『オセロメー』の新兵
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──『オセロメー』の新兵
いつの日だったか、腹部にドラッグを詰め込まれ、ドラッグに密輸にかかわった少年ニコは今では妹とふたりで暮らしていた。母は病気になり、死んでしまった。
ニコはゴミ漁りをして稼いでいる。妹は体を売っている。
子供ができたらどうしようと妹は心配している。ニコも心配だった。
そのような日々にまたしても『オセロメー』が現れた。
「ニコ。お前も戦士だよな?」
「どうかな。分からないや」
「いいや。お前は戦士だ。俺たちに殴られても死ななかった」
そう、ニコはドラッグの密輸に失敗したあの後に『オセロメー』の男たちから殴る蹴るの酷い暴行を受けた。ニコは死ぬかと思ったが、なんとか助かった。しかし、今でも腕の調子はおかしく、満足に動かせない。
「お前もゴミ漁りなんて男らしくない仕事は嫌だろう? それに妹だって体を売るのは危険だと分かっているはずだ。そんなお前にいい仕事がある」
「もうドラッグを運ぶのは嫌だよ」
「ドラッグはもう運ばせない。その代わり戦うんだ。俺たちは今、戦争をしている」
戦争! 戦争から逃れるためにジャングルを出たのにここでも戦争をするのか?
「いいか。お前は銃を撃ったりする必要はない。お前の仕事は偵察だ。子供を怪しんだり、撃ったりするほど敵は残酷じゃない。お前はこっそり忍び寄って敵の様子を探り、俺たちに状況を知らせてくれればいい」
「で、できるかな……?」
「心配するな。できるに決まっている。いいか。この仕事を始めたらちゃんと給料が出る。毎月5000ドゥカートだ。どうだ? やる気になってきたか?」
「う、うん」
戦争が怖いが、毎月5000ドゥカートというのは魅力的だった。それだけあれば妹が体を売らなくてもふたりで満足に食べていける。
「よし! お前は今日から偵察兵だ。早速仕事だ。車に乗れ。街の方に行くぞ」
「今日からなの?」
「いつからだと思ってたんだよ、間抜け!」
ニコは後頭部をぶたれるとピックアップトラックの荷台に乗せられた。
そして、ピックアップトラックは街に向けて走っていく。
「出番だ、ニコ。ここからカジョと一緒に様子を見てこい。大通りとその大通りに面した酒場の様子だ。いいか、見つかっても慌てたりするな。何もしてないという振りをしろ。怪しまれて、撃たれれるのはお前だからな」
最初は敵は子供を撃ったりしないと言っていたのにこれだ。『オセロメー』の男たちは全く信用できない。
「さあ、行ってこい。銃を持った男の人数と俺たちみたいな車に銃がついた車両がないか確認しろ。他のことはどうでもいい」
「分かった」
仕方なくニコは偵察に向かう。
「俺はカジョだ。よろしくな」
「俺はニコ。よろしく」
カジョはニコと同年代ほどの少年だった。大きすぎるシャツとボロボロのスニーカーを履いていて酷く痩せている。
「この仕事は初めてか?」
「うん。危険はないの?」
「たまに撃ってくるから、急いで情報を得てさっさと逃げる。そうすれば危険はない」
やはり撃ってくるのかとニコは暗澹たる気分になった。
「上手くやっていれば、ボーナスも出る。ゴミを漁っているよりずといい」
「そうなんだ」
しかし、自分に上手くやれるだろうか? ニコは疑問だった。
「今は仕事に集中しろ。お喋りは後からだ」
「分かった」
ニコとカジョは路地から表の大通りに出る。
「いた。銃を持った連中だ」
「数は15人。銃を乗せた車もある」
「2台だな。さっさとずらかろう」
ニコとカジョは得る得べき情報を得ると素早く、だが怪しまれないように逃げ出す。
「情報です。銃を持った男たちは15名。銃を乗せた車は2台」
「ふうむ。ちょっと数が多いな。ニコ、新しい仕事だ」
そう言って『オセロメー』の男がニコに球状の物体を渡す。
「これは手榴弾だ。このピンを抜いて、レバーをしっかりと握ったまま男たちに投げてこい。そうしたらボーナスをやる」
「撃たれるよ!」
「つべこべ言うな! やれ!」
苛立った『オセロメー』の男にニコが殴られる。
「わ、分かった。やるよ……」
ニコは手榴弾をしっかりと握ると、また路地を通って表の大通りに出た。
怪しいまれないようにゆっくりと歩く。ゆっくりと、ゆっくりと。心臓はドクドクと破裂しそうなほどに素早く脈打っている。ニコは吐き気がしてくるのを感じた。
ニコは十分に男たちに近づいたと思ったところで手榴弾のピンを抜いた。
そして、それを男たちめがけて投げ込む。
レバーが跳ねるように外れ、手榴弾は放物線を描いて武装した男たちの方に飛んでいった。それから爆発音が響く。悲鳴が上がり、怒号が響き、一気に混乱が広がる。
ニコは逃げようとして背中を向けたところで、銃で狙われた。
銃弾が頬を掠めて飛んでいき、ニコは思わず地面に伏せる。
それが正解だった。
「くたばりやがれ!」
「死ね!」
すぐに『オセロメー』のテクニカルが戦場に乱入し、銃弾をばら撒く。
銃撃戦が発生した。
ニコの頭上を銃弾が飛び交う。ニコは必死に祈り続けた。
やがて、不意に銃声が止む。
「ニコ! よくやったな!」
機嫌をよくした『オセロメー』の男がやってきてニコを立たせる。
「お前のおかげで大勝利だ。これからもよろしく頼むぞ。ほら、ボーナスの3000ドゥカートだ。大切に使えよ」
男はニコを立たせ、紙幣を渡す。
「どうなったの?」
「連中は皆殺しになった。俺たちの勝利だ! ほら、お前も見てこい」
ニコはそう言われて自分が手榴弾を投げた場所に向かわされる。
辺りは一面血の海になっていた。
魔導式重機関銃の銃痕がそこら中に刻まれているのと同時に、何かに切り裂かれたような死体がある。ニコの投げた手榴弾で死んだ死体だ。
ニコは思わず吐きそうになるのをこらえた。
死体は武装した男たちだけではなかった。年配の女性の死体も地面に崩れ落ちていた。これもニコが殺したのだ。ニコの投げた手榴弾で死んだのだ。
ニコは世界がぐるぐると回るのを感じた。
自分は人を殺した。罪もない人を殺した。
どうすれば許してもらえる? どうすれば助かる?
「ニコ。お手柄だな。今度は俺にやらせてくれよ」
「こ、こんなことがやりたいのか……?」
「こいつらのせいで俺の親父は死んだんだ。こいつらを殺すのなら喜んで」
カジョはそう言って死体に唾を吐いた。
ニコは気が変になりそうだった。
だが、『オセロメー』の連中からは逃げられない。それに本当に連中が月に5000ドゥカートくれるなら、妹は体を売らなくてもいい。
ニコは耐えることにした。ただただ、耐えることにした。
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