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悪に対する悪

……………………


 ──悪に対する悪



 まず必要なのは情報であった。


 ターゲットの位置情報が必要であった。


 出番となったのは潜入捜査官たちであった。彼らが3つに分裂したキュステ・カルテルの幹部たちの使っている電話の番号を記録し、フェリクスたちに送ってくる。フェリクスたちは電話を盗聴し、誰がどこにいるのかを確かめる。


 電話番号さえ分かれば場所は半分分かったようなものだ。問題は襲撃をかける時間帯にターゲットが電話のある家なり部屋なりにいるのかだ。


 それを確かめるためにはその番号に電話をかけてみるしかない。


 その役割を担ったのは、こちら側に寝返ったカルテルのメンバーだった。


 司法取引を行い、既に醜い獣の食らい合いになった抗争から離脱するために、“連邦”と“国民連合”を相手に司法取引を行ったカルテルの構成員が電話をかける。


 それで居場所が確認された場合、“連邦”海兵隊第800海兵コマンドが強襲する。


 第800海兵コマンドは情報戦にも優れているが、軍隊としての戦闘力でも優れている。多少の障害は障害にならない。


 ここで麻薬取締局の特殊作戦部隊の動員を要請しないのは、彼らが信頼できないからに他ならない。何せ、麻薬取締局はヴォルフ・カルテルの捜査に対する圧力に屈した。戦略諜報省の圧力に屈した。


 もし、重要な証拠が手に入ったとして、それが揉み消されないと誰が断言できる?


 それに麻薬取締局の特殊作戦部隊を動員した場合、それこそ大統領令12333号に抵触する。それを口実にフェリクスを議会で吊るし首にする可能性もあるのだ。


 そうなれば喜ぶのはドラッグカルテルだけだ。


 行動は慎重に。常に慎重に。


 戦略諜報省はフェリクスを監視している。これはフェリクスの被害妄想などではない。事実だ。戦略諜報省はフェリクスの目をキュステ・カルテルの内戦に向けながらも、フェリクスをどうにかして排除することを狙っている。


 家族やシャルロッテの件で脅迫したのだ。仕事がらみの件で引きずりおろそうとしないとは限らない。むしろ、フェリクスをスコットがそうされたように議会で『暴走した現場捜査官』として吊るし首にする機会を窺っているに違いない。


 そうはさせない。


 いずれは関係性を暴露してやる。戦略諜報省も、今の“国民連合”の政権も、ヴォルフ・カルテルも、何もかも。全て突き止めて、法の裁きを受けさせてやる。


 お前たちの頭には一発食らわせない。スコットがそうなったように、議会で吊るし首にされるといい。法廷で責め立てられるといい。地獄を見るといい。


 ああ。今はお前たちの言いなりになってやるよ。だが、いつまでも首輪に繋がれているとは思わないことだ。


 フェリクスはそう決意を新たにし、内通者が電話をかけるのを待つ。


「内通者が電話をかけた。今、呼び出している」


 ここでターゲットが電話に出れば強襲決定だ。


「ターゲットが電話に出た。繰り返す、ターゲットが電話に出た」


「襲撃開始だ」


 待機していた汎用ヘリが一気に目標の建物に向かって離陸し、加速する。


『ターゲットとは未だ通話中。場所は動いていない』


『メタル・ゼロ・ワン、了解』


 フェリクスも強襲には参加していた。ヴィルヘルムは彼に基地にいるように言ったのだが、フェリクスは自分の目で見届けたいと言った。これから法による裁きではなく、国家による暗殺を受ける人間の末路を見届けたいと。


 それにこれはフェリクスが持ちかけた作戦だ。責任を取るためにも作戦には参加しなければならない。フェリクスはそう思っていた。


『ヒポグリフ・ゼロ・ワンより全部隊。間もなく、目標上空。降下準備』


『了解』


 ヘリはものの十数分で幹部のいる屋敷の上空に到達した。


 そして、ヘリが一気に降下する。


 屋敷が一気に騒がしくなり、カルテルの兵士たちが出てくる。


 今回襲撃したのはキュステ・カルテル暫定軍の幹部だった。装甲車や対戦車ミサイルを有してるカルテルだ。当然ながら歓迎も凄まじいことになった。


 テクニカルが2台、正門の方から突入してきて、それが汎用ヘリのドアガンナーに薙ぎ倒される。爆発炎上したテクニカルの後ろから完全武装の兵士たちが湧いてくる。


 汎用ヘリは友軍歩兵を降下させると、すぐに離陸し、地上支援を始める。


 ガトリングガンが火を噴き、ロケットポッドが歩兵の隊列を吹き飛ばし、テラスから対戦車ロケットを構える敵歩兵に機銃掃射を実施する。屋敷は瞬く間に明るい炎に照らされ、第800海兵コマンドの兵士たちが突入していく。


 流石は“連邦”の精鋭部隊なだけあって、第800海兵コマンドの兵士たちは的確に警備を制圧し、目標に向けて進んでいく。魔導式自動小銃が火を噴き、敵の銃火を魔導式機関銃が制圧し、兵士たちは奥へ奥へと突入する。


「クリア」


「クリア」


 1階層、1部屋ずつ制圧されて行く。


「ターゲットは?」


「まだ見つかりません」


 死体をひとつずつチェックしているが、まだ目標は見つからない。


「仕方ない。作戦目標はターゲットの抹殺だ。殺せるまで進むしかない」


「了解」


 4階建ての屋敷の各地で戦闘が起きる。


 カルテル側は室内で対戦車ロケットを使用するという荒業まで行って第800海兵コマンドの兵士たちを攻撃するが、それぐらいでは第800海兵コマンドの兵士たちは怯まない。戦闘を継続し、確実に制圧を続ける。


 これは正義ではない。フェリクスはそう思う。


 俺たちは相手がカルテルの幹部だからという名目で襲撃を仕掛けただけだ。証拠もなければ、何かしらの証人もいない。これは警察活動ではなく、ただの暗殺作戦だ。


 悪に対する悪。


 そう評価するのが適切だろう。俺たちはドラッグカルテルという巨悪を倒すために小さな悪に手を染めているのである。


 いや、ここまで派手なら小さな悪というのは詐欺か、とフェリクスは思う。


「スタングレネード」


「突入、突入」


 スタングレネードが投下されてから第800海兵コマンドの兵士たちが室内に突入し、武器を持った人間全てに鉛玉を叩き込む。


「クリア」


「クリア」


 また部屋のひとつが制圧された。だが、ターゲットはいない。


「これで上層は全て制圧しました」


「となると、地下か」


 カールといい、こいつといいモグラのように地下に隠れるのだなという感想をフェリクスは抱いた。


『ヒポグリフ・ゼロ・ワン。敵の増援が殺到中。早急に対処されたし』


 外にいるヘリ部隊からそう連絡が来る。


「メタル・ゼロ・ワンよりヒポグリフ・ゼロ・ワン。全ての弾薬を使い切っていい。帰りのヘリは別途要請する」


『了解』


 外からガトリングガンのモーター音が聞こえる。


「では、地下室へ」


「こっちです」


 フェリクスたちは地下に突入していく。


……………………

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