ笑った。


「『オセロメー』が新世代キュステ・カルテルから独立を宣言した。これでさらに内戦は意味が分からなくなってきたぞ」


「もうとっくに意味不明だ」


 フェリクスはぼやく。


「内戦は終結に近づくはずだった。なのにこのざまだ」


 キュステ・カルテル暫定軍のボスは逮捕された。


 だが、それによって内戦に変化は見られなかった。


 市民が犠牲になり、殺される。ワイス・カルテルのために商売したレストランがキュステ・カルテル暫定軍の残党によって襲撃され、女性は暴行され、男たちは生きたままバラバラにされた。


 東部の市民は『ジョーカー』のときのように嵐が過ぎ去るのを待っている。だが、今回の嵐は当面収まりそうにない。


 殺戮の嵐は吹き荒れ続け、終わる見込みはない。


……………………

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[一言] フェリクスさんやっちまったかー
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