三つ巴の内戦
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──三つ巴の内戦
先手を打ったのはワイス・カルテルだった。
彼らはキュステ・カルテル暫定軍の縄張りに電撃的に侵攻し、幹部2名を殺害した。その際の戦闘で両勢力に29名の死者と民間人に67名の死者が出た。
ワイス・カルテルはテクニカルによる機動戦闘に打って出て、ワイス・カルテル特殊作戦執行部という『ジョーカー』でも軍警察にいた人間をメインに構成された機動作戦部隊を以てして、何度もキュステ・カルテル暫定軍に対して攻撃を仕掛けた。
だが、キュステ・カルテル暫定軍もやられてばかりではない。
ワイス・カルテルの攻撃に対戦車ミサイルまで動員して対処し、汚職警官と軍を使って、検問を各所に設け、ワイス・カルテルの奇襲を妨害した。武器については旧キュステ・カルテルが保有していたものをほぼキュステ・カルテル暫定軍が押さえている。
そして、ワイス・カルテルの相手をしつつ、新世代キュステ・カルテルに対する攻撃を始めた。ワイス・カルテルを叩きのめす前にまだ勢力が揃いきっていない弱小勢力の新世代キュステ・カルテルを叩こうというつもりだったのだ。
キュステ・カルテル暫定軍の装甲車が道路を進軍して、新世代キュステ・カルテルの縄張りに侵攻する。装甲車は装輪式のものが6台、装軌式のものが2台。装軌式のものが先頭にたち、工事用のドーザーを取り付けて障害物を排除できるようにしている。
だが、新世代キュステ・カルテルは最初からバリケードを作ってキュステ・カルテル暫定軍の相手をするつもりはさらさらなかった。
装軌式装甲車が道を切り開いていくのに、突如として爆発が起きて装軌式装甲車が吹き飛ばされる。装甲車の中にいたキュステ・カルテル暫定軍の兵士たちは爆発の衝撃でほぼ全員が死亡した。
即席爆発装置だ。
軍から横流しされた榴弾砲の砲弾を束ねたものが路肩に埋められており、それが炸裂して装甲車を吹き飛ばした。炎上する装甲車が邪魔になってキュステ・カルテル暫定軍の装甲車の車列が立ち往生する。
そこに対戦車ミサイルが叩き込まれた。
狙いは最後尾の車両。最後尾の装甲車に対戦車ミサイルが命中し、爆発炎上する。
これでキュステ・カルテル暫定軍の装甲車は前進も後退も困難な状態に追い尾まれた。さらに対戦車ロケット弾が嵐のように降り注ぎ、装甲車に命中したり、装甲車の周囲で炸裂したりしする。
もはや、装甲車の中にいるのは危険だと判断したキュステ・カルテル暫定軍の兵士たちは降車し、銃撃で応戦する。対戦車ロケットの攻撃が一時的に止まり銃撃戦が始まる。
周囲は混乱状態だった。家屋や商店の中に銃弾が飛び込み、対戦車ロケットの攻撃の巻き添えを受けて吹き飛ぶ建物もある。そこにいた民間人はどうすることもできず、嵐が過ぎ去るのを祈って、床に伏せるしかなかった。
激しい銃撃戦が続く中、新世代キュステ・カルテルが迫撃砲の砲撃を始めた。
迫撃砲はソフトターゲットに対して非常に効果的だ。新世代キュステ・カルテルが持ち出したのは口径60ミリの小型の軽迫撃砲だが、それがキュステ・カルテル暫定軍の兵士たちの間で炸裂すると、ばたばたと兵士たちが倒れていく。
さらには魔導式重機関銃の射撃も加わり、大口径、高威力の弾丸がキュステ・カルテル暫定軍の兵士たちを八つ裂きにする。
キュステ・カルテル暫定軍の兵士たちは捕虜になればどういうことになるのか分かっているため、最後まで戦った。だが、攻撃そのものが失敗したのは明白だった。
「クリア」
「クリア。お片付け終了」
新世代キュステ・カルテルの迎撃が成功したのは、マーヴェリックたち『ツェット』の協力があったからであった。そうでなければ戦闘訓練も終わっていない、ただの街のチンピラに過ぎない新世代キュステ・カルテルにこのような高度な軍事作戦が行えるはずはないのである。
キルゾーンの見極めも、それぞれの攻撃のタイミングも、高度に訓練された『ツェット』だからこそ行えるものなのである。
「ボス。キュステ・カルテル暫定軍はとりあえずは撃退したぞ。次の攻撃は?」
「ワイス・カルテルが仕掛けてくる可能性がある。だが、いつまでも『ツェット』ばかりを前線にたたせておくわけにはいかない。同盟軍を利用しよう」
「新世代キュステ・カルテルの連中はまだ使い物にならないよ」
「分かってる。使うのは別の連中だ」
「ああ。『オセロメー』か?」
「その通り」
アロイスの交渉により『オセロメー』はヴォルフ・カルテルの傘下に加わっている。
「『オセロメー』は良くも悪くも実戦経験がある。あそこは長年俺たちヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルを相手に戦い続けてきた。軍警察が主体の『ジョーカー』との共同作戦も経験している。使えなくはないだろう?」
「後ろから弾が飛んでくる可能性はないな?」
「ないよ。俺たちに捨てられたら『オセロメー』は本格的に終わりだ」
もはや『オセロメー』は『ジョーカー』ともシュヴァルツ・カルテル残党とも手を切っている。そして、長年の敵だったキュステ・カルテルと手を結ぶなどまず考えられてなかった。つまり、ヴォルフ・カルテルに媚びを売るしかないのである。
確実に『オセロメー』が裏切る可能性はないと言える。
「ワイス・カルテルの攻撃目標は?」
「ザシャの手に渡ったキュステ・カルテルのドラッグ精製施設。そこを狙って攻撃を仕掛けてくる。正直、精製施設が破壊されても痛くもかゆくもないが、敵の攻撃は迎え撃ち、敵の数は減らしておきたい」
ドラッグそのものはもはや扱いきれないほどに溢れている。
西南大陸の軍事政権との繋がりは大きく、そこから精製されたホワイトフレークが運ばれてくる。そこからドラッグを買い取り、さらにそれをヴィクトルとチェーリオに売る。自分たちで精製するよりも利益は減るが、精製のための人件費と麻薬取締局に発見されるというリスクは薄れる。
だから、精製施設が攻撃を受けてもアロイスは構いはしなかった。
だが、敵の攻撃をそのまま放置しているというのはいただけない。戦争は長期化させたいが、敵を野放しするのではいずれこちらが大打撃を受ける。
勢力均衡と戦争の流れをコントロールするためにダメージを負わせておかなければならない。そのためのワイス・カルテルの迎撃だ。
「じゃあ、ちょっくら行ってきて、ワイス・カルテルの連中を叩きのめしてこよう」
「よろしく頼むよ、マーヴェリック」
マーヴェリックはマリーとともに出撃し、ワイス・カルテルの攻撃目標である精製所付近に身を潜める。マリーは狙撃位置につき、マーヴェリックはキルゾーンを一望できる場所に魔導式重機関銃を設置して、後方に軽迫撃砲を備える。
そして、ワイス・カルテルのテクニカル部隊が道路に沿って姿を見せ、精製所に近づいてきたのだった。
ザシャの屋敷を襲ったのもワイス・カルテルだ。ここで『ツェット』とワイス・カルテルが再び銃火を交えようとしていた。
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