ついに明かされる正体
本日2回目の更新です。
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──ついに明かされる正体
結婚式が終わってからフェリクスたちは内通者から録音テープと隠しカメラを、迅速に回収した。そして、それらの分析を始める。
録音テープの分析はエッカルトが、写真の方はフェリクスが。
写真はオメガ作戦基地で現像され、封筒に入れられてフェリクスの下に渡ってくる。
「この男が新郎だ。間違いない」
誰もが恭しく接し、ドレス姿の花嫁を連れた男が写真には写っていた。
「しかし、この男、どこかで見たような気が……」
フェリクスが頭を回転させる。
「ああ! バーで会った男だ!」
「会ったことがあるのか?」
フェリクスが声を上げるのに、ヴィルヘルムがそう尋ねる。
「ええ。以前、2回。バーで会ったことがあります。まさか彼がドラッグカルテルのボスだったとは。相手は俺が麻薬取締局の捜査官だと知っていたのか……」
フェリクスはそう呟いて、写真の分析を続ける。
「この男はヴェルナー。キュステ・カルテルのボス。こっちの男はジークベルト。新生シュヴァルツ・カルテルのボス。どちらもいがみ合っているように見える。何を巡って争ってるのか……」
フェリクスは写真から分かることを全て知ろうとする。
幹部たちの顔。内通者であった陸軍将官のような男たち。花嫁とその家族。
幹部たちの何名かはヴィルヘルムのデータベースで正体が判明した。汚職に手を染めている人間の中には政府高官の姿もあった。花嫁の家族はヨハン・ヨストだと分かった。
写真の解読が進む中、エッカルトの方も戦果を挙げていた。
「ヴォルフ・カルテルのボスの名前が分かったぞ」
「どうだった?」
「アロイス。アロイス・フォン・ネテスハイムだ」
「ネテスハイム……? もしかして、“連邦”の検事総長だったハインリヒの息子か? そうだとすればこちらが想定していたものとかなり異なることになるな……」
アロイスはやはりヴォルフ・カルテルのボスの名前だった。
アロイス=チェーリオ・ネットワークは存在するのだ。そのことが改めて分かった。
「俺たちの予想だと権力者だとは思われていたが、検事総長の息子とまでは思っていなかったものな。どうりでヴォルフ・カルテルがこれまで“連邦”政府の追求を避けられてきたというわけだ」
「ああ。そして、恐らくはハインリヒこそが初代ヴォルフ・カルテルのボスだ。奴が検察官としてグライフ・カルテルを追い込み、カールから帝国を奪った。そして、それをハインリヒの死によってアロイスが引き継いだ。そういうわけだ」
ヴォルフ・カルテルの秘密に包まれていた正体がじわじわと明らかにされて行く。
録音テープはさらにアロイスの肉声を録音しており、声紋が記録される。
そして、写真と録音テープの音声が合わせて解析され、ヴォルフ・カルテル内の幹部たちの権力構造が明らかになる。誰が誰に対して従っているのか。そういうものが明らかになっていく。
「結論だ」
フェリクスが言う。
「ヴォルフ・カルテルのボスの名前はアロイス・フォン・ネテスハイム。公式な記録から検事総長だったハインリヒの息子であることが確認された。そして、恐らくはヴォルフ・カルテルを作ったのはハインリヒであり、カール・カルテンブルンナーから縄張りを奪って創設されたものと思われる」
フェリクスが続ける。
「アロイスはハインリヒの死後、カルテルを引き継いだ。そして、これまでの惨劇を指揮してきた。こいつを逮捕することは絶対に必要だ」
このアロイスこそが一連の惨劇の影にいる人間だ。
そのことは分かっていた。何せ、フェリクスはアロイスがアロイス=チェーリオ・ネットワークを利用して巨万の富を得ていることを知っているのだ。
ヴォルフ・カルテルの弱体化など嘘っぱちだ。連中は弱体化などしていない。むしろ、ハインリヒの時代よりも強化されている可能性があった。
そのことはキュステ・カルテルと『ジョーカー』との戦闘に首を突っ込んでも、まだまだ余裕はあるだろう収入源と下手に出ているキュステ・カルテルと新生シュヴァルツ・カルテルのボスたちの姿からも窺えた。
真の脅威はヴォルフ・カルテルだ。そのフェリクスの意見は証明されたのである。
「そして、今、アロイスはヨハン・ヨストの娘アレクサンドラと結婚した。恐らくはカルテルの結束を高めるためだろう。アロイスは以前、何ものかによって花嫁を殺されている。それで乱れた歩調を合わせるためだと思われる」
実際はそこまで複雑な理由ではなく、ただカルテルの結束と後継者の誕生を求めたものだったのだが、フェリクスは裏があるとばかり思っていた。
「これからはヴォルフ・カルテルに焦点を当てて、捜査を進めていくべきだ。ヴォルフ・カルテルの脅威は分かっているし、今やボスの名前と顔も判明した。ヴォルフ・カルテルを追い詰める条件は揃っている」
フェリクスは同意を求めてエッカルトたちを見る。
「俺としては賛成だが、捜査方針を転換するなら、上の許可を取る必要性があるぞ」
「分かっている。上もこれだけ条件が揃っていれば納得するだろう」
フェリクスはその点においては楽観的であった。
いくら頭の固いハワードであっても、これだけの証拠と条件が揃っていれば、捜査を許可する。間違いなく。そう思っていた。
「あんたが許可を取ったら、俺も従うぜ。まずは許可だ。本局の支援を受けるには許可が必要不可欠だ。俺とあんただけではできることも限られてくる」
「分かった。許可を取ろう。ハワードに電話する」
フェリクスはオメガ作戦基地の電話を借りて本局に電話する。
捜査の許可は下りる。フェリクスはそう確信していた。
『ダメだ、フェリクス。キュステ・カルテルが目標だ。ヴォルフ・カルテルではない。分かっているだろう? “連邦”でもっとも危険なカルテルはヴォルフ・カルテルではなく、キュステ・カルテルなんだ』
「そのキュステ・カルテルがヴォルフ・カルテルに恭順しているんですよ。新生シュヴァルツ・カルテルだってそうです。本当に脅威なのはキュステ・カルテルではありません。ヴォルフ・カルテルです」
『いいや。キュステ・カルテルだ。本局の分析官たちの意見だ。彼らは君より広い視野で物事を見ている。彼らの言うことを私は信じる。現場の狭い視野でしか物事を見ていない君たちの意見よりも』
「じゃあ、これからそちらに決定的証拠をお送りしますよ! それを見ても分析官たちがキュステ・カルテルが脅威だというならば、分析官たちは全員無能です!」
フェリクスは怒りに任せてそう言って、電話を切った。
「許可が取れた、ってわけじゃなさそうだな」
「どうにもおかしい。捜査に圧力が掛けられている感じがする。麻薬取締局本局はどうあってもヴォルフ・カルテルから目を逸らしたがっている。連中を追わない理由は何だ? 何が連中を捜査することを妨げている?」
「さてな。ドラッグカルテルも大統領にロビー活動と選挙資金の提供を行っているのかもしれないな」
「……それだ」
フェリクスははっとする。
「ドラッグカルテルの金が“国民連合”に流れている可能性。それがあった」
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