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陰惨

……………………


 ──陰惨



 ザシャが率いて、アロイスが支援する新世代キュステ・カルテルは戦争に一定の距離を取りながらも、少しずつ勢力を伸ばし、地盤を固めていた。


 一方のワイス・カルテルとキュステ・カルテル暫定軍の殺し合いはエスカレートを続けていた。民間人を殺すことすらも攻撃手段にするのは『ジョーカー』との抗争のときからのことだが、今回はそれがさらにエスカレートしている。


 ワイス・カルテルの特殊作戦執行部は陽動のために民間人を攻撃する。警察の注意が民間人の被害に向けられている隙に検問を突破し、キュステ・カルテル暫定軍に打撃を与えるのだ。


 これまでキュステ・カルテル暫定軍は兵力と装備の点においてワイス・カルテルを上回っていながら、幹部を8名も殺害されている。1名は新世代キュステ・カルテルによって、残りはワイス・カルテルによって。


 だが、キュステ・カルテル暫定軍は必ず報復する。


 彼らは装甲車でワイス・カルテルの縄張りに押し入る。これまで捕虜にしたワイス・カルテルの捕虜を有刺鉄線で装甲車に結びつけ、装軌装甲車に付けられたドーザーがバリケードを押しのけ、強引に侵攻する。


 それからは魔導式重機関銃が乱射され、市民もカルテルの兵士も関係なく射殺される。むしろ、意図的に民間人を狙うことすらあった。民間人にどちらのカルテルが優勢なのかを示し、自分たちに従うように強要しているのだ。


 3匹の獣の食らい合いは続き、血が流れ続ける。


 あのニコも新世代キュステ・カルテルに『オセロメー』の兵士として加わり、戦うことを強いられていた。


 新世代キュステ・カルテルは犠牲を減らすために、少数民族を、つまり『オセロメー』を活用していた。『オセロメー』は規模を拡大し、装備を与えられ、金のために新世代キュステ・カルテルの代わりに戦う。


 だが、新世代キュステ・カルテルも、アロイスも過去の失敗──つまりは『ジョーカー』の失敗から学んでいる。武装した連中に独自の資金源を与えれば反乱が起きる。


 だから、『オセロメー』は完全にドラッグビジネスから手を引かされた。今では新世代キュステ・カルテルが、『オセロメー』の構成員に給料を支払っている。また『ジョーカー』のように飼い犬に手を噛まれるようなことはごめんというわけだ。


 そのため『オセロメー』はよく戦ってくれる。新世代キュステ・カルテルはワイス・カルテルとキュステ・カルテル暫定軍の幹部の首に懸賞金をかけており、そいつの首を持ってくればボーナスが支給される。最低でも100万ドゥカート、最大で1億ドゥカート。


 ボーナスを目指して『オセロメー』の兵士たちは戦う。


 今回もまた襲撃が行われようとしていた。


「もうそいつは手に馴染んだか、ニコ?」


「うん。まあまあね」


 機嫌のいい『オセロメー』の男が尋ねるのに、ニコが魔導式自動小銃を握ってそう返した。ニコの体には大きすぎる銃をニコは何とか抱えている。


 ニコなどの子供を使った偵察は最近では有効でなくなってきていた。というのも、その手の手段が繰り返されたためにワイス・カルテルとキュステ・カルテル暫定軍は、豹人族の子供を見かけたらすぐに射殺するようになったのだ。


 よって、ニコたちは正式な兵士になった。月給5000ドゥカートの兵士。仮に賞金首を仕留めてもニコたちがボーナスを得ることはない。


「では、作戦を説明するぞ。お前はカジョたちを率いて、このルートからここにある建物に向かえ。敵が見えたらとにかく撃て。一般市民に弾が当たっても気にするな。俺たちは戦争をしているんだ。暢気に歩いてる奴らが悪い」


「うん……」


 あれからニコは大勢殺した。


 ドラッグカルテルの兵士も、民間人も。


 民間人の中には子供もいた。ニコたちとは違って幸せそうな子供たちがいた。


 ニコは銃を撃つときにマーヴェリックのような訓練された大人の兵士と同じように銃の反動に振り回されずに撃つことができない。銃の反動で弾は明後日の方向に飛び、民間人に対して流れ弾が発生してしまうのである。


 その流れ弾のせいで民間人が死んだ。


 だが、ニコたちは必死だった。


 ニコたちは基本的な訓練を受けていない。匍匐前進すら知らない。銃を撃つときは棒立ちになり、腰だめに銃を構え、そして相手に向けて引き金を引くしかないのだ。それも相手から銃弾が飛んでくるから半狂乱になって銃弾をばら撒くしかない。


 ニコたちはそうやって民間人を殺したが、ニコたちも犠牲者を出している。


 ワイス・カルテルも、キュステ・カルテル暫定軍も、訓練された大人たちだ。それに何の訓練もされず、武器だけ与えられた子供をぶつければどうなるのか想像するのは容易なことである。


 ニコたちは仲間をひとり、またひとりと失っては、新しい仲間を迎え入れる。


 そして、『オセロメー』の男たちはニコたち子供兵を囮として使っている節があった。今回の作戦でもそうだが、男たちとは別ルートから進軍させ、敵の注意がそちらを向いた隙に、別方向から殴り込む。


 男たちにとっては子供兵なんぞいくらでも徴募でき、それでいて安い給料で使える安価な戦力なのだ。武器の方はヴォルフ・カルテルがいくらでも用意してくれるので、銃を撃つ人間を用意しさえすればいい『オセロメー』にとって子供兵は打ってつけだ。


 そして、また悲劇が始まろうとしていた。


「いいか。ビビるなよ。撃ち続けろ。お前たちは男だ。立派な豹人族の男だ。タフで、勇気のある男たちだ。いいな?」


 ニコたちは頷くしかない。


 ニコたちは路地裏を通り抜けて、目標の建物に迫る。


 そして、表通りに出て目標の建物に向けて走る。


 ニコたちは全員が事前にホワイトグラスを吸っている。それである程度の酩酊状態にあり、恐怖の気持ちは押さえられていた。


 そして、ある程度の距離で目標に向けて銃を乱射する。


 目標の建物はレストランでカルテルの男たちが利用するものだった。そこに向けてニコたちは銃を乱射する。ニコたちの魔導式自動小銃の有効射程は200メートルほどで、さらにニコたちの射撃の腕前を考慮するならば100メートルに迫らなければ当たらないだろうが、ニコたちは300メートルほどで撃ち始めた。


 怒号が響き、レストランから男たちが飛び出してくる。男たちは魔導式自動小銃と魔導式機関銃で反撃を始め、ニコたちが撃たれ始める。


 ヒュンヒュンと銃弾が体の傍を通っていくのを感じながらニコはパニック状態で銃を撃ち続ける。カートリッジを慌ててリロードし、銃撃を続ける。銃を撃つのを止めれば、自分が撃ち殺されそうな気がしていたのだ。


 だから、撃ち続ける。よく目標を見もせず、乱射する。


 そこに『オセロメー』の男たちのテクニカルが乱入してきたのはすぐだった。テクニカルから重機関銃が乱射され、火炎瓶が放り込まれる。


 ニコたちを銃撃していた男たちは撃ち抜かれ、燃え上がり、レストランの中に撤退しようとする。そこに『オセロメー』の男たちがたっぷりの手榴弾をお見舞いした。


 戦闘は最終的に30分で終結した。


 ニコたちは同じ子供兵の仲間を4名失い、民間人15名が犠牲になった。


 それでもまだ戦争は続いている。


…………………

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新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] ここまでくるとマフィアの喧嘩出入りというより武装集団同士の内乱にも見えてきました。 ニコからしたら、この世は生き地獄だなぁと思えるかと思いましたが、当人はそんな事を思う余裕もないかも・・・。…
[一言] 下克上はなさそうだなあ
[良い点] ドゥカートって価値いくらなんでしょう?ペソと同等ぐらい?
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