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カルタビアーノの小指

本日1回目の更新です。

……………………


 ──カルタビアーノの小指



「やはり目的はチェーリオ・カルタビアーノですか?」


「ああ。あの野郎だ。あの野郎以外にドラッグをばら撒いている人間はいない。今は上手く逃げてやがるが、かならずとっ捕まえてやる」


 フェリクスはトマスを羨ましく思った。


 トマスの敵は良くも悪くもカルタビアーノ・ファミリーと決まっている。


 だが、フェリクスは?


 フェリクスの敵はドラッグカルテルだ。そう、ドラッグカルテルが敵だ。


 だが、倒す順番を間違えると他のドラッグカルテルを助けることに繋がる。そして、ドラッグカルテルは“国民連合”政府に内通者を有している。こちらの捜査情報は向こうに漏れている可能性が高いのだ。


 フェリクスは本局には内容をかなり省いた報告書を送るつもりであった。


「では、捜査はどこから手を付けますか?」


「そうだな。“ガーネット”以外の情報源も欲しい。そして、それが行える情報が“ガーネット”からもたらされている。カルタビアーノ・ファミリーの末端組織のひとつで、幹部が収益を着服している。そいつをネタに脅して、情報を手に入れようと思う」


「いいアイディアですね。しかし、末端組織ですか?」


「ああ。カルタビアーノ・ファミリーにはまだ手が出せない。連中の守りは硬い。汚い金には触れようとしないし、なかなかドラッグそのものにも触れようとしない。まるで手袋をしているみたいだ。鑑識みたいにな」


 トマスが愚痴るようにそう言う。


「それだと捜査は難航しそうですね」


「“ガーネット”がチェーリオ・カルタビアーノに近づければチャンスはある。いくら奴でもドラッグの話題を一切出さずにドラッグビジネスを進めるのは無理だろうからな」


 だが、盗聴対策が厄介だとトマスが呟く。


「まあ、地道に捜査を積み重ねていこう。魔法の弾丸はなしだ」


「ええ。そうしましょう」


 捜査の結果は地道な捜査の積み重ねによるものだ。


 フェリクスがトマスから教わった大事な教えだ。


 彼らは覆面パトカーで市警本部を出る。


「汚職警官についてはどうです?」


「相変わらずだ。こっちも末端の警官が情報を売っているだけならいいんだが、どうにも中にかなり大物の内通者がいるらしい。内部監査が始まっているが、内部監査の厄介な点はおとり捜査官まで監査の対象になることだ」


「不味いんですか?」


「そりゃ不味い。おとり捜査官は悪党の振りをするためにいろいろと努力している。その努力全てが汚職行為と見なされるかもしれないんだ。いざとなれば俺が説明するつもりだが、内部監査に目をつけられて、俺が庇うと完全にカバーが剥げる」


「そうなるとおとり捜査官の身が危ない」


「そういうことだ」


 内部監査を行う部署は完全に独立している。捜査中だからと言って、監査の手を緩めてくれたりなどしない。誰が腐敗しているのか分からないのだ。だから、内部監査は進行中の捜査の現状を無視して行われる。


 だが、おとり捜査などを行っている場合は、これは致命的だ。よほどのことがない限り、おとり捜査官が内部監査で告発されることはないものの、可能性が皆無というわけではない。万が一、おとり捜査官が内部監査に引っかかったら、捜査はそこで終わりである。おとり捜査官は身の潔癖を証明するために捜査から引き上げなければならない。


 今はフリーダム・シティ市警も警官たちが腐敗している。マフィアとつるんだりしている本物の汚職警官を捕まえてくれれば内部監査にも文句はないのだが、間違った対象を内部監査で捕まえられるのは困るというものだ。


「まあ、こちらもバックアップということでできる限りのことはしてやるつもりだ。“ガーネット”情報には助けられている」


 フリーダム・シティ市警麻薬取締課の上げている功績の多くは“ガーネット”情報からによるものだそうだ。


「そちらは潜入捜査が上手いですね」


「まあ、市警には市警なりのやり方がある。ノウハウの積み重ねだ。麻薬取締局にもそのうち上手いやり方が生まれるだろう」


「だといいのですが」


 まだまだ麻薬取締局は若い役所だ。長年、フリーダム・シティを守り続けてきたフリーダム・シティ市警とは比べ物にならないほど若い。


「さて、あくまで目的は逮捕じゃない。情報源にすることだ。上手くやるには少しばかりの腹芸が必要になる。俺のバッヂも必要だが、あんたのバッヂも必要だ。脅すだけ、脅しつけてやらないといけない」


「心得ました」


 覆面パトカーを降りて、フェリクスとトマスは倉庫街にある倉庫のひとつに向かった。倉庫の傍には強面のスノーエルフとハイエルフの混血がいる。


「おい。おっさん。ここは私有地だ。分かったら回れ右して帰れ」


「おいおい。ふざけるなよ。ここで銃声がしたと通報があったんだ。大人しく倉庫の中を見せないと、公務執行妨害でムショに叩き込むぞ。その面だ。前科がないわけじゃないだろう。さあ、通せ」


「畜生。クソポリ公め。令状がいるんだろう。こういうときにはよ」


「あいにく、こういう場合は必要ないんだよ。それとも弁護士に電話するか? 『もしもし。警察がホワイトフレークの隠してある倉庫に来てて大変なんです。助けてー』ってな。ほら、とっとと退け」


 ホワイトフレークが隠してあるのは事実だったのか、男たちの顔が青ざめる。


「必要なら令状を取って来てやる。その代わり、お前らは全員ムショ送りだ。その上、この倉庫にあるホワイトフレークは全て押収だ。そうなると誰を怒らせることになるのか、その足りない頭でよく考えた方がいいぞ」


 そのことで男たちは動揺したようだった。


「どうする? ムショの中で生き延びられるとは思うなよ。お前たちは怒らせたら不味い相手を怒らせるんだ」


 トマスははったりをかましている。


 チェーリオ・カルタビアーノもドラッグカルテルも、こんなちんけな倉庫が抑えられたぐらいで関係者を殺したりなどしない。だが、男たちは完全にトマスの話術に嵌められている。そもそも、トマスはこの倉庫を調べる令状すら取れないだろうに。


「あんたと取引したら、ムショにはぶち込まれないのか?」


「そうなるかどうかはお前たちの行動次第だ。少なくとも俺はまだお前たちの味方だぞ。お前たちがボスに殺されないようにしてやっているんだからな」


「わ、分かった。通ってくれ」


 こうしてまんまとフェリクスたちは倉庫の中に乗り込んだ。


「目的の男はタツィオ・タッタリア。ホワイトフレークを扱っている売人のまとめ役だ。こいつから上納金が上に上がっていくシステムになっているんだが、この野郎は帳簿を改竄して、報告する儲けを少なくして、差額分を自分の懐に入れている」


「そいつの情報を“ガーネット”が?」


「ああ。“ガーネット”は手広くやっている。もしかすると組織内でチェーリオ・カルタビアーノよりドラッグビジネスについて知っているかもしれない」


 “ガーネット”というおとり捜査官はかなりのやり手らしい。カルタビアーノ・ファミリーの内情を探るどころか、末端組織のカルタビアーノ・ファミリーに対する不正まで把握しているとは。


 それだけの情報源があるならば、フリーダム・シティでのドラッグクライシスの解決は間近かもしれない。


「さあ、いくぞ」


「了解」


……………………

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