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上に登る

本日1回目の更新です。

……………………


 ──上に登る



 タツィオは約束通り情報を運んできた。


 トマスの予想通り、最初の3、4回目はどうでもいい情報を。


 だが、個人情報がトマスの手に渡ったことにより、トマスが脅しをかける。『お前は既に裏切っている。今さら後戻りはできないんだぞ』と。


 それからタツィオは有力な情報を持ってくるようになった。


 ベニトの弱みや明確な犯罪行為について。


 トマスは引き続きタツィオから情報を得ながらも、ベニトに迫る。


 フェリクスも捜査に協力している。“ガーネット”に関係ない情報は本局に送り、照合や分析を依頼する。そのことから分かってくることもあった。


 そして、ついにベニトを落とす日がやってきた。


「今回は令状がある。家宅捜査の令状だ。タツィオ様様だな、奴が持ってきた情報で令状が取れた。だが、ベニトも逮捕はしない。タツィオの時と同じように、奴もこちら側に引きずり込む。いいな?」


「了解」


 ベニトでもまだ小物だ。末端組織の中間管理職程度の立場でしかない。


 チェーリオ・カルタビアーノに迫るには時間がかかりそうだ。


 フェリクスとトマスは今回もSWATや麻薬取締局の特殊作戦部隊の支援なしに敵地に乗り込む。既にマフィアが警官を殺さないという神話は崩壊しているというのに、彼らは無謀な行為を行っていた。


 だが、これは必要なことだ。ベニトを逮捕せず、情報源として引き込むには、フェリクスとトマスだけで挑まなければならないのだ。


 令状の魔法の力を信じて、フェリクスとトマスは港の倉庫前に車を停めた。


 すぐにスノーエルフとハイエルフの混血がやってきて、魔導式拳銃をちらつかせながら、フェリクスとトマスが乗っている覆面パトカーに迫る。


「ここで何してるんだ? 警察か?」


「その通り。鈍い頭の割には答えを出すのが早かったな。令状だ。家宅捜索を行う」


 マフィアの男たちが一斉に拳銃に手を伸ばそうとする。


 だが、そこでフェリクスが車から飛び出し、拳銃を抜こうとした男の頭に自身の魔導式拳銃の銃口を押し付けて羽交い絞めにした。


「動くな。こいつの頭が吹き飛ぶぞ」


「てめえ。本当に警官かよ……!」


「その通り。警官だ」


 それからトマスがゆっくりと車から降りてくる。


「さて、ベニト・バルジーニに会わせてもらおうか。奴に伝えろ。ベッドに誘う相手を間違えると碌なことにならないと」


「畜生。待ってろ」


 マフィアの男のひとりが倉庫内に入る。


 それから暫くして男が戻ってきた。


「ボスが会うそうだ。そいつを解放しろ」


「ボスのところまで行ったら解放してやる」


「クソッタレ」


 フェリクスは男に銃口を突き付けたまま、トマスとともに倉庫に入る。


 そして、倉庫の一画にある、倉庫の管理用と思われるオフィスに入った。


「ベニト・バルジーニだな? フィリベルト・ファリナッチから挨拶だ。娘を孕ませた責任を取れってな」


 トマスがそう言って見たのは港湾労働者風の衣類に身を包んだ労働者風の男だった。この男もスノーエルフとハイエルフの混血だ。


「ま、待ってくれ。そいつをどこかにやってから話そう。頼む」


「部下に俺たちに手出ししないように命じたらな」


「命じる。ただちに命じる」


 それからベニトは大急ぎで部下たちに命令を発した。


 その命令が発されてから、ようやくフェリクスが男を解放する。


「で、だ。寝た相手が不味かったな、ベニト。自分の上司の娘に手を出して、責任を取ろうとしないのはいただけないぞ。フィリベルトは厳格な旧教徒で、今の保守政権の熱心な支持者だ。それが娘が中絶させられたと知ったらどう思うかな?」


「それは、その……。畜生。俺を殺しに来たのか?」


「いいや。取引をしに来た」


 トマスがベニトに言う。


「お前が売買目的でホワイトフレークを扱っているのは知っている。だから、こうやってここに令状があるんだ。だが、俺たちはお前を逮捕しようとか、そういう考えはない。お前がお前の上司であるフィリベルトの情報を渡してくれたら、中絶の件も黙っておいてやるし、ここにあるホワイトフレークの件でお前を逮捕しないでおいてやろう」


「司法取引か?」


「似たようなものだ。司法取引ならもっと堅苦しくなるし、バレたときのお前の立場は最悪のものになるぞ」


「クソ」


「ああ。クソだよ。お前はクソだ。18歳の娘を孕ませて、中絶させたクソ野郎だ」


 悪態をつくベニトにトマスが淡々と告げる。冷たく、淡々と。


「このことがボスにバレたらどうなるかね? 両膝を撃ち抜いてからゆっくりと拷問されて、最後にはドラム缶に詰め込まれて、海に捨てられるか? それだけで済むといいけどな。もっと悲惨な死体を俺は見てきてるからな」


 そこでトマスとフェリクスはバッヂを見せる。


「そこにいる麻薬取締局の捜査官はお前のことをムショに叩き込みたがっている。裁判でどういう証言が出ると思う? ホワイトフレークを売買目的で扱っていたとなれば25年の懲役刑だ。そして、俺が証言する。『被告人は18歳の少女を妊娠させた挙句、中絶することを迫ったのです』と」


「待て。分かった。フィリベルトのどんな情報が欲しいんだ?」


 またしても釣れた。


 こうも簡単に釣れて行くと、成功のし過ぎでどこかで破綻しそうな気がしてくる。


「奴の弱みや明確な犯罪行為への関与。犯罪行為については証拠も欲しい」


「盗聴器をつけろと言うんじゃないだろうな?」


「それ以外に上手くお前が証拠を掴めるならつけなくていい」


 ドラッグの売人たちは盗聴器を付けることを嫌う。ボディチェックを受けたら、一発で密告者だとバレるからだ。そして、マフィアの場合、密告者の辿る運命は悲惨としか言いようがない。


 それを避けるためならば、マフィアの内通者は何だろうとするだろう。


「証拠は……どうにかする。弱みについても把握しておく。いつ伝えればいい?」


「ウェストタウンの“ライトハウス”ってレストランで週に1回、火曜日に会って報告を受ける。時間が14時きっかりだ。報告する内容がなくても必ず来い。会って、これまでの経緯を聞く。分かってると思うが、気づかれるがどうかはお前次第だからな」


「分かった。分かったよ」


 フィリベルトの監視はタツィオが未だに続けている。麻薬取締課を総動員できない態勢でも、ふたりの重要人物を見張ることは可能なのだ。


「よし。この調子で上まで登りつめるぞ。末端とは言えど、トップクラスとなればチェーリオ・カルタビアーノに繋がる手がかりを持ってるだろう。少なくともそういう経緯で情報を手に入れたというアリバイは作れる」


 今重要なのは“ガーネット”の潜伏を悟られないことだった。


 捜査を進めても、それが“ガーネット”というおとり捜査官ではなく、仲間の裏切りによって手にされたものだとマフィアに思わせなければならない。


「この調子で進めていこう。いずれは本格的に“ガーネット”の情報を使えるようになる。そうなればこっちのものだ」


「ええ。やってやりましょう」


 トマスとフェリクスはアロイスの誇る2大ネットワークのうち、アロイス=チェーリオ・ネットワークに迫っていた。


……………………

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